第2話 心がモヤモヤ
レシア王子の笑顔にメロメロになりながら、
混乱した頭で状況を整理する。
えっと、お父さんがレシア王子の知り合い…
元貴族ってホントだったんだ。
で、私のほうを見て逢いたかったって。
「あ、あのレシア王子様…」
ううう…まともに目を見れない。
私がもじもじしていると
「ミーシャ、ミーナの娘か。
成る程、雰囲気が彼女によく似てる。」
え?何でここでお母さんの名前が出てくるの?
「レシア様…」
お母さんがレシア王子の前にやってくる。
なんだろう?なんかいつもの
お母さんじゃないみたい?
「やあ、ミーナ。20年ぶりだね。
あの頃より美しくなった。」
レシア王子は懐かしむように微笑む。
ん?20年ぶり?
レシア王子は見た感じ20歳位に見えるけど
もしかして30歳近いのかな?
「レシア様はお変わりないですね。
あの時は申し訳ありませんでした。」
そういうとお母さんは道路にひざを付いて
レシア王子に土下座しようとする。
「やめてくれよ。もう気にしてない。
うん、せっかくだ。君達のカフェで
ひと休みさせてもらおうかな。」
レシア王子はお母さんの腕を取り
土下座をやめさせる。
「ミルアルド卿、貴方のおいしい紅茶
またご馳走してもらえるんだろ?」
レシア王子は笑顔でお父さんに話しかける。
どうしたんだろ…お父さんもお母さんも
何かレシア王子に負い目でもあるのかな?
その時先ほどの兵士がレシア王子の前に
やってきてひざまずき一礼をする。
「恐れながら!レシア王子様、このような
平民のカフェなどふさわしくないかと!」
「君達は隣の酒場で休憩してなよ。
僕なら大丈夫。それとも力ずくで止める?」
レシア王子を見るとさっきまでの笑顔ではなく
威厳と風格にあふれた鋭い目で兵士をにらんでいた。
「い、いえ!めっそうもございません!
しかし、お供もつけずに1人というのは!」
兵士は顔を真っ青にしながらも話を続ける。
「わかったよ。ウィルを連れて行く。
ウィル付いて来い。」
レシア王子がそういうと馬車に乗っていた
無表情の男の人が無言でレシア王子の前に
ひざまずき、一礼する。
結局お供の兵士達は隣の「喜びの子犬亭」に
レシア王子とウィルと呼ばれた人が
うちの猫カフェに来ることになった…。
何なの…状況についていけないんですけど!
平民の憩いの場、猫カフェ
「フォーチュンキャット」
普段は奥様方でワイワイしてるのに
皆さん王子が来るということで
お帰りになられたそうで…
うん。私でもそういう状況なら帰る。
貸切状態になったカフェのテーブルで
なぜか、私とレシア王子が向かい合って
座っていて私の頭の中は大混乱状態だ。
私の目の前にレシア王子がお父さんの
特製紅茶を飲んでいる。
飲み方も優雅だなあ…なんてじっと見ていると
「ミーシャ。そうじっと見られると
紅茶を飲みづらいんだけど?」
少し困ったような顔で笑いかけてくる。
「あ、え!その、レシア王子様って綺麗だなって!」
思わず本音を言ってしまったけど
そうじゃない!王子相手にいうことじゃないよ~
「綺麗か…」
あれ?レシア王子が私を見て黙ってしまった。
青と緑のオッドアイで見つめられると
その瞳に吸い込まれちゃうんじゃないかって
錯覚を起こしそうになる。
「ミーシャは今年でいくつになるんだい?」
レシア王子の突然の質問に私はびっくりしながら
「はい!来週の誕生日で16歳になります!」
とおもいっきり大きな声で答えてしまう。
レシア王子は驚いたあと肩を震わせ…
とても面白そうに笑い始める。
「っくっくっく…。そうなんだ。」
あれ?そんな面白かったかな?
「あ、あのう…?」
私が不安そうに覗き込むと
「ああ、ごめんごめん。若い頃の
君のお母さんを思い出してさ。」
お母さんの若い頃…
私はついレシア王子に聞いてしまった。
「レシア王子様ってお母さん達と
昔からの知り合いなんですか?」
レシア王子は少し困った顔をした後
「リューイとは同じ学園の同級生で
私が南地区を統治始めた頃に
ミーナと出会ったのさ。25年前かな?」
え…?どういうこと?
「僕はこう見えて46年生きている。」
ええ!?お父さんより年上!?
「王族は妖精王の血を受け継いでいてね。
常人より成長が遅く寿命がながいんだよ。
46年生きてるけど肉体的には22歳位
という計算で合ってるはずだけど。」
そんなこと『リュミエル全書』に書いてなかった!
私がパニックを起こしそうになっていると
「そうだ、明日でも僕の城に遊びに来ないかい?
あの湖を見せてあげたいし。」
え…王子様からのお誘い!?
な、何で私なの!?
私が両親に助けを求めるように視線を向けると
「ミーシャが良いならいっておいで。」
と笑顔で答えるお父さんと
「そうね…。ミーシャ、一度で良いから
あのお城に入ってみたいっていってたものね。」
少し心配そうな顔のお母さんの意見は
私の好きにしろってこと?
それなら毎日見ているあの城に
入ることができるなら!!
「はい!明日いきたいです!」
私は目を輝かせレシア王子に笑顔で答える。
「じゃあ、明日ウィルを迎えによこすから
可愛いドレスを用意しておくんだよ?」
可愛いドレス…なんてあったかな?
その日の夜ドレスはお母さんから借りることになり
初めて着るドレスに悪戦苦闘しつつも
明日の夢のような行事にワクワクしっぱなしだった。
だから2人の話していることなんて耳に
入ってなかった…。
「貴方…ミーシャに伝えるべきじゃないかしら。」
「ミーナ、大丈夫だよ。ここまで何もなかったんだ
あの子なら大丈夫さ。」
そして次の日、ワクワクしすぎて
夜中まで起きてたせいで…
「お母さん!どうして起こしてくれなかったの!」
着慣れないドレスの袖を引っ張りながら
半泣き状態で着替えをしている。
「起こしたわよ。ミーシャが今降りる~って
いったのにそのまま寝ちゃったんでしょ!」
バタバタしながらも何とか時間に間に合った。
といってもウィルさんは15分前からきてたので
待たせてしまってる状態だった。
「すいませんウィルさん!お待たせしました!」
ウィルさんはソファに座って待っていたが
猫達がウィルさんのひざにみんな乗っかってる!?
「あわわわわ!す、すみません!
こら、みんな!!迷惑でしょ!!」
「…問題ない。」
あれ?ウィルさん今笑わなかった?
目をこすってみてみたが無表情のままだった。
見間違いかな?
無事に出発することになったけど
ウィルさんに連れられてお城に向かう時も
ずっとドキドキだった。初めての馬車に
馬車から見る風景。まるでお姫様になったみたい。
そして城の門をこえて城の前にたどり着く。
「ふわああ…すごい。」
今まで遠くから見るだけだったお城が
目の前に、白い壁に光が反射して
お城が幻想的に見える。
庭の手入れもすごい…これがレシア王子のお城。
「よくきたね。さあ、中においで。」
ドアが開きレシア王子直々に出迎えてくれた。
私、こんな待遇でいていいの!?
「そのドレスとても似合うね。ミーナのかい?」
うう、レシア王子の微笑でもうご馳走様です!
「は、はい!お母さんから借りてきました!」
「成る程、さすが親子だ。さて、色々見て回ろうか?」
それから夢のような時間が過ぎた。
広いお城の中を色々まわり、昼食をご馳走になり
綺麗な庭も散策してそれをレシア王子が
横で微笑みながら話を聞いてくれる。
そしてレシア王子の目的地
城の奥にある湖へとたどり着く。
「ここ…夢で見た湖?」
間違いない…なんで私この湖知ってたの?
「覚えてない?まあまだ3才くらいだったからね。」
レシア王子が湖のそばにある木の幹をさする。
「私の名前…?」
木の幹には子供の字でミーシャと書かれていた。
「12年前、君はリューイと一緒にここに来ているんだ。」
12年前…リュミエル南地区に来たのがそれ位だったかも?
「その時、君とここで遊んだんだけど覚えてないかい?」
「その記憶はないんですけど…この前この湖で
王子様と一緒にいた夢を見ました。」
「そうか、じゃあ君が子供ながらプロポーズしたのは
覚えて…なさそうだね、」
3歳の私!ドンだけおませさんなの!?
レシア王子は34歳位よね…
「なんかすみません!」
「いや、子供のいう事だから気にしてない。
でも、見違えたよ。もう立派なレディだ。」
穏やかに微笑むレシア王子。でも、私は引っかかっていた。
王子は私を通して別の誰か。お母さんを重ねているんじゃ。
普通なら聞ける訳ないのに、私はやってしまった…。
「お母さんみたいな立派なレディですか…?」
言った後で後悔した。レシア王子の
寂しそうな微笑を見てしまったから。
沈黙が続く。どうしたら良いかわからずにいると
レシア王子が私に頭を下げてきたではないか!
「すまなかった。ミーシャのいう通りかもしれない。
ミーナ…君の母上に僕は昔、恋をしていたんだ。
その面影を君に求めていた…のだろう。」
レシア王子の寂しそうな微笑を見た私は
胸の奥がチクリと痛んだような気がした。
そして私はずるいことを言ってしまう。
「じゃあ、お詫びにまたデートしてください!」
「僕はかまわないが…」
「じゃ!約束です!!」
半ば強引に約束をする。デートは私の誕生日の
次の日にまたお城に招待してくれることになった。
家に帰った後、両親の顔を見づらい私は
夕食は食べてきたとウソをついて
部屋に戻ってくる。
ドレスを脱ぎ捨てそのままベッドに寝転がる。
正直レシア王子への憧れがそれ以上の何かに
なっていくのを感じている。
レシア王子の寂しそうな微笑を見たとき
なぜか私は王子のそばにいてあげたいと思った。
今までこんな気持ちになったことない…。
レシア王子の顔を思い浮かべると胸が苦しくなる。
私はモヤモヤした気持ちのまま眠りについた。
結局モヤモヤは晴れることなく。
胸の苦しさは日に日にひどくなっていき…
誰にも相談できずに時間だけが過ぎていった。
そして誕生日の朝、目が覚める。
胸のモヤモヤが一段とひどい。
起きあがろうとして、何か不思議な
違和感があった。
お尻のあたりに何かある…?長いひも?
何かわからないからぎゅっと握ってみる。
「ふみゃああ!?」
そのひもを握るとゾワゾワと悪寒が走る。
これってまさか…
「猫の尻尾?」
それだけじゃない…?なにか頭に違和感が。
おそるおそる机の上の手鏡でみると…
「にゃにこれ!?猫耳!?」
私、ミーシャ・ミルアルド。16歳の誕生日に
猫耳と尻尾が生えました…。
なにこれ!?どうなってるの!?




