第三者の脅迫
五国同盟から二ヶ月半。
アイゼンは南東のヴェントガーデンから、南のレブーフモルゲンに向かった。
以前、リガードゥルムとキュリームと来たことを思い出した。
「通行許可証だ。通るぞ」
前と同じ門番に許可証を見せ、レブーフモルゲンに入国した。
◇◇◇◇◇
何故、キュリームが捕まったのか?
本人に聞いたところカリヴァンに拐われたと言っていた。リガードゥルムにその時の魔力の流れや戦った形跡について訪ねると面白い点を発見した。カリヴァンはリーリスイレジア教会でキュリームを切断するような強力な魔力を放ったと言うのだ。
あのリーリスイレジア教会には聖剣が奉っていた。その剣を使いキュリームを切ったのだと思ったが傷は一つもなかった。そして、私もカリヴァンに何らかの攻撃を受けた。その時は分からなかったが、リガードゥルムから話を聞きある考察が浮かんだ。
私が呼んだことのある本に“オルニカの聖剣”というレブーフモルゲンの史実を元にした物語がある。そこには凄腕の騎士オルニカと聖剣を扱う敵との激戦が描かれていた。オルニカは敵を打ち倒し、その聖剣を手に入れる。その剣で切れるものは無く、斬撃とともに放たれた閃光は人々に魔法という治からをもたらした。オルニカはその剣と血からで生涯を国のために捧げるというのが大体の内容だ。
そこで、隣国であるヴェントガーデンにレブーフモルゲンの交戦記録を拝見させてもらった。エーティルが有料で貸し出してくれたものには、初代王が戦場に出たという記録は一切無かった。だが、二代目、三代目は特殊な武具を用いて国を守る英雄として活躍していた。
“存在しない聖剣”と“史実が元の英雄譚”と“確かな記録”のこれらが紡ぐ一つの可能性にアイゼンは気付いた。
カリヴァンが放ったあれはまさしく天使系統の能力であった。つまり、聖剣とは能力のことで間違いない。そして、その能力は代々引き継がれているようだが、初代王が戦っていないという矛盾が生じる。
そこで、こう考えた。
初代王が戦わなかったのは能力を持って|い《・》なかっ《・》た|か《・》らだと。
初代王が天使を殺し能力を奪ったと考えられるが、人間が手に入れた能力が子供や孫に遺伝するということは今のところは確認されていない。レナードが細かく調べた調査記録にもそのようなことは載っていなかった。
だが。
それらを関連付ける事象に私たちは出会っていた。
ミアとレム、イーリスがそうだ。
彼女らは天使でありながら人間によく似ている。生殖行為は全く異なるらしいが、容姿が似ていることや能力が引き継がれていることなど、人間の“遺伝”と酷似している。
親と子が似るように、兄弟が似ているように。
要するに。レブーフモルゲンの初代王と、聖剣の能力を持った天使が結ばれ、その子が二代目であるということだ。
二代目が能力を引き継いだということから、三代目、そして第四王子のカリヴァンも能力を有していることが説明ができる。
そして、この事実は人間界に善くも悪くも多大な影響を及ぼす。
天使と人間は敵対関係にある。国の最高位の人間が天使の血を引くとなれば国民の信用は無に帰すだろう。裏では天使と繋がっていると思われても仕方ない。そのため、聖剣という架空の存在を信じ込ませることでそれらの追求を避けたのだ。
もし、能力を意図的に手に入れる術をレナードのような奴が知ったら…。
殺戮に匹敵する、残酷な行いをするだろう。
「というのが私の考えだ。あくまで想像だ。こんな話をしても笑う相手はいないだろうからな。まだ誰にも話していない」
アイゼンは呆れたような顔でカリヴァンとオルドに話を続けた。
「そういえば。レブーフモルゲンはゼムレヴィンと敵対していたような気がしたが。どうだったかな?」
「少し前にやって来た思えば…。全く白々しい奴だ」
「ま、待ってくれ…オルド、これは一体どういうことなんだ…っ?」
「教えなかったのか?」
「言えるはずがなかろう。全てを受け入れるにはまだ若い」
「詳しく聞かせろ!!何も隠すな!!」
「少し黙ってろ。で、レブーフモルゲンは五国同盟に則ってゼムレヴィンを攻撃するのかしないのか」
どっちなんだ?
聞くまでもない。それが答えだった。
「お主、本当にこのことを誰にも言っていまいな?」
「言ってしまえば交渉に使えないからな。秘密は握ったままの方が価値がある」
「小僧のくせにほざきおって。だが、今回は…お主に勝ちだ。大人しく引き下がってやろう」
「賢明な判断だ。後回しにしてしまったが、そこの王子にもそのことをしっかりと説明しておけよ」
「ちっ…」
「アイゼン!お前は…一体何者なんだ!?僕と同じ系統の能力を持つお前は!僕とは違うのか!?」
「お前と話すことはない」
「おい!」
「…」
「アイゼンッッ!!!」
聖剣、レイスティア!!
カリヴァンは能力を発動し、アイゼンに攻撃を放った。左右で半身を真っ二つにするつもりだった。
能力、ディック・アイアン。
「…時間の無駄だ」
カリヴァンをあしらい、オルドの肩を叩きアイゼンはレブーフモルゲンを後にした。




