大荒れ
スフィードとエーティルは遠くからレナードとアリルを眺めていた。
「かなり、なつかれているな」
「アリルはレナード大好きだからさ。グイグイ行ってんのかも」
「国のトップ同士。何もなければいいが…」
護衛を付けろ。と二人は思った。
◇◇◇◇◇
時間通りに全員が揃い、軍事会議が始まった。最初はもちろんレブーフモルゲンのオルトからだ。
「今年度は我が国の防衛に力を入れながら、攻撃的な戦術や魔法を開発し、実戦に導入しようと思う」
それからも普通のこと話した。
「最後に、脅威と判断したゼムレヴィンには無期に渡る軍事支援を一切しないこととする」
レナードとスフィードは耳を疑った。周囲を見るとそれ以外の全員が小さく頷き、賛成の意を示していた。
「オルト…これはどういうことだ!」
「政治担当のお前には発言権は無い。あるのは隣の階申様だけじゃ」
「しかし…!」
「落ち着いてください。ここにいる全員が同じ意見でしたら、そう判断した理由を教えてもらえませんか?」
レナードは焦るスフィードをなだめ、全員に敵意を込めた笑みを見せた。
「馬鹿かてめぇは?」
ケタケタと笑うスリンディオはレナードを指差した。
「派手に戦って、目立ってたのはてめぇだろ?」
なるほど。アイゼンとレナードはその言葉でようやく理解した。
「おい。お前はこうなると予想していたのか?」
「まさかこうなるとは思ってもいませんでした」
アイゼンは隣に座るレナードに小声で尋ねた。
「フリッド・フラン戦での勝率は七割以上でした」
「初めから知っていたのか?」
「いいえ。脳内で色々と試してみたんですよ。そこで、勝率の方が高いと分かったときに考えたんです。ゼムレヴィンが持つ戦力と、未知数の部分を」
「お前が最後、前線に出てきたのもそういう理由があったからか?」
「はい。もちろん私情もありますけど」
「それが今回は裏目に出たわけだ」
「そうですね。“これだけ力があるから攻撃しないでね。いざという時は頼れるからね”ということをアピールしたかったんですけど」
レナードはフリッド・フラン戦を大規模に取り扱うことで各国の注目を集めた。そして、天使が奪った土地を取り返し、第一階申であるレナードが親玉を撃退するところ見せつけた。ゼムレヴィンの持つ軍事力がどれほどのものか公開したことに等しい。
レナードはあの一戦で、人間界全土への威圧と、緊急時に活躍できる国という二つの印象を各国に与えたつもりだった。
だが各国は、籠城した天使に勝てる力を持っていることに注目してしまった。これは、国を落とせる力とも考えられる。更には、戦っていない二人の階申がいること。もしも、ケイニーやヘイヴェンスが戦闘に参加していたらもっと強いのではないか?それぞれがそう思ったのだ。
「つまり皆さんは僕たちが怖いと言うわけですね。分かりました」
「怖いわけねぇだろ!」
「まぁ落ち着け。要するに、強い者にこれ以上力は不要というもの。他の弱き者を支援することが大事ではないか?」
オルトが上手い言葉でその場を修めたが、内容は全く変わっていない。ゼムレヴィンは孤立し、他五国は結束したと言っていい。
「ハインシスのお二人はそれでいいんですか?僕たちに大きな借りがありますよね?」
「そ、そうだが…」
「不利と分かったら脅しかよ。つまんねぇ野郎だな」
「脅しに聞こえましたか?実現させてもいいんですよスリンディオさん」
「ぶち殺してやるよ…!」
「やめんか。レナードも少しは口を慎め」
「すいません。全員が怯えてるようでしたので、つい苛めてしまいました」
「ビビってねぇけど」
「スリンディオ!」
「へいへい。黙ってりゃいいんだろ。分かってるっての」
「とにかく、だ。ゼムレヴィンは軍事的に自立したと前向きに考えた方がいい」
「お互いに色々と隠している状態で、それを素直に受け入れると思っているんですか?」
「その時は五国で一国を滅ぼすまでだ」
「…分かりました。受け入れます。まとまった各国を相手にできるとは思っていませんから。武器や兵器等の輸入が停止するだけで、他の物は規制されないということでよろしいですか?」
「そうだ」
「皆さんも同じ意見でよろしいですか?」
レナードの問い掛けに全員が頷いた。
ここに、ゼムレヴィンへの武力支援が断たれることが決まってしまった。
「国ではないがアイゼンの意見も聞いておこうか」
オルトはヴィスティンハイムも取り込もうと考えていた。ゼムレヴィンを孤立させるためには味方を少しでも増やそうとするのは当たり前のことだ。
「そうだな…。しいて言うなら二つ。一つ、国ではない時点でこの話には賛成も反対もできない。もう一つ、お前たちは必ず後悔するということだ。私も政治的、軍事的に見てこの判断は正しいと思う。だが、今、この瞬間。最も敵に回してはいけない人物を蔑ろにしたということ忘れるな」
「…ゼンさん」
「勘違いするな。ゼムレヴィンとその他で比較した結果を述べただけだ」
レナードの期待の眼差しをアイゼンは軽く流した。




