時限木偶
五国同盟から九ヶ月。
人間界ではゼムレヴィンがジェストレインとロブロン・ランスを退けたことが広まっていた。ケイニーだけで二国と対等に戦えるという事実は各国に共通の意識を芽生えさせた。
それにより再び五国はジェストレインに集結した。
「なーんでウチらがまた集まんなきゃなんないの?」
「ちょ、エーティルてば!」
「おちょくってんのか?てめぇら全員呼んだのは同盟になってねぇからだ」
先に潰すぜ。
「どっかの王子様もいねぇしよ。どうなってんだか」
「…カリヴァンは少し用があるだけじゃ。勘違いするな」
「さぁ、どうだかな」
「スリンディオ。その辺にしておけ。だが、同盟になっていないのは確かだ。一ヶ月後、今度こそ五国でゼムレヴィンを倒す」
ヴィンガーはその場にいる全員に命じた。ゼムレヴィンとの力の差を見せ付けられたことで弱者としての一体感が生まれたのを利用したのだった。
「ま、あんたらが無様に負けたのは置いといて」
「殺すぞ」
「次はちゃんとやるよ。潰されんの嫌じゃん」
「そうだね」
「ハインシスはどうだ?やるのか、やらないのか?」
「や…やりません…!」
「へぇ。じゃ、潰される覚悟はできてんだよなぁ!?」
「やめておけ。今は仲間なんだ。争うことはするな」
「…今は、ねぇ。」
全員の雰囲気が悪くなったが、目的は変わらない。
一ヶ月後に備え、各々が戦争の準備に取り掛かった。
◇◇◇◇◇
一方、アイゼンはマファリスとホバックと共にノルード山に来ていた。
「シグ、随分待たせた。申し訳なかった」
破壊してしまった山の責任を取りに来たのだった。
「ホバック。頼む」
「了解した」
能力、ディプト・トリガー。
ホバックとが能力を発動すると手に平に小さな種がいくつか生成された。
「これでお前たちが飢えることはない」
「ただの種ではないか」
「これは特殊な植物で、養分や魔力をお前たちが必要とする魂を果実として実らせることができる」
「特に環境や水やりは必要ない。魔力のみでも成長はする」
「ほほう。こいつはすごい。まさか本当にお主が責任を取るとは思っていなかったぞ。半年以上も期間が開いたからのぉ」
「それは申し訳なかったと言っただろう」
「だが、何ゆえ今になってここに来た?」
「それはだな…」
アイゼンはホバックがすでに完成させた大樹を指差した。
「あれで人間界を刺激する」
ホバックの能力は様々なものを種として生成し、成長させることができる。今回は化け物を産み出すことで、それを人間界に送り込む。
ホバックが埋めた種は地中の養分や魔力、大気に舞う魂の塵などを吸収して高速で成長した。
巨大な人形の植物はホバックを確認するとその場に佇んだ。
「どうしたんじゃ?」
「指示を待っている。アイゼン、どうするんだ?」
「マファリス。一ヶ月後に自滅するようにしろ」
「承知した」
能力、三之重羽織。
マファリスは植物の巨人に触れると、その部位が藍色に変色した。
「ここから最も近い人間界の国を襲え」
ホバックが命じると植物の巨人はゆっくりと動き始めた。
「では、あと五体。頼むぞ」
「了解した。先にピリアルトと合流する」
ホバックは用を済ますと早々に立ち去った。
「では私たちも失礼させてもらう。もし、その種の生産性が悪いなどがあれば遠慮なく言ってくれ。早急に対処させてもらう」
「あぁ。達者でな」
アイゼンとマファリスはノルード山を後にし、次の目的地に向かった。
「のう、アイゼン殿」
移動中マファリスが私の腕に抱きついた。柔らかな膨らみがぎゅっと押し付けられる。
「何だ?」
「やっと二人になれましたなぁ」
「そうだな」
「妾はこの時をずぅっと待っておったぞ。二年ぶりの再開であったのに邪魔者が多くてのぉ」
「お前とホバックに関してはゆっくりと話し合う時間が無かったからな。すまなかった」
「気にしてはおらん。それよりも、聞きたいことがあるのじゃがよいか?」
「言ってみろ」
「そなた子はおるのか?」
「いや、いないが」
そこでマファリスは隠れてガッツポーズをした。
「そ、そうか。見た目は若いがもう年だろうに」
「余計なお世話だ。お前こそどうなんだ?」
「妾に子などおるものか。この能力のせいで妾に近付く物好きはほとんどいやせんからのぉ」
「そうか」
妾の能力で死なぬのはそなただけじゃ。気付け愚か者。
「アイゼン殿。もし、もしもじゃ。この戦いが終わって、そなたが良いのなら妾の国に来ぬか?今までの礼も兼ねて大いに歓迎するぞ」
「戦いの後、か…」
マファリスは知っていた。今のアイゼンは全人種の統一以外に興味がないことを。曖昧な答えが返ってくると予想していた。
しかし、アイゼンは笑いながら答えた。
「その先のことを考えたことはなかったな。戦いの後どうするか、今でも思いつかない。」
「ならば…」
「お前の誘いに乗ろう。約束だ」
「も、勿論じゃ」
マファリスは表情を変えずに振る舞ったが、嬉しさのあまり泣きそうだった。
アイゼン少し考えを改めた。本当は戦争が終わると同時に命を絶つことも考えていたからだ。しかし、私は一人ではない。守りたい場所が、仲間がいる。
ならば、死ぬまで生きるだけだ。




