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あの聞こえる声

 今日もまたあの声が聞こえる。


 この時間になると毎日

 あたたかく、やさしい、だからこそ、悲しみと苦しみが増す、

 あの声が聞こえてくる。


 探しつづけて今日で1年10ヶ月13日。

 視界の右下に表示されたカレンダーが、あの日からの正確な日数をカウントしている。


「カレンダーオフ」


 コールするとカレンダーは、小さな電子音と共に消えた。


 ワイバーンがドラゴン種の特徴である鋭い爪で襲いかかってきた。

 静かに動き出し目の前に現れたワイバーンに剣をふりかざす。

 一瞬にして切り下ろし、更に間髪入れずに切り上げる連撃。

 ワイバーンは、胴体、首、腕がちぎれ飛ぶと同時に、結晶が砕けるように青い光を放ちながら消滅した。


 この世界で強敵の部類に入るワイバーンとの戦闘でさえ準備運動にもならない。

 毎日、毎日、繰り返し一年以上も丸一日、同じゲームを繰り返しているのだから当然だ。


 開始から3ヶ月ほどで、この世界の魔王と言われる存在は倒しその3ヶ月後にはゲームおきまりの裏ボスさえ倒してしまった。

 そして、あと数日でこの世界の全ての場所を探索したことになる。


 それでも毎日決まった時間に聞こえるあの声の手がかりはつかめない。

 1年10ヶ月以上も前のことなのに、目をつぶると昨日のことのように思い出せる。



---



「だ~れだ?」


 少しひんやりとした手で後ろから急に目隠しをされたかと思うと明らかに聞きなれた声で、なぞなぞとも言えないわかりきったことを聞いてくる。


 (そこがちょっとかわいいんだが……)


「マミだろ?」

「お! 正解!」


 マミは満面の笑みで、こちらが恥ずかしくなるぐらいまっすぐ目を見てきた。

 高校生にもなって、それも教室の中で恥ずかしいやら、かわいい彼女といちゃついているのをまわりに見せつけて優越感みたいな複雑な気持ちになる。


 まだ、手も握ったことが無いけど一応、付き合っている仲だ。

 家が近所で小さな頃から親の付き合いなどで何かと一緒に居た。

 小学校、中学校、高校とずっと一緒だ。

 将来は科学者を夢見て、それなりに勉強しつつも趣味はプログラミングかゲームという明らかに

 内向的でオタクな僕だった。

 明るく元気でクラスでもモテていたマミが告白して来た時はビックリした。


「ねえ? ソウ君」


 マミが突然ゲームをしている僕に話かけてきた。


 高校に入って僕の部屋に来ることが少なくなったマミが、今日は突然部屋に来ると言ってきた。

 何かしら相談でもあるかと予想していた僕は最新式のVRゲーム用ヘッドギアを外して、ちゃんと話を聞けるような態勢を作った。


「ねえ? 高校入って彼女出来た?」

「出来るわけないだろ。だいたい、いつも一緒に居るからわかってるだろ」


 多少は深刻な悩みでも話してくるかと思ってた僕は、普段の雑談の延長のような質問にちょっとイラっとしてしまった。


「そうだよね」


 マミは少しうれしそうに微笑んだ。


「じゃあ、私がもし付き合ってって言ったら付き合ってくれる?」

「ああ、いいよ」


 どうせ冗談だろう。僕は適当に答えた。

 早くゲームを再開したい。


「やったあああああああ」


 マミは、うれしがる子犬のようにあたりを走り回った。


「今日からソウくんとマミは彼氏彼女だから!」

「絶対だからね!」



---



 あの声を今は直接聞くことが出来ない。

 しかし、毎日決まった時間に頭の中に響くあの聞こえる声は、マミの声に違いない。


 マミの声を今は直接聞くことが出来ない。

 しかし、毎日決まった時間に頭の中に響くあの聞こえる声は、マミの声に違いない。


 マミが目の前から居なくなってから、本当に好きだったんだと実感するようになった。

 そして唯一残された手がかりである毎日決まった時間に頭の中に響く声。

 僕のマミへの好きな気持ちと悲しい気持ちを大きくしていく。


 このVR世界は現実世界を10分の1の大きさに縮小した地球をベースとしている。

 地球の大きさを10分の1としているが人や建物の大きさは現実世界と同じスケールだ。

 小さな地球が仮想現実の世界に存在しているのだ。


 都市は城壁やバリア、魔法壁など各国ごとに外界からは守られている。

 都市以外ではプレイヤーを襲う様々なモンスターが出現する。


 ワイバーンのような空想世界のモンスターも居れば、現実世界のライオンやクマに似たモンスターも存在しリアリティーも重視されている。


 今日の探索をはじめて18時間ほどたっただろうか?

 僕は今日の探索に見切りをつけて街の宿屋に戻った。

 ベッドに倒れ込むとコールした。


「ログアウト」


 もうずっと寝る時と食べる時以外はログインする生活をずっと繰り返している。

 このゲームは理論上一生をゲームの世界で過ごしても肉体的には問題が起きないらしい。


 2020年から急速に発展した量子コンピューターは2037年現在、現実とまったく同じ精度でありとあらゆるもののシミュレートを可能にしていた。

 現実との違いは、世界の構築が時空上で展開されているか、コンピューターの基板上で展開されているかだけだ。 どちらも量子のふるまいの結果によるものだと考えると、もはや2つの世界に違いは無いのかもしれない。


 そして、その科学技術の集大成として作られたのが、僕がマミを探している世界VRMMORPG『アース』だ。

 この『アース』は現実の10分の1に縮尺した地球が、あくまでもゲームとして作られている。


 しかし、将来的には1分の1スケールで現実全てをシミュレートし、あらゆる予測や実験を行える仮想現実世界を目指しているらしい。

 今は事故により表向きの開発は停止している。

 僕だけが、たった一人でデバッグを続けている状況だ。


「絶対にマミを探しだしてみせる。」


 眠りに落ちる直前、昨日と同じ決意をした。



---



「ログイン」


 目覚めると同時に『アース』へとログインした。


「クロック」


 視界の右下に時計が表示される。時間も完全に現実と連動している。


 現在、7:00


 あと3時間後の10:00に、マミの声が聞こえてくるはずだ。


 今日の探索場所は現実世界のニュージーランドのオークランド最北端の地『ケープレインガ』に該当する場所だ。

 現実世界でニュージーランドに位置するこの国の探索で、この世界を全て行き尽くしたことになる。


「テレポートオーバー ケープレインガ」


 海へ飛び出した岬に2階建ての家ぐらいの大きさの灯台が見えた。

 まるで灯台が海へ飛び出しているように背景には大きな海の地平線が広がっている。

 ゲームに良くあるラスボスへの一本道のような灯台へと続く一本道を一歩づつ進みながら期待がこみ上げる。


 灯台の中でマミが祈りを捧げるように毎日僕に語りかけているんじゃないか?

 そして、その祈りが毎日聞こえるんじゃないか?

 僕は期待を胸に前へ進んだ。

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