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社会人のマナー

「さて、今日はいよいよ勇者との会談ですが……大丈夫ですか?」

「な、ななな何がだ」

「何がも何も、先程から震えが止まらないようですが」

「うう……だって勇者めちゃくちゃ怖いんだぞ!? あいつら挨拶もなしにいきなり斬りかかってくるんだぞ!? 社会人のマナー的にもっとこう……前置きとか社交辞令とかあるだろ!」

「『こんにちは、今日はいいお天気ですね』と言って斬りかかってくる方が恐ろしいのでは? まあ、今日は和平のための会談ですし、間違っても戦闘にはならないので大丈夫でしょう」

「そんなの信じられるか! あいつら、この間だって急に来て急に挑んで来たし! 社会人だったらアポくらい取ってくれよ!」

「アポという言葉を知っていたんですね。驚きです」

「この間弟に『会談まだ?』って聞いたら、『各国首脳のアポがそう簡単に取れる訳がないだろう、バカが』って怒られたからな」

「そんな『夕飯まだ?』のようなノリで聞かれれば、怒りたくもなるでしょうね」

「ついでに社会人の心得とかマナーとかをめっちゃ説教された……あれは怖かった……」

「それで先程から社会人のマナーがどうこう言ってたんですか。しかし、弟君に仕事を丸投げしているあなたが言うことではないと思いますよ」

「丸投げはしてないだろ、ちゃんとこうやって会談とか会見とかしてるし」

「あなたが三十分の会談をするために、弟君は三十日以上は準備や段取りに奔走してますよ。最近立て続けでしたから、さぞ大変だったでしょうね」

「……もしかして、最近あいつが鬼みたいに機嫌悪いのってそれが原因か?」

「さあ、どうでしょう」

「うう……ちゃんとお土産買ってって後で謝ろう……」

「いいんじゃないですか。また『バカが』と言われて窓から放り投げられないといいですね」

「怖いこと言うなよ! ……でも、勇者よりそっちの方が怖いから勇者との会談は大したことない気がしてきたな。よし、さっさと終わりにするか!」

「……その前向きさと変にポジティブなところは、社会人に最も必要な素質かもしれませんね」


物語としてのオチはありませんが、これにて完結です。

拙いお話をここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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