05 パーティ(マイル視点)
少々短いです。
「全周警戒。仕留めた直後がもっとも危険だ」
「は、はいっ」
「…よし、倒した魔物を端に移動する」
フィリが初めてスキルを使って、魔物を倒した。
少し手間取る展開を予想したが、綺麗に急所を取ってホーンハウンドを一撃にしたのだ。
魔物の傷口を見ると、心臓部分から胸下半分がぱっくり切り開かれている。
その割にほとんど出血していないのは、単なる切り傷では無いのだろう。魔力で切ったのか? いや、それは後で考えればよい。
ダンジョンで倒した魔物は、しばらくすると飲み込まれるように消えてしまう。この魔物もそうなるだろう。
このまま置いておく他無いのだが、端に寄せておく方が良いと私は考えている。
「余裕があれば装備を確認する。防具や武器に問題や違和感があれば、リーダーに必ず伝える」
「はい。わかりました。…装備に問題はありません」
「いい子だ」
フィリは指示について、簡潔に返してくる。本当に頭が良い子なのだろう。
パーティが良い緊張感を保っている事で、長く忘れていた高揚感が徐々によみがえって来た。
長い年月、私はずっと孤独だったと言う事なのだろうか。
◆
二体目のホーンハウンドを剣で止める。
私の剣スキル、受け止め、というものだ。
パリィと違って、相手の攻撃を止めた後、動きを制御する事ができる。
欠点は、大きすぎる攻撃には効果を発揮できない点だろうか。
「やっ」
かわいらしい声と共に、フィリが飛び込んでくる。刺突スキルだ。
小さなフィリの紺色マントやスカートがひるがえり、白くぴったりとしたインナーが大きく晒されてしまう。指摘するまで無く、スキルで突進するからだ。
今回も一撃でホーンハウンドが沈むと、教えられたとおり、フィリは周囲の警戒に入った。
魔法士衣装で飛ぶように突きこむ様は、小さな姿とあいまって可憐といってよかった。
それにしてもフィリの刺突の型は、いままで私が見た事が無いものだ。
横に伸ばした腕を体ごと回して、前に持ってくるような形。肩が前に出るのでリーチが増え、横向きの体は魔物に晒す面積を大きく減らすだろう。そして突きの初動が読みにくいという効果もある。
さらに、ここまでの二体とも急所に入って、一撃で倒せている事も驚きだ。
フィリの能力の器用Eと幸運Gでは、これ程のクリティカルヒットを出せないだろう。
刺突のスキル補正とすれば、凄まじい物がある。
フィリは本当に良いスキルを引き当てたようだ。
二体目の魔物も、このようにうまく倒せた。これで冒険者ギルドの試験、スキルを使い二体の魔物を倒せ、を達成する事ができたのだ。
◆
ホーンハウンドを見つけては倒していく。
まだ第一階層だからか、多くても同じ場所に三体だ。ぎりぎりから一体づつ引き寄せて倒していくのだ。
私の副武装の短剣を使えば、同時に二体まで足止めが出来る。
短弓を併用すれば、三体までの対処ができるだろう。
しかし、無理をする理由も必要もない。
それにしてもマッドラビットなどの、小さめの魔物と出会わないのが、少し気になる。
順調に六体目をフィリが倒したとき、他のパーティが近づくのが分かった。
私の探知スキルに集中して状況を見ていくと、迷い無くこちらに進路を向けている。
この動きだと、向こうもこちらの存在に気づいているようだ。
「フィリ。別パーティがこちらに来る。警戒しつつ待機」
「別パーティ? わかりました」
ギルドの冒険者同士で殺傷はご法度だ。殺した場合は双方のギルドカードで分かるため言い逃れも出来ないし、証言によっても重い罰を科せられる。
しかし、油断はよくないだろう。ルールには抜け道もあるのだから。
そばに来ていたフィリを見ると、何やらもじもじとしていた。
「どうした、トイレか?」
「ちがうし! この服がちょっと、その」
「かわいいから、堂々としておけ」
わしわしとフィリの小さな頭を撫でてやると、ううー、という鳴き声が聞こえてきた。
次回は明日25日に投稿予定です。