表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

妹と輪ゴムとビデオテープ

作者: euReka

 部屋で輪ゴムを無くした。もちろん一つや二つ無くしても困ることはない代物である。しかしどうにも納得がいかなかった私は、その喪失感を演劇風に表現することにした。

「おお神よ! あなたは輪ゴムのようなつまらないものまで私から奪うのか? 幼い頃、私から妹を奪ったように!」

 私には妹などいないのだが、喪失感を表現しているうちに妹が昔いたような気分になったのだ。

「あなたが無くしたものはこれね」

 後ろを振り向くと迷彩服を着た女が私にライフルを向けて立っていた。

 そしてライフルの先には輪ゴムがぶら下がっている。

「これから、あなたの妹を奪い返しに行くわよ」


 私は迷彩服の女に手を引っ張られながら、どんどん森へ入っていった。しかし、さっきまでいた部屋の周りは住宅地なので森などないはずである。それに妹の存在や、妹が奪われたという話は私の空想でしかないのだが、そのことを何度説明しても女は笑顔を返すばかりだった。

「関係ないけど、明日地球が爆発したら、たこ焼き屋を始めようと思うの」

 女は森の開けた場所まで来ると足を止めた。そこには中世の騎士や、日本の武士や、数学の教師などが大勢いて、何かを守るように私たちを睨んでいた。

「たこ焼きって食べたことないけど、形がかわいいし、きっと味も美味しいんでしょうね」

 女はそう言うと一握りの輪ゴムを私の手に握らせ、これを飛ばして騎士や武士や教師を倒せと言う。私は馬鹿げていると思ったが、彼らが恐い顔をして攻めてきたので仕方なく輪ゴムを指で飛ばした。するとさらに馬鹿げたことに、輪ゴムはとんでもない勢いで飛んでいき、騎士や武士や教師たちを紙人形のように次々と倒していった。


 で、結局妹は誰だったのかというと、実は迷彩服の女がそうだったという展開を私は予想していたのだが、やっぱりその通りになってしまった。騎士や武士や教師たちが守っていたのは古いビデオテープであり、森の中に都合よく置いてあったビデオデッキとテレビで再生してみると、そこには幼い頃の私と妹が映っていた。昔住んでいた家の様子や、まだ若かった頃の父と母の姿も。

「明日地球が爆発しなかった場合の予定は、まだ立ててないの」

 妹は私の空想の中にずっと閉じ込められたまま、たこ焼きさえ食べられなかったのだ。なので熱々のたこ焼きがどんなに熱々なのかも知らないのだと思うと、目の前にいる妹が妹のように思えてきたので不思議だなと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読み終えたあと、思わずすごい!と唸らずにはいられない作品でした。 eurecaさんの新境地というか、よくわからないけど圧倒される。 何回も読むにつれ、この小説の持つ凄さに感動すら覚えます。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ