08 迎撃(二)
戦闘回です。
俺の視界にマイルはいなかった。
リーダーのエマが、通路に入らなかった魔物達が潰走したことを伝えてくる。
しかし、遠方の魔物反応が動いてない事から、俺達は第二陣迎撃の準備をしなくてはならない。
このような中で、俺だけは広場中央から動くことができなかった。
ミズがこちらを指して、なにか大声を出しているのが見えた。
激しい痛みで視界が回転すると、自分の状態がもう何もわからなくなった。
この時には、少数の魔物が第二陣として動き出していた。
少数という事は、強力な魔物たちという可能性が高くなったのだ。
マイルのこと、忘れたくないな。
そう心から思った俺に、聞こえてきたもの。
いつも助けてくれる見えざるもの。それはマイルの事なのかもしれない。
それまでの絞られるような痛みが、潮が引くように下がっていくのを、ただただ感じていた。
「……待たせたな、フィリ。もう大丈夫だ」
「ばかマイル。ああ、まだ覚えていられた。よかった、おにいちゃん」
俺の痛みは、体の熱に変わっていた。あの痛みよりずいぶん良いが、高熱にうなされるような苦しさが続く。
見かねたマイルは、俺の首に何度か歯を立てたようだった。
そのたびに、少しだけ熱が引いていくのを感じた。
◆
マイルが俺のところに駆けつける、少し前。
少数の魔物の第二陣を察知したマイルとエマは、予定していた行動に移っていた。
トラップを仕掛けて、狭い通路の出口付近を封鎖するのだ。
盾のエドが守り、ショートソードのマイルが一体づつ魔物を広場に引き出す。
それを、俺とエマで一気に倒す作戦だった。
魔力を使い切ったミズは、回復を行う。可能なら盾のエドへの予備戦力だ。
マイルがエマに小規模爆弾を渡していると、俺が倒れていたので、ここから作戦が狂うことになる。
エマが急いでトラップを仕掛けた後、そのまま盾のエドと出口付近の封鎖を行う。
ミズはその後ろからの援護となった。
三人の連携がよかったので、混乱無く封鎖が成功した。ミズは俺のせいで泣きながらの行動だった。
本当にごめん。
しかし、こちらに突入してきた魔物が強すぎた。
マイルと俺がいても、広場に引き出すことは難しかっただろう。
戦闘では予想外の事がおこる。
これは魔物側でも言えることだった。
魔物側は主力の第一陣が壊滅したため、それを指揮していた大物と護衛の二体で強襲してきた。
圧倒する力で魔力の尽きた俺達を全滅させて、撤収するつもりだったようだ。
前衛はホーンドタイガー。大型の猛獣の頭に一角が生えた姿だ。角は魔力器官でもあって、爪の攻撃に雷撃を乗せてくる厄介な魔獣だという。
後衛は人型の真っ黒な何か。魔物側の指揮官で魔法士でもあるらしい。見た感じでは、人の分類に入らないような気がした。目が真っ赤に燃えているんだもん。
ホーンドタイガーは勢い良く狭い通路に入ると、出口側で封鎖に阻まれた。
自由に動く隙間が無いため、その攻撃力が生かされていない状態だ。
後衛の指揮官は、通路から充分に距離をとり、強力な遠距離魔法を唱え始めた。
先ほどの、意趣返しを狙っているのは明白だった。
魔法が完成すると、こちらの広場に魔法を投げ込まれ、俺達は封殺されてしまうのだ。
この時点で、対応できる事はほとんど無くなった。
しかし、前もってエマが仕掛けたトラップが、この状況を打破する事になる。
◆
「フィリ、まだ熱があるな。動けそうか?」
「はい。刺突は使えます。状況判断は難しいです」
「よし、ミズを守れ。近づく敵には牽制。刺突は指示があるまで使わない。いいな?」
了解を伝えると、マイルは封鎖地点に戻り、俺はミズのとなりに行った。
「ミズ、本当にごめん。がんばって守るから」
「ばか。それより体は大丈夫なの? つらくない? ほんとうにもう」
ミズのぐいぐい来る距離感は、フィリにも心地よかった。
生きて帰るぞ、と彼女とこぶしを軽くあわせた。ミズはちょっと男の子っぽいねと笑った。
マイルはエマに短い報告の後、短弓で通路のはるか向こうに陣取った指揮官を射った。
矢は遠距離用で、いつもの矢と比べて太く長い。射ると自身で加速する魔法がかかっている。
ビュン!
加速する矢は、ホーンドタイガーの脇をすり抜け、狭い通路に鋭くはしる。
狙いは、たがわず心臓へ。しかし指揮官の前で弾かれて、どこかに行ってしまった。
やはり、魔力障壁で阻まれてしまったのだ。
魔物の指揮官の詠唱が続いている。遠目でその口元が嗤ったように見えた。
確かにその詠唱が終わったとき、俺達は終わりになるだろう。
でも、もうちょっと足元にも気をつけないとね。
魔王軍団長の俺様が人間PTを蹂躙しようとしたら返り討ちにされた件 ~奴を幼女に変えてリベンジ中~
次回は明日28日に投稿予定です。