第11話 私の愛はどこへ行けばいいですか?
「おはよう、今日はずいぶん遅い目覚めだね。」
私に呼び掛ける声に目を覚ます。
「あんた、本気で私をかくまうつもりなの?」
あれ?私が喋ってるのに私の声じゃない。
それに、体もいうことをきかない。
私が見つめる相手はレシア王子?
ううん、両目のエメラルドアイと長い耳は
レシア王子じゃない…でも懐かしい気がする。
「ああ、今更見捨てるなんてできない。
****もいい加減敵視するのは止めないか?」
今私のこと別の名前で呼んだんだけど、
何故かその名前を理解することが出来なかった。
「ふざけるな。お前たちに母様を殺されたんだ。
親父が死んだのは別にどうでもいいけど
母様の事は絶対許さない!人族なんて
私達亜人族の敵だ!!信用なんてできない!」
私は泣いていた。この記憶はなんだろう。
私であって私ではない気がする。
「ああ、お前の言う通りだ。今までは敵同士で
これからは手を取り合える関係になれればと
私は考えている。そのためにも****に
心を開いてもらえればと考えているんだがね。」
「…ふん。冗談じゃないよ。」
急に私は意識が遠くなっていく…
私は体から引きはがされる感覚に襲われる。
「ミーシャ!大丈夫か!」
次に意識を取り戻した時、目の前にお父さんが
目に涙をためながら顔を覗き込んでいた。
「お…お父さん…」
意識が戻ってくると同時に体の内側から
ズキズキ痛みが私の意識をはっきりさせてくれる。
「うう…これが呪いの反動…なの。」
私が苦しそうに顔をゆがめると私の胸に
誰かがそっと手を添える。
何か温かい感覚を感じる…これは癒しの魔法?
手を添えてくれていたのは…
「オシノさん…?どうしてここに?」
「やれやれ、私の癒しの力でないと回復しきれない。
相当根が深い呪いのようじゃな。」
オシノさんはエルフの状態になっている。
私に触れているからお婆さんの姿になれないようだ。
それに少し苦しそうにしている。私の呪いの反動を
オシノさんが受けているから…
「私のために…ごめんなさい。」
「気にするでない。我が友人の娘が大変な目にあって
見捨てるなんて出来ぬ相談じゃ。」
「本当にすまない、オシノ。俺の無茶な願いを
聞いてくれて。ミーシャの命を救ってくれてありがとう!」
お父さんはオシノさんに頭を下げている。
オシノさんはお父さんの友人だったんだ。
しばらくしたら体内の痛みが引いて
起き上がれるようになった。
「ふむ。なんとか中身の修復は終わったようじゃな。
両想いの呪いがここまでの反動だとは正直思わんかった。
ミーシャよ。悪いことは言わん。お主のためにも
両親のためにもレシア王子の事は諦めんか?」
オシノさんは優しい目で私をそう諭してくれる。
確かに、好意を持って抱きしめられただけで
あの苦しみということは今度同じことがあれば
私も命がないかもしれない。
「私…レシア王子の事を…あきらめ…」
最後まで言う前に涙が止まらなくなる。
オシノさんはため息をつくと私のエメラルドの
ペンダントを渡してくれる。
「よいか、このペンダントに我が魔力をつぎ込んだから
ある程度までならば呪いを抑えることが出来る。
じゃがな、根本の解決にはならん。
レシア王子と共に歩む道は吹雪の中薄氷の上を裸で
歩き続けるようなものじゃ。それだけは
覚悟の上で自分自身で決めるんじゃな。」
「オシノさん、ありがとうございます。」
「礼などいらん。では私は帰るが無理はまだ
してはいかんぞ?体は大事にな。」
オシノさんは老婆の姿に魔法で変身した後
部屋を出ていく。入れ違いになるように
お母さんが部屋に入ってくる。
「ミーシャ…よかった。心配したのよ…」
お母さんが私を抱きしめて号泣する。
「お母さん…ごめんなさい。」
「私の方こそ…ごめんなさい。」
しばらく2人で泣いていた…
「お父さん、レシア王子は…」
「あの後すぐ、帰ってもらったよ。あれから3日
経っているが毎日様子を見に来てくださったよ。
流石に会わせることはできないと帰ってもらった。」
あれから3日も?その間レシア王子が?
レシア王子の笑顔を思い出すと胸が苦しくなる。
私、どうしてここまでレシア王子のことが好きになったの。
実際に呪いの恐ろしさを知った今でも
好きであることを諦められない…。
「お父さんは、ミーシャの気持ちを優先させてあげよう
そう思っていた。だけど、やはり王族に娘を嫁がせる
それはやっぱりできないと改めて理解したよ。」
え…お父さん、それって…
「王子との付き合いは反対だ。父さんは
この店をたたんでこの国から出ていき
北の小国に行こうと思っている。」
「待って、お父さん待って。」
「娘が不幸になるとわかる相手に嫁がせる位なら
この国を捨てて家族3人つつましく生きていければ
父さんは満足なんだ。ミーシャもわかってくれるか?」
突然言い出した内容に頭が真っ白になる。
私はお母さんの方を見ると、お母さんもそっとうなずく。
「お母さんもお父さんの意見に賛成。
ミーシャが傷つく姿を見たくないわ。」
私は2人の心配そうな顔を見て何も言えなくなる。
両親への愛と、王子への愛。どちらを選べはいいの?
それからさらに3日が経ち、体調も元に戻ったのだけど
両親から仕事も外出も禁止された私は
自分の部屋でぼーっとしているしかなかった。
今日も何をするでもなくぼーっとしていると
ドアをノックする音が聞こえる。
「はい、お母さん?入っていいよ。」
ドアを開けて入ってきたのはお母さんではなく…
「まったく、いつまで閉じこもってるんですの?
仕方ないから来てあげましたわ!」
そこにいたのはシャルとサイガンさんでした。
「シャル…」
「友人のお見舞いなんて当然ですわ!
まったく、レシア王子に抱きしめてもらって
失神するだなんてあきれちゃいますわ。」
シャルの笑顔を見て私は涙が止まらなくなる。
「ちょっと!ミーシャ!!どうしたのよ!?」
「私…レシア王子の事…好きなの。でもダメなの。
シャル…ダメなんだよ…でも、一緒にいたいよぅ…」
私が泣きやむまでシャルは困った顔をしながらも
何も言わずにゆっくりと待ってくれていた。
「どう?落ち着いたのかしら?まったく。
いきなり泣き出すなんてびっくりかしら。」
サイガンさんがお茶のセットを出してお茶を用意
して私に差し出してくれる。
「ありがとうございます。」
「お気になさらずに。」
「まあ、今日のところはこれ以上の追求はしません。
今度私の別荘へ遊びに来なさいな。
そこで、色々お話してもらいますわ。」
シャルと私は静かな時間を過ごした。
彼女の優しさに感謝しながらも今後の事も
どうすべきかの決断に迫られていたのであった。




