第三者の買収①
五国同盟から一ヶ月後。
次に向かったのは南東に位置するヴェントガーデンであった。馬や馬車を乗り継ぎ、ジェストレインとロブロン・ランスを経由してようやく辿り着いた。効率は悪いが道中の二国よりも先に対談しなければいけない理由があった。
「っ前は何者だ!!」
「私か?バーキンス・アイゼンだ」
「っこを通りたければ許可証を見せろ!」
「これ、だ」
「っう解した!通ってよし!」
「…うるさい奴だ」
すっかり日が暮れてしまったのもあるが、変身できる天使がいるため出入り口の検問は厳しいのだ。
ヴェントガーデンは標高の高い場所にあり、鉄工業が盛んである。採掘・製鉄と良質な環境と技術が備わっているため、武器や防具の質が他と比べると二回りほど優れている。ヘイヴェンスやシナが使っている武器もヴェントガーデン製である。また、魔潜石や光石なども採れるため装飾品や観光地としても有名である。
しかし、私の目的は政治に関わるアリル、もしくは、エーティルに会い、ゼムレヴィンとの戦争を先伸ばしにすることだ。まったりと過ごしている暇はない。
「そこのコートの人。観光かい?」
「あぁ。そうだ」
酒臭い男に絡まれてしまった。観光理由以外でここを訪れる者はほとんどいないため、私は嘘を吐いてその場から離れようと考えた。
「こんな時間だが、宿は決めてあるのかい?」
「あぁ。人を待たせている。では」
「まぁ待て。せっかくだから忠告してやるよ。夜一人で出歩くのは危ねぇ、ってな」
「オラッ!」
私は潜んでいたもう一人に後頭部を殴られた。感触からして、金属製の棍棒のようなものだろう。常人なら失神、または死んでしまうだろう。
常人なら。
「…一つ。私からもアドバイスだ」
「ひぃぃっ!」
「こ、こいつ!なんでぶっ倒れねぇんだ…!」
「禁酒しろ」
一人か話し掛けることで注意を逸らし、もう一人か襲う作戦だったのだろう。だが、酔った状態で私を標的に選んだのが運の尽きだ。
能力、ディック・アイアン。
私は背後の男の持つ鉄の棍棒を蹴りでへし折った。
「で、他に用はあるのか?」
身の危険を感じ取った二人は一目散に駆け出した。
「全く。幸先の悪いことだ」
溜め息を吐き、目的の場所へ向かった。
◇◇◇◇◇
ベーデリン集会場。ここでは従業員や観光客などの人がどこに誰がいるのかを管理し、従業員の労働時間を記録している。
「…えっと、今日は七時間ね。お疲れでーす。次、どうぞ」
「エーティル、だな」
「ちょい待って。ジュリス!交代よろ」
エーティルは後ろで表をまとめるジュリスを呼んだ。
「ど、どうしたんですか?その方は?」
「スゴい人。ウチは相手しないと」
「この人数を一人で捌ききれませんよぉ」
「頑張ればいいじゃん」
「そんなぁ…」
無理矢理仕事を交代し、私とエーティルは集会場から出た。
「大丈夫か?」
「いいの、いいの。じゃ、アリルのとこに行くよ」
「何だか申し訳ないな」
「あ。多分今の時間ならアリルなら…」
採掘の際に削られた空洞を住居に利用した場所に案内された。洞窟の方がしっくりくるが。
「ここで集中してるかも」
エーティルが穴を覗くと、奥の方で微かな音が聞こえた。歩を進め洞窟に入ると、アリルは机に向かっていた。
「アリル」
「…」
「アリル!」
「ひゃいっ!」
「お客さん。って、ウチも関係あるんだけどね」
「あなたは…バイゼン?」
「バーキンス・アイゼンだ」
「そうそう。アイゼンだった」
「ところで、ここで何をしているんだ?」
「これを仕上げてたの」
アリルは机に固定されていた方眼紙を取り、私の前に掲げてみせた。
「設計図…。いや、剣の図面?」
「そう。ここには火の神がいるのは知ってる?」
「なんとなくだが」
「それを崇めるために儀式用の剣を作らなきゃいけなくて」
「なるほど。火山の名残や製鉄で火を扱うためか」
「そう。…そういえば、何でここにいるの?」
「ウチを見ないで。知らないし」
「五国同盟について話したいことがある」
「…どうしよ」
「ウチを見ないでって」
作業場でする話ではないので場所を変えることにした。ヴェントガーデンには政治のための施設は無いため人がいなくなった集会場に戻り、そこで話し合うことにした。
「色々と見て回ったが、男女で仕事を完全に分けているのか?男は肉体労働。女性はそれ以外という風に」
「分かりやすいっしょ。その方が効率が良いし、実際に上手くいってるし」
「そうか」
「何か駄目なの?」
「いいや。むしろ、その方が話しやすそうだ」
「「??」」
アイゼンが何を考えているのかは二人には分からなかった。
「二人は経済と軍事の両方を管理しているのか?」
「まぁ、そうかな」
「半分ずつだよね」
「二人で判断しているということでいいんだな?」
二人は頷いた。
「なら、今ここで決めてもらいたいことがある」
金を積むから五国同盟から抜けてほしい。




