宇宙の最後
今や宇宙唯一の惑星は砂や岩から出来た寂しい星だった。
大気は極めて薄く、海どころか水たまりすらも期待できない。
もっとも、空気も水も宇宙船に蓄えられているので、宇宙船内で暮らしていくだけなら問題はない。
資源を採掘する為に、宇宙船からロボットが射出される。エネルギー不足の為、特に必要なのは核燃料だが、惑星規模からあまり期待できない。
それ以外にも金属等の資源も蓄えておく必要がある。
惑星に降下したロボットはプログラムされた通りに採掘を始める。それを確認し、恒星へ船首を向けた。
恒星方向へある程度進むと12枚のソーラーパネルを広げる。
少しでも多くのエネルギーを得る必要があるからだが、恒星の光は僅かな為、宇宙船が消費しているエネルギーの方が多く、エネルギーを補給するには至らない。
宇宙船から恒星に向かって衛星を射出する。
この衛星は出来る限り恒星に近づいてエネルギーを奪う為の衛星だ。奪ったエネルギーは宇宙船に送られる。
この衛星により宇宙船は恒星間移動で消費したエネルギーを少しでも多く回復させる必要がある。
恒星系に到達して直後に行う作業は終了した。
エネルギーを回復するにしろ、資源を入手するにしろ時間が掛かる。
暫くは恒星を周回しつつ、その時が来るのを待つ事になる。
「作業は順調に進んでいる」
ルーカスがアダムに報告する。
アダムはトレーニングルームで体を鍛えていた。
「順調なら報告は要らない」
アダムはルーカスを見る事なくトレーニングを続けている。
ルーカスが誰もいないコントロールルームに戻る。
エバもマリアも作業を見守ろうとはしない。
確かに問題が発生した時に判断するのがクルーの仕事だが、無関心過ぎる。いやルーカスが心配性なだけなのかも知れない。
ルーカスは仕事熱心なL13に問いかける。
「L13。これで現在行うべき作業は完了したんだよな。次の作業はどうなっているんだ?」
『今はただ待つだけです。惑星の資源を確保したら、惑星を粉砕し恒星に衝突させます。そうする事で少しはエネルギーを多く入手できるでしょう』
「そうか。これで宇宙も寂しくなるな。まあ、テラフォーミング出来ない惑星がなくなったところで心が痛むこともないが」
『恒星からエネルギーを確保した後は恒星を破壊する予定ですが、エネルギーがフルチャージ出来ないまま恒星のエネルギーが尽きてしまう計算です』
「計画に支障は?」
『予想では船内のエネルギー残量が約92パーセントとなり、計画に最低限必要とされるエネルギーの110パーセント程度になる予定です』
「計画に余裕があるとはいえ想定外の問題が少しでも発生すれば、失敗する可能性が高まる……か」
衛星によってエネルギーを奪われていく恒星は徐々に光を失っていき、ついに宇宙が真っ暗になった。
その後には光を発しなくなった星が、僅かな熱を放出している。
惑星を破壊したロボットと惑星にあった物資を回収する。その後、ロボットを恒星だった星に向かわせる。
勿論、資源の確保と粉砕が目的だ。
コントロールルームにはアダムもエバもマリアも当然ルーカスも集まっている。
「いよいよ全ての星がなくなるのね」
マリアは射出されたロボットを見送りながら呟く。
隣にいたルーカスがマリアの呟きに反応する。
「そうだね。でもこれからが大変だ。人類を再び繁栄させなければならない」
「でも、全ての星がなくなる事が、人類の繁栄と関係あるのか分からない」
マリアはルーカスに向き直り首を傾げて尋ねるが、その回答はマリアの後ろから苛立ちを帯びた声で返ってくる。
「そんな事も分からないのか。だからお前は出来の悪い予備なんだよ。
俺が教えてやるからよく聞いとけ。
これからビッグクランチが起こる。そうすると、宇宙がビッグバン前の状態、小さな点にまで凝縮する。そして、再び宇宙が始まるんだ。
つまり、宇宙をリセットするんだよ」
マリアが振り返り、ムッとした表情になるが、アダムは気にする事もなくコントロールルームを出て行った。
コールドスリープで弱った体を鍛えなおした今でも、毎日2時間のトレーニングはしなければならないが、アダムはそれ以上のトレーニングをしている。
マリアはいなくなったアダムにベーっと舌を出した後、ルーカスに向き直る。
「アダムの言った事は本当?」
「ビッグクランチから再度ビッグバンが起こる話の事?」
「うん。それ」
「その可能性が予想されているが、実際に起こるかは現時点では誰にも分からない」
「どういう理由で起こるの?」
「宇宙は膨張している。と同時に宇宙の温度は下がっている。
って事は知っている?」
「バカにしないでくれる? それくらい知ってるわよ」
「宇宙空間を構成するモノとてモノであるならば、温度が下がれば固形になるはずだろう。水も温度が下がれば凝固して氷になる様に。
宇宙空間を構成するモノは気体なので凝華すると言うけど、その際の温度は《真の絶対零度》だ。
だから熱源を消滅させて、宇宙の温度を《真の絶対零度》まで下げれば、宇宙を固形に出来るはずなんだ。
宇宙が固形になった状態がビッグバン前の宇宙って訳だ」
「じゃあ今は熱源が少ないから、宇宙は膨張していないの?」
「全く膨張してないって事はないだろうけど、そうなるね」
「ふーん」
マリアは休憩するつもりなのか、自分のカプセルのある部屋に入る。
本当ならマリアもトレーニングをする必要があるが、アダムの態度では一緒にトレーニングする気になるはずもない。
一人残ったルーカスはディスプレイでロボットの作業状況を確認しながら考え事をしていた。
「宇宙リセット。アダムはそう言ったが、それは間違いだ。L13。お前はどう思う?」
『なにをでしょうか?』
「僕たちがやろうとしている事だ。宇宙をリセットするだと思うか?」
『いいえ』
――――遥か昔、人類は母なる地球から宇宙に進出した。
地球は人類が住むには小さすぎたのだ。
多くの惑星を開拓し、人々はそこに住むようになった。だが、いつのまにか宇宙すらも小さくなっていた。
しかし、宇宙の外は計測不可能だった。宇宙の膨張が早く宇宙の果てに到達する事も出来ず、かと言って宇宙の外から光などの干渉がある訳でもなかった為、外の様子を伺い知る事は出来なかった。
そうしているうちに宇宙はゆっくりと寿命に向かっていた。寿命といっても、宇宙は《ビッグバンから始まってビッグクランチで終わる》を繰り返す。今の宇宙が終わって次の宇宙が生まれるだけだが、その際にすべてがリセットされ、普通なら人類は次の宇宙に引き継ぐことが出来ない。
だが、ビッグクランチとビッグバンを乗り越えようと考えた人々が現れた。
その人達は、ビッグクランチとビッグバンを乗り越える為の宇宙船を作り、惑星や恒星を破壊しながら資源を蓄え、その一方で宇宙の寿命を早めて強引にビッグクランチを起そうと考えた。
その後、自然なリセットを望む人たちとの間で戦争が繰り広げられた。
戦いの結果は、滅びに抗おうとした人達が勝った。
こうして、惑星や恒星の破壊が始まった。次の宇宙に人類を引く継ぐために――――。
恒星だった星からロボットが戻ってくる。
小さな石にまで粉砕され、最早、星とすらも言えない只の残りカスだ。
資源にもならない残りカスを宇宙船のレーザー砲で蒸発させると宇宙には、暗黒の宇宙空間と宇宙船しかなくなった。
現在、宇宙全体の温度は極めて《真の絶対零度》に近づいている。
熱源となる星がなくなった為だが、宇宙船からも僅かに熱が出ている。
その熱は宇宙船に搭載された冷却装置で冷却する事で宇宙全体の温度を偽る。
宇宙全体の温度を偽るための小細工はそれだけではない。宇宙の果てに近い恒星系を最後の場所とした事も重要だ。
宇宙の反対側では、ここよりも遥かに《真の絶対零度》に近づいているはずであり、宇宙が凝華するなら宇宙船より最も遠い場所で起こる。




