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04 初めてのダンジョン

ダンジョン回スタートです。


 冒険者ギルドにはランクというものがある。ギルドは契約した冒険者が魔物を倒したとき、放出される魔素を集めている。魔素はギルドカードに蓄えられ、冒険者がギルドに戻ったときに回収されるのだ。


 そのため、ギルドは納入された魔素の合計で、冒険者をランク付けしている。


 スキルや能力の判定と同じように、ランクも上位Aから下位Gまでの7段階に分けられている。

 ギルドで活動している全冒険者の、過去一ヶ月に納入された魔素量の中央値(・・・)がランクDとなる。


 ランクDがあれば必要な装備を整えたり、生活する為の資金には困らなくなるらしい。

 俺にとっては夢のようで、本当にうらやましい限りだ。


 しかしランクの本質は、期間を区切った相対評価である点だとマイルが言う。

 どんなに強くて実績があっても、ある期間に人と比べて魔素を納入できなければ、ランクはどんどん落ちてしまうのだ。


 「冒険者達に魔素集めを常に強いているんだ。これは、冷徹な制度だと思う」

 「そうなんだね。ランクの印象が少し変わったかも」


 機会があれば少しでも魔素を集めたい、となるように巧みに人を誘導するようなやり方だ。

 それが俺には、良いか悪いか判断できなかった。


 それでも俺達は正式登録の試験をクリアしつつ、同時に多くの魔素を集める事にしたのだ。


 ◆


 俺達は装備を整えた後、その足でダンジョン(地下迷宮)にやってきた。

 ダンジョンは街に隣接した場所にあった。


 「そもそも、街がこのダンジョンを目的に出来た。そう言った方が良いかもしれないな」

 「街にとって大事なのはわかったけど、魔物が街をおそったりしないの?」

 「そうだな。第一階層は念入りに掃討されているんだが、それでもたまに出てきて大騒ぎになるな」

 「ぼくたちが魔物を狩るのは、それを防ぐ意味もあるんだね」


 マイルの奴が、妙に優しい目で見ているのが気になるが、まあいいだろう。


 奴は俺の口調が砕けてきた事を、好ましく思ったのかもしれない。違うかもしれないが。

 俺が奴にほだされてきた、という訳ではないんだからな!


 ◆


 ひらけた場所に、古びた石造りの建物があった。真四角といった外観で窓は無く苔むしている。

 ひとつだけある入り口の前に、冒険者ギルドの検問所があった。


 ここで、ギルドカードの照合と帰着時刻の登録を行うのだ。

 もしも入場者が戻らない場合、捜索隊がギルドから派遣される。これは人道主義というより、カードの魔素回収がギルドの本音かもしれない。


 「入場はマイルとフィリ。パーティ申請受理。帰着時刻は本日18時。約三時間です。ご武運を」

 「受付感謝する。後はよろしく頼む」


 マイルが建物の中の階段を先に降りてから、少し経って合図があった。

 慎重に降りて行きダンジョンに入ると、平坦な道のりが先へと続いているのが見える。俺達は暗視の目薬をさしているため、薄暗いがある程度の視野を得る事が出来るのだ。


 「床がきれいな石畳になっている。誰かが作ったのかな?」

 「大昔の要塞だったという話があるな。今は魔物のすみかというわけだ」


 俺はうんうんとうなずいた。小さな声といっても、あまりしゃべるのは良くないだろう。


 俺達は幅の広い通路を、慎重に進んで行く。

 先頭はマイルだ。探知を持っているので探りながら進んでいく。右手三歩後ろに俺が続いた。


 ◆


 道は次々と枝分かれしているが、アップダウンはなかった。


 床はきれいな石畳のままだ。その石に細かい模様が入っている事に俺は気づいた。

 それにしても、誰かが掃除でもしているのだろうか?


 ときおり帰路方向が、薄く光る矢印で壁に描かれている。大体の距離まで書かれていて分かりやすいなと思う。


 マイルは左の壁伝いに、枝分かれしている道を選んでいるようだ。

 これは迷わないように迷路で左手を壁につけて歩く、左手法と言われるものだとマイルがささやいた。

 右手でないのは、たぶん武器を握っているから、かもしれない。


 ついに先を進むマイルが、前方に魔物を発見した。

 中型犬に小さな角がついたようなホーンハウンドだ。数は1で都合が良かった。


 「フィリ。足止めするから横から攻撃。落ち着けば大丈夫だ。戻るまでここで後方警戒」

 「はい」


 お互い小さな声で指示を交わす。マイルはダンジョンに入ってから、人が変わったように集中している。


 マイルは少し進むと、篭手の金具をショートソードの持ち手に合わせて、ちいさな音を出した。

 ホーンハウンドは、ぴくりと頭を動かすと、驚く速さでこちらに向かってきた。


 赤黒く光る目と、開かれた(あぎと)。刃物のように見える並んだ牙。足爪が石畳をたたく音が恐ろしげに聞こえる。

 まだ遠いのに、かなりな危険度だと感じられる圧力がある。


 マイルはするすると俺の近くまで下がってから、ホーンハウンドの噛み付きを剣で受けた。

 開かれた顎に、剣を滑り込ませたのだ。

 そのまま剣を操って、ホーンハウンドの口から剣を外させない動きで、完全にこれを受け切った。


 すごい! そんな事ができるんだ。

 太った中年男にしか見えないマイルが、やけにかっこよく感じられる。


 俺のやるべき事は、分かっている。

 これも降りてきた知識なんだろう。攻撃すると心に決めたとたん、どんどん湧き出るような感じなのだ。


 手にした短いショートソードで魔物の胸をまっすぐ指し示す。体は横向きになった。リーチが足りないからだ。

 動くホーンハウンドが、数瞬後に止まる位置が分かる。


 そのまま三歩の距離を突きこんだ。


 魔物との距離はたった一歩で埋まり、剣は胸部に突き刺さりながら下側に抜けていった。

 ホーンハウンドは心臓から胸下半分を切断され、そのまま息絶えた。


 これがスキルを使うという事か。

 確か刺突というスキルだったが、実際の威力は俺の想像を大きく超えたものだった。


 「良いスキルだ」


 マイルの短い言葉に、俺の心臓がどきんとはねた。

 奴に褒められるのはしゃくだが、同時に手放したくない嬉しさもあったのだ。


次回は明日24日に投稿予定です。

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