07 迎撃(一)
フィリ視点に戻ります。
少し短いです。
俺達は準備を整えて、狭い横道の奥に篭城の構えを取った。
かけた時間は多くなかったが、さまざまな提案を織り込んで、なかなかの作戦になっていると思う。
「ねえ、フィリ。男の子になりたいの?」
「う。もう忘れて。何でもするから許して。ね?」
さっきの事を魔法士のミズがつついてくる。俺が、何でもする、と言ったのを再度つかまえると嬉しそうに言う。
「女の子が、何でもするって言っちゃダメ。いいね?」
「あ、でも、わたし、生きて帰れたらフィリとイケナイことしたいかな」
「ミズ、イケナイことって何? それに破滅の呪文を口にしちゃダメだからね」
「うん、わかったよ。がんばろうね」
俺とミズは配置が近いため、このように気を紛らわしていたのだ。
ミズを挟んで反対側にいるリーダーのエマが、そろそろ来る、落ち着いてね、と言ってきた。
俺達は、力強く返事して前を見た。
狭い入り口に魔物が取り付いている。
俺の予想に反してそれは人型だった。ドーザーオークという頭部がない魔物で、筋力が大きく発達している。
大きさと速さは人並みとの事だが、俺よりも早いのかもしれない。
マイルと盾剣士のエドは、狭い出口をふさぐ様に配置されている。
そこから距離をとって、広場中央でエマ、ミズ、俺という陣容だ。
マイルは短弓で、ドーザーオークを射ち始めた。
作戦では、狭い入り口付近に何体かを倒して障害物にするのだ。もちろんどんどん乗り越えてくるし、それは分かっている。
三体ほど倒したところで、狭い通路内にドーザーが押し寄せてくる。仲間を倒されて怒り狂った魔物が、力任せにエドの盾を殴りつけた。
大きな音が、本格的な攻防の合図になった。
◆
狭い通路の出口では激しい戦闘が続いている。
エドは盾でドーザーオークを殴りつけ、通路内に跳ね戻した。
マイルはショートソードの受け止めを使って、制圧したドーザーを盾に後続を阻み続けていた。
それでも、一体二体と抜けてくる魔物がある。
これを迎撃するのが俺の役目だ。今も一体のドーザーが、マイルの右脇を抜け出てきたのだ。
「たあっ」
俺はミズのとなりから少し走りこんで、あと三歩のところでドーザーの腰部に刺突でつきこんだ。
スキルの勢いで、そのまま上方に剣を跳ね上げる。
マイルを後ろから攻撃しようとしたドーザーは、そのまま崩れるように倒れた。
「フィリ、良い仕事だ」
周囲の警戒後、マイルの足場からドーザーを引き出すと、そう声を掛けられた。
ほめられたら、うれしいんだからね! あれ、ちょっと変かな。
「戻るよ。おにいちゃん、ありがと」
とんたたん、と後ろに下がっていく。ミズは既に長い詠唱を始めている。そろそろ頃合いかもしれない。
それを計るのはリーダーのエマだ。
◆
狭い通路をふさいで、魔物を渋滞させる。入り口付近で倒した魔物が、邪魔になって栓になるだろう。
エマが、最大火力で撃て、とミズに合図した。
「威力倍加! フレイムジャベリン!!」
ミズの最大威力の魔法だ。攻撃力が高いが、遅く、真っ直ぐにしか飛ばない。持続距離も短めだった。
しかし、ここまでお膳立てされていると、その欠点がすべてが利点に変わる。
ミズから放たれた人の頭ほどの白い玉が、軽く走るほどの速さで真っすぐ狭い通路に向かう。
まぶしい玉ではないが、信じられないほどの熱量が封じられているのだ。
盾のエドとショートソードのマイルが、ちらりと目線を合わせると狭い出口から飛びのいた。
入れ違いに白い玉が通路に飛び込む。
ばりばりばり!
最初に玉に触れたドーザーは熱で上半身が蒸発した。それまで静穏だった玉は、急にあばれ狂ったように大量の熱を解放していく。
まぶしく輝く玉が渋滞したドーザーを粘土のように貫通して、通路の中央部に着弾した。
通路の出口付近のドーザーは一瞬で焼き尽くされた。
しかし、入り口付近の不運な魔物たちは、倒れた仲間に栓をされ、着弾した玉の高熱に長い時間焼かれる事になった。
ドーザーオークたちの声無き怨嗟が、フレイムジャベリンが巻き起こす振動に乗って、ここまで伝わってくる。
やがて、狭い通路の中央に灼熱した石畳が残って、その他には動くものが何も無かった。
俺はこの光景に、悪寒を覚えた。
たしかに魔物相手だが、効果が行き過ぎている。まるで虐殺だ。これは感傷なのだろうか。
いや、それでは無い。これは、そうだ。あの呪いの、痛みがくる前の嫌な感じに襲われているのだ。
「マイル!」
俺はパニックに陥ったのかも知れない。
一番の気がかりはマイルやミズたちとの記憶が、どこかにこぼれてしまう事だった。
次回は明日27日に投稿予定です。