02 冒険者ギルド
同時掲載の2話目です。
俺の名前は、フィリと決まった。
そもそも名前が思い出せなかったのだ。するとマイルの奴が、それならフィリという名前にしよう、と言い出した。どうやら思い入れの有る名前らしい。
男らしい名前が希望だったが、マイルの言う事を何でもすると約束していたし、奴がうれしそうなのは悪くないと思ってしまったのだ。
「フィリ、今日は冒険者ギルドに行くぞ」
「マ…おにいちゃん、冒険者だと言っていましたよね。お仕事ですか?」
「フィリを冒険者として登録する。一緒に暮らして行きたいからな」
マイルの言いたい事は分かる。小さな女の子が定住先もなしに、保護者とばらばらに生活をする事は危険だからだ。俺の場合、呪いの対応をどうするかという問題も有る。
お金で何とか出来る事かもしれないが、それよりも冒険者として身近で守られる方がずっと良いだろう。
「わかりました。ぼくも冒険者になりたいです」
「そうか、そうか。ほんとかわいい奴だな」
マイルの奴の手が伸びてくる。想像以上に素早く、あっという間に俺は奴の手の中だ。
くそっ、撫でないでくれ。やめて。ほんとうに、やめ。ううー。
マイルの奴は、ひとしきり俺を堪能するとやっと離れていった。
髪の毛がぐしゃぐしゃだ。もういちどブラシを通さないと、これでは外に行けそうに無い。
ようやく艶を取り戻したショートボブの黒髪は、今の俺のちょっとした自慢になっている。
俺はふらふらとした足取りで、ブラシを取りに向うのだった。
◆
冒険者ギルドについたのは、昼過ぎになってからだった。
なんでも、この時間がもっとも空いているとのこと。混んだ時間だと何時間か待たされる事もあるという。
ギルドの建物は、街の中央通り十字路の角という一等地に建つ、レンガ造りのおしゃれな建物だった。
高さも三階まであって、とても大きい。これに大変なお金がかかっているように見えた。
俺は、はえー、と変な声をたててしまいマイルの奴に笑われてしまった。不覚である。
建物に入ると、広いロビーが目に飛び込んできた。
磨かれた床、そして奥にカウンターがあり窓口がたくさん並んでいる。人はまばらだ。
俺の背が低いせいか、どうも床の具合が気になってしまう。
「フィリ、こっちだ」
マイルが窓口の一つに取り付いていた。そうだ。これから冒険者の登録をするのだった。
窓口での説明によると、冒険者になるにはいくつかの手順が必要になる。
ギルドとの契約、仮ギルドカードの作成、初期スキルと能力の確認、正式登録のための試験、といったものだ。
今は昼下がりだが、夕方には試験まで終わるとのこと。大掛かりにならなくて俺は少しほっとした。
そういえば、今日はまだ…してなかったな。
早めに頼んでおくほうが良いだろうか。そんな事を考えていたら、二階の個室に呼び出されたようだった。
「おにいちゃん、いっしょに来てもらえますか? ちょっと心配なんです」
「いいぞ。普通は一人で行くのだが、まあ、保護者として付いていけば大丈夫だろう」
俺たちが個室に入ると、若いお姉さんが作りつけカウンターの向こうに座っていた。
どうやら、彼女が俺の登録担当らしい。
「こんにちは。フィリといいます。登録よろしくおねがいします」
「ようこそ冒険者ギルドへ。私はあなたの担当のルルです。今日は正式登録までご案内していきますね」
こうして、俺の冒険者登録が始まった。
◆
ギルドとの契約には、契約内容の読み上げがあり、これに一番時間がかかったように感じた。
魔物に関することは基本的に自己責任、という事になっていた。
人同士の殺傷行為には厳しい罰則があって、過去にいろいろ問題があった事を伺わせてくる。
俺が承認の印として水晶の板に手のひらを触れると、ぱあっとまぶしく光って思わず目を閉じてしまった。
たくさんの歯車がかみ合って、ごりっと動くような、ふしぎな感覚が通り過ぎていく。
「契約が完了しました」
お姉さんはそう言うと、ギルドカードを両手で差し出してきた。
早いですね、と驚くと、読み上げのときに準備していました、とにこやかに答えが返ってきた。
カードの中央には、49021014 フィリ、と刻印されている。
形状は他でもよく見るカードサイズだ。水晶のように透明で向こう側が見える。そして、わずかに柔軟性があるようだ。仮扱いだが、正式なギルドカードなので無くさないように、と念押しもされてしまった。
防具のカードポケットに入れると良いですよ、とお姉さんが続ける。
皆が必ず持ち歩くので、専用の収納場所が用意されているらしい。
「次はフィリさんの初期スキルと能力を確認します」
「初期スキルは、先ほどのギルド契約時にフィリさんが授かっている物になります」
お姉さんの説明では、スキルとは天啓のように降ってくるものらしい。
頭や体が知っていたことを突然思い出す、という感覚に近いという。
「もちろんその後の修練は大切ですが、いきなり使っても必ず効果を発揮します」
「まるで見えない者の補助を受けているような感覚がするでしょう。このような事から冒険者ギルドでは、見えざるもの、神々への信仰が大変篤いのです」
説明しながらも、お姉さんは作業の手を止めていない。
俺はこのルルというお姉さんの手際に、驚きを隠せなかった。どのような仕事であっても、極めるということは素晴らしい事だと思う。
「フィリさんの、初期スキルと能力が確認できました」
お姉さんの言葉に、俺ははっとして背筋をのばしたのだった。
次回は22日に投稿予定です。