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俺は、ただゲームをしていただけなんだぜ?

図書館の館内に終業の時間を知らせるチャイムが流れる。俺はその音を聞いて、心の中でガッツポーズを決めると、足早に事務所へ歩いていく。

「お先に失礼します!明日もよろしくお願いします」

「おー、おつかれー。明日もよろしくー」

館長の、のんびりとした声が部屋中に響く。その声を背中に受けながら、俺は家へ向かうのであった。

俺、龍崎誠(りゅうざきまこと)は市の図書館で働く26歳。性別は男。住みは賃貸マンションの安い部屋。

俺は自分の部屋の鍵穴に鍵を差し込むと、くるっと回した。

カシャンという音が聞こえたのを確認し、鍵を引き抜きながら反対の手でドアノブを回す。

「たっだいまー」

龍崎誠26歳、彼女なし。

まぁ、返事が無いのはいつものことだ。気にしない。この言葉を発するのは、今日も自分の家に帰ってこられたという達成感のためだから。

俺はシャワーを浴びて部屋着に着替えると、炊飯器の蓋を開けて中身を見る。炊き上がり、オッケー。炊飯が失敗していたら、テンションガタ落ちなんだな。水分過多でドボドボになってしまったご飯や、炊飯ボタンを押し忘れて眠ったままの米に何度泣かされたことか……。

炊飯器の蓋を閉め、ポンポンと撫でる。

さて、あとはご主人様の腕の見せどころだな。

俺は冷蔵庫からまな板の上へキャベツを取り出すと、包丁で千切りにする。トントン、トントン……シャクシャクとキャベツの切れる小気味の良い音がキッチンに響く。それを水にさらし、水気を切って耐熱の皿に移す。その上へ、冷蔵庫から本日のメインである豚の生姜焼きを乗せてラップをかけてレンチンだ。

毎日調理をしなくても済むのは、電子レンジと冷蔵庫のおかげだ。前の日にちょっと多く作っておくだけで、次の日はレンチンで完成。現代に生まれて良かった。電子レンジと冷蔵庫を発明した人は、俺にとって神様だ。

チーンという音が響き、電子レンジが止まった。茶碗に飯を盛り、出来上がった今日の夕食を持って隣の部屋に向かう。部屋の端に机と椅子がある。机の上にはモニターとスピーカー。

俺の趣味は、インターネットゲーム。いわゆるネトゲというやつだ。皿の類いを机の空いているスペースに置き、机の下のデスクトップパソコンの電源ボタンを押す。ヴィーンという低い音とファンの回る音がする。LEDがピカピカといくつも点灯する。椅子に腰かけると、目の前のモニターには見慣れたデスクトップ画面が表示された。起動完了。机の下の棚を引き出すと、そこにはキーボードとマウスが現れる。

マウスとキーボードを操作して、いつものようにゲームを起動する。画面が切り替わり、Eternal Storyと表示される。

エターナルストーリー。今、俺が熱中しているゲーム。

何人か居るキャラクターの中から、俺によく似た外見のキャラクターを選び、Enterキーを押す。黒い瞳に黒い髪。現実の俺と瓜二つだ。このゲームはキャラクタークリエイトの自由度が高く、獣人族や竜人族も作れるが、なるべく現実の自分に似た外見のキャラクターを作成するのが、俺のプレイスタイルだ。

画面がまた切り替わり、今度は街中が表示される。今日もまた人が沢山居るなぁ。

今居るエリアはこのゲームで一番人が集まる街だ。ショップやレベル上げのための狩場へのアクセスが良好だからだ。

人が集まる場所は経済が動く。道具の類いを造って販売することを生業としている製作者(クラフター)の声が、賑やかだ。

俺はチャットモードをチームチャットに切り替え、キーボードを叩いた。

「こんばんは、ログインしました」

誰が発言したのか識別出来るように発言者の名前が表示される。Makoto。もう一人の俺の名前だ。

「マコちゃん、ばんわー」

「おっすー」

チャットウィンドウがチームメンバーの声で流れていく。俺の所属するチームは、ダンジョン攻略やクエストをクリアするには申し分の無い戦力がある。

それから俺は、夕食を摂りながらチームメンバーとチャットをする。この前のダンジョン攻略で手に入れた戦利品がいくらで売れただの、製作をしたら作りすぎただの、このレベルではどの狩場が効率良いだの。そんな話をしながら飯を食べるのが俺の日課だ。

夕食を食べ終えて席に戻ると、挨拶合戦が始まっていた。ログインした時の定番だ。

「こんばんはー」

キーボードを叩く。さて、誰がログインしたのかな。チャットログを遡り、発言主を探す。

「こんばんわぁ~♪」という発言が見つかった。あー、こいつは名前を見なくても誰だか分かるな。アイツだ。

発言主はルーシー。金色の髪と瞳の低身長な人間族。装備品はフリルが付いたようなフワフワとしたものを好んで装備する。俗に言うロリータというものだろうか。回復魔法を主とした癒し魔法の使い手で、このチームで指折りに入る腕のヒーラーだ。そんな彼女は男性陣からも人気があるようだ。……あのキャラクターを操作しているの、男なんだけれどなぁ。

男性が女性キャラクターを操作する、ネカマプレイヤーだ。なんでそんなことを知っているか?って?

アイツの中身は何を隠そう、俺の職場の同僚(男)だからだ。ルーシーの中身とはこのゲームを始める前から仲良しで、色々なゲームを一緒に移動している。もちろん、そんな話は他のメンバーには秘密だ。みんなの夢をぶち壊してはいけない。

用事も終わったことだし、そろそろゲームに参加するかな。キーボードで文字を入力する。

「夕食終わったので、パーティに参加したいです。どこか空きありますか?」

「おー、これから行くぞー。ルーシーも来いやー」

「はぁい。よろしくお願いしますぅ」

速攻でご指名が入った。ラッキー。鞄の中身や装備品を確認する。問題無いな、よし。

集合場所へ行くと、俺をパーティに誘ってくれたロウとルーシーが先に到着していた。即座に画面の中央にロウからパーティの招待ウィンドウが飛んできた。承諾を選択すると、画面がパーティモードに切り替わった。

「ほんじゃま、行きますかね」

ロウが肩に斧を担ぎ上げて歩き始める。その後ろを歩く俺とルーシー。野郎3人パーティの完成だ。ロウは見た目獣人そのものの狼っぽい見た目である。フサフサとした毛皮と尻尾の付いた戦士。金属鎧を身に纏っていて、頑丈な前衛職だ。ロウが魔物(モンスター)の注意を引き付けて魔法使い(ウィザード)の俺が強力な魔法で魔物を一掃する。体力が減ったら、ルーシーの魔法で回復する。なんてバランスの良いパーティなんだ。

そんなことを考えているうちに、狩場へ到着した。

「補助魔法かけまぁす。集まってねぇ」

ルーシーが魔法の詠唱を始める。少し経つとキャラクターが淡い光に包まれた。防御魔法だ。担いでいた斧を振り回すロウ。さて、俺も魔法を唱えるとしようか。

各人戦闘準備を整えると、魔物の群れへ走り込むのであった。

狩りは続き、まもなく24時に差し掛かるというところでお開きとなった。おのおの自力で帰還するということになり、俺は未消化のクエストを進行したら寝ようと思い、キャラクターを操作した。たしか、このエリアの隣がクエストの場所なんだよなぁ。あー、ねみー。終わったら即行で寝よう。



とても、明るい。陽射しを感じる。仰向けに寝転んでいる感覚がある。あー、俺寝落ちしたんだな、情けない。自分のキャラクター、魔物に攻撃されて無防備のまま死んでいるだろうな……。ところで、部屋のカーテン開けていたっけ。

ゆっくりと目を開けると、どこまでも広がる青い空が見えた。

「は?……え」

慌てて起き上がり辺りを見回すと、そこは俺の部屋ではなかった。見渡す限りの緑と青。

「……あらまぁ……」

そこは俺の部屋ではなかった。


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