14 ジョンの誕生日③~後日談。そして、その日は突然に~
トン、トン、トン。
その夜もドアからノックの音がして、ジョンの心臓は跳ねる。
ジョンの誕生日以来、毎晩のように、物音がするとか、虫が怖いから眠れないとかの理由で、リジーが枕と毛布を抱えてジョンの部屋を訪れるようになっていた。
可愛い恋人にそう言われると拒むこともできずに、ジョンはリジーを部屋に迎え入れていた。
初日、自分のベッドにリジーを寝かせ、ジョン自身は袖付きの椅子に寝ようと思っていた。
『ジョンがベッドに寝て。私は椅子でいいから』
『そんなわけにはいかない。僕は椅子で大丈夫だから、きみがベッドを使って』
『だめ、だよ! じゃあ一緒。お互い背を向けて寝ようよ。それならいいでしょ?』
リジーが頑なに主張するので、折れたジョンだが、隣でスヤスヤ眠るリジーがいては実際安眠できるわけがなかった。
それでもいつの間にか寝ていたようだが、翌朝はなぜかお互い向き合っていて、ジョンはギョッとなる。
別の日など、翌朝気が付くとリジーを抱き締めて寝ている状況のこともあった。
日ごとに増す胸苦しさに、まずい状況だと思いつつ、断ることもできずにただ添い寝の日々を重ねていた。
結果、腕の中の温もり(リジー)は、放しがたいものになっていた。
そして、誕生日からおよそ一月後のある夜のこと、お互いいつものように背を向けてベッドに横になったのだが、リジーがすぐジョンの背中に身体を寄せてきた。
「ジョン、大好きだよ。ジョンのオレンジになりたい」
「オレンジ? どういう意味?」
「わからない?」
「うん」
「一回しか言わないから、よく聞いてね。私を……好きに食べてってこと」
ジョンの耳元に、聞き取れないほどの小さな呟きとともに温かな吐息がかかった。
ジョンは自分の喉が鳴ったのを感じた。
それと同時に胸の奥の重い蓋を何かが完全に押し上げた。
「リジー、きみはっ!」
ジョンは、それから何も考えられなくなった。
シャツの首のボタンが急に息苦しくなり、外す。
なのに、暑い、熱い。苦しい。
「リジー、ごめん。愛してる」
ジョンはリジーの白く芳しい首筋へと自分の熱を移すように唇を押し付けた。
とうとう鉄壁と謳われたジョンの忍耐力は脆くも崩れ去り、素面でリジーに陥落したのだった。
♢♢♢
リジーは、<フォレスト>の休憩室に、恋の先輩スーザンと共にいた。
「スーザン、アドバイスありがとね」
リジーは色々思い返し、恥ずかしさに頬を染める。
「やったね、リジー。おめでとう! でも、ここまでずいぶんかかったね」
「言わないでそれ」
「難攻不落なのはこっちも同じだけどね」
「え?」
「ううん。なんでもない。うちにも虫が出ないかな~」
「やだよ、虫」
「それで? 初めてはどうだった?」
「やだ、もう、恥ずかしいこと聞かないでよ~」
「何よ~、蕩けそうな顔しちゃって~、詳しく教えてよ~!!」
休憩室の中で、スーザンの声だけが響いた。
♢♢♢
いつものように、サムが昼休みを利用して<スカラムーシュ>を訪れていた。
サムを前にして、ジョンはサムの顔を正面から見ることができない。
幸せな気持ちから一転、時間が経つにつれ、自分の行動が本当にリジーにとって良かったのか自信が持てなくなっていた。
「クロウ、何かあったのか? ずいぶんと塞ぎこんでるじゃないか」
「聞くな」
「なんだよ、その落ち込みようは。リジーの方は買い物に行くとかで、さっき道ですれ違ったけどさ、ものすごく機嫌良くて鼻歌だったぞ?」
「だから聞くな。オレはもっと自分が忍耐強い人間だと思っていた」
「は? ……まさか、ひと月遅れで、誕生日のプレゼント貰ったのか?」
「……」
サムの鋭い感に、ジョンは苛ついて、思わず睨んでいた。
サムはそれをものともしていないようで、顔に朗らかな笑みを広げてみせた。
「いや、ひと月も誘惑に耐えたのは十分忍耐強いと思うぜ。なになに、俺との忍耐勝負に負けたことがそんなに悔しいのか? じゃなきゃおまえ、惚気てるのか? お預けを延々とくらってる俺を目の前にして」
「すまない」
「もっと嬉しそうな顔しろよ~。俺の我慢大会はまだ続いてるんだぞ。いっそおまえが慰めてくれ」
「……断る」
「なんだよ~こいつ~。今度はにやけた顔しやがって~」
「していない……」
ジョンとサムは、サムの休憩時間が終わるまで、その場で手を出し合いじゃれ合っていた。
リジーとジョンの甘い夜は、少し大人の描写が入るため、念のためアルファポリスさんのみの投稿となります。
申し訳ありませんが、気になる方は、そちらでお読みいただきますようお願い致します。