表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明殺者  作者: 卯の雛
S2. 芽吹く青、木洩れ陽の許
18/30

S2-par.5 『エンプティ・ベバレッジ』

 ナツキは考えていた。朝以外にも放課後になればツクヨらの特訓のため、工場跡地に訪れている。ナツキは今、そこで休憩スペースになっている、プレハブ小屋の出入り口から横のベンチに腰掛けている。ツクヨのことがなければ、今も先の事件で戦った男を追っていたことだろう。

 件の男と再度一戦を交えたとして、勝てるだろうか。サシであっても確信を持てない。ツクヨに教える立場ではあるが、自らも研鑽を積む必要がある。

 ただ問題になるのが、何を改善し伸ばすべきかだ。当時の敗因は何か、条件が悪かったこともある。相手の人数、目的や戦意など、戦闘になっていたかと言われれば肯定しがたい。

 しかし、まともに戦った場合はどうか。そもそも相手の使った技や戦法は知らないものだった。消費した気力(きりょく)念量(ねんりょう)や使用した能力、おそらく本気でない。まだ力を隠していると考えられる。勝つためには体力や攻撃力、防御力に速力、それらを実現する以上の気力(きりょく)が必要だ。


 ――いや、戦闘能力も欠けてるが、それ以上に知識が足りない。アイツは対策なしでどうにかできる相手じゃない。でも考えるためには情報がいる。あのアスピュレータがどんなものなのか、それが分からないと……。


 片手に持っている缶ジュースを、上部をつまむように持ち直す。女の子らしからぬヒザ同士が離れた座り方で、その内側に両手を垂らしている。そのまま空中で缶のタブに中指をかけ、カシュッと清涼な音を立てて引き起こした。ナツキはコクりと小気味良くのどを鳴らし、今やれることを思い返す。


 ――約束もあるわけだし、まずはツクヨに強くなってもらわないとね。


 ナツキは諸々飲み込み、迷走だけはしないよう、強く目の前を見据えることにした。一度口をつけた缶の中身が空になったとき、現状の目的がナツキを呼びながら駆け寄ってくる姿を見つける。少し後ろには約束の(ほう)も歩いてきていた。ツクヨは脚の動きが口元まで伝染したみたいに、元気な声でナツキに話しかける。


「シショぉー! 何飲んでるんですかぁ?」

「白ワイン」

「へぇ。ええ⁉ ダメですよそんなぁ!」

「冗談だよ。これ、マスカットジュース」

「びっくりしたぁ。そういうブラックなジョークは禁止ですよお」


 合流して早々、冗談禁止条例を言い渡されたが、ナツキが真面目に締結するわけもない。


「忘れてなかったら善処するわ」

「むぅ……。ところでそれ、おいしいんですか?」

「マズかったら飲んでないよ」

「好きなんですか?」

「――嫌いだったら飲んでないよ」


 自分で選んでいるのだから好みのものに決まっている。たが、ときにはおいしくなくとも、嫌いであっても、手を伸ばさなければならないこともある。誰もが、それが今日でないことを、明日でないことを、毎日望んでいる。しかし願っても叶わないとき、人はどうするのだろうか。それが起きてしまったとき、過去になってしまったとき、人は何を思うのだろうか。


「お待たせしました」

「ねぇ、二人はさ」


 遅れてヒナコが合流したところで、ある質問をした。


「嫌いなものを食べなきゃいけないとき、どうする?」

「嫌いな食べ物? わたしは基本ありませんが」

「想像でいいよ」

「そうですね。多分食べられません。無理に入れても飲み込めないと思います」


 ヒナコの答えを聴き終え、ナツキは一度下を向く。まぶたが頷き、次の瞳はツクヨを見た。


「ツクヨは?」

「おいしくなるよう、どうにかします! で、いけるとこまでがんばる! それでも残ったら他の人に任せますぅ。えへへ」


 照れくさそうに恥じるツクヨを、ナツキは黙って見ていたが、ヒナコは楽しそうに話題を振る。


「ふーん。じゃあツクヨちゃん、ピーマンはどこまでいけるようになったの?」

「ピっ! あ、いや! 別にダメなものは無理に食べなくてもいいんじゃないかな?」

「まだダメなんだね」

「黄色いのなら大丈夫だもん!」

「へぇ……」

「んぅ……、ひと口、なら」

「ふふっ」

「いいじゃん私のことは! それよりシショーはどうなんですか!」


 これ以上いじられたくないと、ナツキに向かって声を張った。ツクヨの言葉に、ナツキはわざとらしく確認をする。


「ん、アタシ?」

「そうです! シショーも言ってくれないと不公平です」

「そうだなぁ」


 ツクヨたちに質問しておいて自分が答えないわけにもいかない。ナツキは空の缶を振り、息一つに連ねて声に表す。


「とりあえずそのメシを出したやつにブチキレっかな」

「えっ」

「んで、ソイツが誰か、どんな対応をするかで、食う食わないを決める。いいやつだったら食う」

「マズくても?」

「マジでバカみたいマズかったら諦めるかもね。謝って残す、かな」


 実際にそういう状況になったことがないのかも知れない。ヒナコと同じく想像で話したのなら、再現されたときどうするかは分からない。ただ、話し終わったナツキの顔は、ツクヨの目にはひどくつまらなそうに陰って映った。


「そんなところで、よっと。集まったわけだし、始めようか」


 号令をかけるナツキの表情には、すでに負の面影はなく、ツクヨは気のせいだったかなと気持ちを切り替えた。試験までの時間は限られている。とにかくがんばろう、それだけを考えて拳を握る。


 ――強くならないと。


 その場の全員が同じ目標に、別の歩みで向かって行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ