06 役割(マイル視点)
今回までがマイル視点です。
やがて薄く壁を光らせながら、三人パーティがやってきた。
魔法職がいる場合、壁を光らせて照明を作る事ができるのだ。
戦いやすいが魔物からも認識されるため、大人数パーティ向けともいえる。
「あら、二人かしら。弓剣士に魔法士? 珍しいわね」
「詮索は抜きでお願いしたい。この先の情報がもらえるなら、すぐに立ち去る」
「この先はやめたほうがいいわ。ちょっとしたモンスターハウスになっている。私たちは出口に引き返しているところよ」
モンスターハウス? このような浅い階層で考えにくいことだ。しかし万が一という事もある。
今日は撤収して、ギルドで続報を待つべきだろうか。
「こんにちは。あなたかわいい子ね。名前は? その服いいね。魔法士かな?」
「ひゃ、あの、えっと」
フィリが向こうの小さいのに絡まれている。仕方が無いな。
「すまない。この子はフィリという。慣れていないので許して欲しい」
「それと、フィリは剣士だ。服はちょっとした趣味でな」
こちらのパーティが剣士と剣士である事は、はっきりさせておく。
緊急時に職を誤認していると、命にかかわるからだ。
「そうなんだね。わたしはミズ。魔法士だよ。あせらせてごめんね」
「ううん、こちらこそうまく答えられなくてごめんね。フィリといいます。よろしくね」
せっかくなので、順番に自己紹介して行く事にした。向こうのパーティは斥候、盾剣士、魔法士の構成であった。
リーダーのエマ。斥候で短剣使い。大柄の女性だ。
エド。前衛でショートソードと盾持ち。印象の薄い中背の男性。
ミズ。後衛の魔法士。小さな少女。
剣士にショートソードが多いのは、ダンジョンでの取り回しに優れているためだ。
野外では、剣のバリエーションがもっと増える。
それと剣士は併用スキルで、どう動くか大きく変わってくる物だ。
盾持ちは前衛だし、弓持ちは後衛寄りだ。
剣のみだと遊撃が多くなる。
その意味では自分は後衛寄りで、フィリは前衛寄りの遊撃となるのだろう。
◆
結局、エマのパーティに同行してダンジョンを抜ける事になった。
ここから出口まで、普通に歩くと30分ほどの距離だ。
これから入手した魔素は人数均等割り、と確認しあってから休息に入った。
ここで休息を入れるのは、エマのパーティに連戦による疲労があったからだ。
余裕がない状況であるほど、休息の機会を探す事が大切だと思う。
今は、探知持ちの私が周囲警戒を行って、他が休んでいる状況だ。
ミズは同じ年頃に見えるフィリにべったりだ。
斥候持ちのエマと周囲警戒を交代するころ、ダンジョンの奥方向から魔物の動きを感じた。
数がかなり多い。バラバラではなくて、まとまって来るのが分かる。
これは、方陣を組んでいるのか? 魔物が? まさか。
エマと合図しあって、即座に撤収をはじめる。出口に向かって、盾、短剣、フィリ、魔法、私だ。
追いつかれると拙いので、出口方向に強行突破する隊列となる。
フィリは魔法士ミズの護衛と前方への遊撃。私は後方牽制と距離報告だ。
追いつかれた時点で、並びをひっくり返えして防御を厚くする。
この時には、私が出口に向かって道を作る事になる。
さすがに、エマたちのパーティは熟練した動きだが、フィリが少々戸惑っている感じがする。
「フィリ、エマの指示を良く聞け。足りないところをケアする。いいな?」
「はい! わかりました!」
こうして即席の脱出パーティが動き出した。
◆
出口方向では、ホーンハウンドが少なかった。
これに、どこかに隠れていたマッドラビットが混じる程度だった。
「集中。ファイアーニードル!」
魔法士ミズが正確に撃ち抜くと、盾に食いついたホーンハウンドが吹き飛んで倒れた。
まだ若いのに、良い腕だ。小威力でも急所に集中させれば、数にも対抗できるだろう。
エマが素早く短剣で確殺すると、即座に移動を始める。
連携が取れた良いパーティだ。
「後方、距離が縮まっている。出口まで10分のところで追いつかれるぞ!」
私の報告に、エマは瞬時迷いを見せた。
隊列を崩してひた走れば、逃げ切れる可能性を考えたのだろう。
しかし、それは魔物の罠な気がする。隊列を崩したとたん今まで以上の速度で追尾され、蹂躙されるだろう。エマはどう判断するだろうか。
「隊列を崩すな。迎撃の場所を探して布陣する。マイル、トラップは用意できるか? 数を減らしたい」
「小規模爆弾が二本。ワイヤーが少し。他は無い。威力は場所次第だ」
リーダーのエマの心が決まったようだ。
良いリーダーじゃないか。
◆
その後、五分ほど進んだところで、横に入っていく狭い通路があった。
出口まで普通に歩いて15分の場所だ。
二人が並んでぎりぎり通れるような通路で、奥が大きな広場になっている。
その広場が行き止まりである事は、左手法で確認してある。
「エマ。この奥で篭城できるはずだ。出入りはこの通路だけだ」
「マイル、ここ以外に迎撃に適した候補地はあるか?」
「いや、無いな。ここなら挟撃されないし、出入り口も狭い。ここが最適だろう」
「ふむ。我々が止まると、魔物も動きを止める感じね。あらかじめ詰める距離を決めているのかも知れない」
「そうだとすると、出口に近いところで伏兵があるな」
エマと私が皆の顔を見渡す。ある意味ここが死地になるわけだ。
メンバーの精神状態を把握する必要があった。
「まあ、何とかしましょうか」と盾剣士のエド。
「フィリもいるし、怖いけどがんばるよ」と魔法士のミズ。
「ここを切り抜けられるような、強い男になりたい!」と剣士のフィリ。
「え?」
「え?」
「あー、フィリは混乱しているようだな。すまんが察して欲しい」
フィリは両手で顔を隠してしまっている。耳が真っ赤で、少しぷるぷるしていた。
ミズがくすくす笑い出すと、エドも破顔した。
エマが近寄ってきて、すまないな、助かった、とささやいてくる。
いやいや、これはフィリが自爆しただけなのだが……。雨過天晴というやつか。
「よし。迎撃作戦のアイディアを出すので、出来そうな所や疑問点など何でも出してくれ。最終判断はエマに頼むぞ」
その後の数分あまりの短い討議で、迎撃方法が決まっていった。
皆の表情が、時折出てくる笑いをはさんでどんどん上向いていく。
ああ、本当に良いパーティだ。
次回は明日26日に投稿予定です。