03 武器と防具と
今回は事前準備で次回からダンジョンに行きます。
「惜しい、とはこの事か。しかしな、これはちょっと凄いともいえる」
初期スキルと能力の結果が書かれた細長い木の板を、マイルの奴はくるくると指でもてあそんだ。
俺は若干うなだれ気味だ。予想したものと違う結果になったからだ。
【フィリ】
スキル
剣術マスタリー:E
・刺突
魔法マスタリー:計測できない
弓術マスタリー:計測できない
能力
筋力:G
俊敏:E
頑丈:G
魔力:SS
器用:E
幸運:G
マスタリーが出ているのにGすら付かないのは、非常に珍しいとの事だった。
それが二つもあるのだ。これにはルルお姉さんも、困惑した顔を隠せなかった。
ちなみに評価は上位Aから下位Gまでの7段階で、SやSSはその上の特別枠になるらしい。
登録された全冒険者の中央値がDで、その下のEが実戦で使える下限という目安も補足説明された。
「つまり、使えそうなのは剣術のみだが、威力は期待できない…という事だな」
「能力と若干合わないスキルが出たが、なあに、ギルドでランクが上がれば、有用なスキルが降ってくる事もあるから気を落とすな」
歩きながら話すマイルに保有スキルをたずねてみると、直剣と短弓、そして探知が少し、だそうだ。
俺は自分の魔力SS判定に驚いたし非常に嬉しかったが、根本的にスキルが間違っている気がする。
ぜひとも、スキルの振りなおしを要求したい!
「声に出ているぞ。ちなみにスキルの振りなおしは出来ないからな」
そう言いながらマイルの手が、素早く俺の頭を確保した。
奴の俊敏は、俺のE判定を大きく上回るようだ。分かっていたが、少し悔しい気がした。
◆
俺たちは冒険者ギルドの、正式登録のための試験に向かっているはずだった。
しかし、ここはギルドを出て少し歩いた先にある、大きな武器屋の店先だ。
「武器も無しに戦えないだろう? ここで揃えてしまおう」
「マイル兄ちゃん、ありがとう!」
「お兄ちゃんと呼べ、と言ったろうに。よし、入るぞ」
武器か。俺の心は男なので、なにかとわくわくが止まらない。
マイルはこの店のどこに何があるのか分かるのか、ずんずんと奥に入っていく。
陳列棚は通路から少し離してあるようだ。刃物やとんがりもあるので、安全対策だろうか。
少し歩いて俺達は、ようやく剣が大量に陳列された棚までやってきた。
「おにいちゃん。どの武器がいいか何となく判る気がするよ」
「そうだな。剣スキルのEがあれば、自分に最適な武器が選べるはずだ。さあ、どうだ?」
俺は陳列された武器を、端からどんどん流し見していく。選ぶべきものは、必ずピンとくるはずだという確信めいた考えがあった。攻撃力の高いものは自分の筋力が足りていない。長くても軽いものは何とか扱えそうだが、ピンと来ない。
最終的に目が止まったのは、無骨なショートソードだった。普通よりずいぶん短く、そして肉厚で幅も広く作られたものだ。
店員さんを呼んで手に取ると、手になじんで軽いように感じた。
「ああ、それはな、自分にぴったりな武器だと軽く感じるんだ。最初から見つかるのはラッキーだったな」
「そうなんですね。ぼくはこの武器がいいです。おにいちゃん、おねがいできますか?」
マイルは、よかろう、と応じてショートソードを受け取った。
予備の武装も必要だなと言いながら、結局二本を購入した。しめて銀貨25枚となった。
俺の思い出せた範囲で、こんな大金見た事が無かった。うう、変にドキドキしてきたよ。
「ぼくにこんな大金使って、本当にいいの?」
「必要だから買うんだ。お前はどんと構えていればいい。それに次は…」
マイルが少し、にやにやしている気がする。
あれ、ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。
◆
武器屋の次は防具屋だった。
先ほどと違って、狭い道沿いに有る小さなお店だ。外からは何が売っているのか分かりづらい。
マイルは遠慮せずに、店の中に入っていく。
「おう、例のものは出来ているか?」
「ああ、あんたの注文以上のものが用意できたさね。今準備するよ」
店主と思われる妙齢の女性が、奥に引っ込んでいった。
店内に入っても、何を売っているのかよくわからなかった。陳列されているものは、何かの乾物だったりアクセサリーだったりと見境が無い。
こんなところに、防具が売っているのだろうか? うーん考えても良く分からない。
「あんたがフィリだね。こっちにおいで」
「あっ」
戻った女性に、ぐいぐいと小部屋に連れ込まれてしまった。マイルの奴が、遠くでひらひらと手を振っているのが見えた。え? なにこれ。
◆
それからの事は、ちょっと筆舌に尽くしがたい。
いや、その、恥ずかしくて。ごめん…本当にわかってほしい。
その後、無理やり着替えさせられた俺が、小部屋の端から顔を出してマイルの奴を探した。
恨みがましくにらんでやったが、涙目だったからか寄ってきた奴に撫でられてしまった。
「やはり防具は奢るべきだな。本当にいい仕事だ。最上級物として支払おう」
「毎度あり。満足してもらえたなら本望さね。おまけに靴と剣のサヤをつけるよ」
俺が今着ているのは、魔法士用の防具だ。防具といっても服と大差ない軽さと着心地なのだ。
要求筋力が低いので多くの者が装備できるが、さまざまな事に魔力を消費してしまうらしい。
俺的に問題があるとすれば、その防具のデザインと露出ぐあいだろうか。
「ふむ。背の低いフィリに良く似合っているな。白色のぴったりとした水着のようなインナーに、膨らみかけの曲線。ふとももの半ばまでしかない紺のプリーツスカートが、それに対比して複雑な形を織り成している。そこに一本だけ縦に入った白いラインも魅力的だ」
「太もも丈の黒のサイハイソックスとの間に出ている肌色が、ここに手を入れて欲しいと言っているようだ」
「おにいちゃん、ぼくそんなこと言ってないよね!?」
「上着は二の腕までしかない紺のドレープマントで、首元は赤のリボンタイで飾られている」
「後ろ姿は肩甲骨までドレープマントで覆われていて、白く細い背中や、紺色のスカートに覆われた腰の線が幼くも女性的である」
「ぼ、ぼく…」
「フィリの印象を引き立てる、かわいい装備だ。もちろんかわいいだけではなく、防御補正、回避補正も比較的大きいぞ。装備者の魔力を使ってサイズ調整や自動洗浄もする真の上級装備だな」
言葉だけでここまで追い詰められるなんて、思いもしなかった。
俺は言葉を発しようとするが、はくはくと口を動かすのが精一杯だ。体中が熱くなっている。これでは顔も真っ赤になっているだろう。
マイルは俺の姿をこと細かに品評して満足したのか、両手でやさしく俺の顔をつつむと抱き寄せてきた。
「防具は大事なんだ。いくらかけても惜しい事なんか無い」
「…おにい、ちゃん?」
「今度は守ってやるからな」
どういう事か聞こうと思ったとき、マイルは支払いのため離れて行った。
大金貨8枚という金額が聞こえてきて、俺の頭の中は完全に白くなってしまった。
見通しが付いたため、連日投稿に切り替えます。
次回は23日に投稿予定です。