対抗維新
フリッド・フラン戦から十日。ようやく住民が発見された。残った天使を撃退しつつ、捜索を続けたが喜べるものではなかった。湖の底に多くの氷の人像を発見したのだった。火の魔法で解凍を試みるが変化はなかった。
兵士や作業員をフリッド・フランに派遣し、アイゼン達はゼムレヴィンに引き返した。
天使との戦いに勝利したことが伝わっているようで、門を潜るとすぐに派手に出迎えられた。
だが、アイゼン、ロッドール、シナ、レナードの四人はその騒ぎに流されなかった。勝つことができたとはいえ、それぞれが得るものは多くあった。その先を全員が見据えていた。
第六代ゼムレヴィン王から褒美を賜るも誰の心にも響かなかった。
◇◇◇◇◇
「どうですか?」
「うーん。お手上げだね」
氷の人像を観察していたケイニーは眉をしかめた。
「そうですか…。あなたが無理と言うのなら仕方ありません」
「今は、だけどさ。あんまり言いたくないけど、これをした奴は相当な能力使いだよ」
「現時点では解決できないのでこれらは任せます。僕は書類が増えたので片付けるとしますか」
「そういえば今回の活躍聞いたけどあれホント?」
「ええ」
「へぇ。それだけだから行っていいよ」
「では、また」
レナードはケイニーの研究室を出た。
おそらく、天使との籠城戦に勝利したことは他の国に伝わっているでしょう。勝利はしても、人民を救えていないと知られると厄介です。能力者を殺すか、ケイニーが解決するか。どちらにせよそれまでは隠す必要がありますね。
これから人間界は荒れる。レナードの勘がそう告げていた。
自室に戻るとそこにはアイゼンがいた。アイゼンはレナードが貰った賞状や記念品を眺めていた。
「何をしているんですか?」
「待っている間にすることがなかったんだ。見かけによらず努力家だな」
「何を言ってるんですか。僕はやらなくてもできちゃう天才ですよ」
「お前らしい。で、何の用だ?」
「はっきりさせたいことがありまして」
レナードはアイゼンの足元に数枚の資料を落とした。
「知ってるんですよ。エスティアーナの頃から敵を見逃しているということを」
「それがどうした?」
「今回も何人か殺さずにいましたよね?」
「無力化したからな。殺す必要はない」
「気付いてるかもしれませんが、監視させた部下から報告を貰ってまして。ゼンさんは敵の工作員かもしれないと書かれていました」
「…公に私のことを裁くつもりか?」
「とんでもない。一時、共に戦った間柄ですからね。そんなはずないと思っています。ですが、僕も世間体を気にしなければいけない立場です。白黒以外は許されないんです」
「バーキンス・アイゼンは味方なのか敵なのか。これだけは明確にしてもらえませんか?」
「私は…」
「別に敵側でも構いませんよ。ただ、」
総戦力で排除するだけなので。
「勘違いするな。私が人間である時点で答えは決まっている。人間界を裏切りはしない」
「では、天使を見逃したのは同情のようなものと考えていいんですね?」
「そうだ」
「分かりました。嬉しい答えでよかったです」
「…」
「僕は使えるものは何でも使います。仲間だろうと勝つためなら犠牲にします。それはゼンさんでも同じことです」
「あぁ。私もお前を利用する対象として見ているしな」
「お互い様ですね。僕は天使と悪魔を根絶やしにできればそれでいいんです。でも、ゼンさんみたいな不確定要素は少ない方がいいんですけど」
「レナード。私からもはっきり言わせてもらおう。お前は人間以外を皆殺しにすると言ったな」
「そうです」
「私は天使と悪魔との共存を望む」
「…ははっ、あはははっ!冗談、じゃないのは分かりますが無理ですよ!」
「そう思えばいい。私にはお前と違う思想で目的がある。そして、それを可能にする力もある」
「今回の戦いでは雑魚しか倒せていませんけど」
「お前の強さとは違う。私には私の力がある。どちらが正しいかなんて分かりはしないが、お前が目標の妨げになるなら」
お前を殺す。
「できますかね?」
「そうなる日が来ないことを祈るんだな」
「…分かりました。戦争は思想や人種、などの“違い”が引き金になることは知ってますか?僕の理想と、アイゼンの理想。どちらがこの世界に相応しいか勝負ですね」
「望むところだ」
「僕以外の人に負けないでくださいよ」
「こっちの台詞だ」
私は足元の書類を拾い上げ、レナードの机に叩き付けた。
「過去に囚われたお前に負けるはずがない」
「前ばかり見てるゼンさんには分かりませんよ」
「…まぁいい。話は終わりだ。じゃあな」
「あ、待ってください。もう一つ話があるんです」
「……何だ?」
「これはどっちにも損な話じゃないんですけど…」
レナードは別の書類をアイゼンに差し出した。
「これは?」
「再来週の会議についてです」
「私にどうしろと?」
「これ、ただの会議じゃないんですよ。主宰招集なんです」
「政治家の集いだな。私には関係ないが」
「今、シナは療養中ですし、ケイニーはフリッド・フランの人を救おうと研究してますし、ヘイヴェンスはフリッド・フランの防衛に行ってしまっていて。代理の者を連れても良いのですが…」
「断る」
「これは共通の目的だと思うんです。僕とゼンさんが天使や悪魔を相手にする前にすべきこと。それを手伝ってほしいんです」
人間界の統一を。




