力の隔たり
「ママ。なんでパパとけっこん?したの?」
「…ノーザン。何か吹き込んだの?」
「いや、別に!何も言ってないけど!」
「はぁ…イーリス。私は彼が、彼は私が好きだから。それだけ」
「すき?」
「大人になれば分かるよ」
「ふーん。じゃあ、パパのあれおしえて」
「もう僕より上手だろう」
「いいの!」
「ははは。じゃあ、片目に集中して。両目はまだ難しいからね」
「はーい」
「魔力が色や図形で見えるようになったらオッケイだよ」
「はーい」
「はは。サイリス」
「何?」
「僕は目が見えないけど。この時を止めて、切り取って、何度でも味わいたいと思うのは変かな?」
「貴方ってたまに…詩人みたい」
「思ったまんまを言ってるんだけどなぁ」
「それでも…」
「パパー!できたよ!」
「お、偉いぞイーリス。じゃあ、特別に教えてあげるよ。それはね」
◇◇◇◇◇
能力、ネフィエルの瞳。
イーリスはアイゼンとロッドールの魔力が見えていた。更に付け加えるなら、色の違いや魔力の形の変化を見分け攻撃を避けていた。
アイゼンを見たときから何色か持っていることは分かっていた。硬質化と重力操作は切り替える直前で判断し、回避できる。
もう一人の魔法使いは二つの属性を同時に使えるようだが、単純に鈍い。
イーリスは二人を相手にしながら冷静に分析し、更には下にいる魔法騎士団一人一人が警戒に値するかを考えていた。
アイゼンは重力操作の能力に替えた時、攻撃に対する抵抗がほぼ零になる。
ジオ・グラス・バインドとグラビトンをすり抜けたイーリスはアイゼンの背後から回し蹴りを放った。
アイゼンは誤った判断を自覚し、対処しようとするところだった。もし、それが遅れていたら今頃首の骨をへし折られていただろう。
咄嗟に右腕で首を、左腕で胸を守ったことで死を免れた。ロッドールの元まで蹴り飛ばされ、魔法で受け止められた。
ディック・アイアンに切り替えた…。だが、そらすらも間に合わず、無防備状態で攻撃を受けてしまった…。
「くっ……!ここまでとは…ぐあぁぁ!!」
「ゼン!大丈夫か!?」
蹴られた左腕が…折られた……っ!
「ヤバすぎるだろ……あいつ、先読みしてるみたいだ」
「私も、そう思っていた…。能力や魔法に対して先手を打つように行動している……おそらくあの片目。私やロッドの癖のようなものを洞察しているのかもしれない」
全力を出さずにここまで差があるか…。
冷静に考えて、右腕が折れた時点でディック・アイアンでの勝機は皆無となった。グラビトンも効果は薄い。白玉蛍は触れるまでが難しいうえに、成功したとしても望むような結果になる可能性は低い。
だが、今の攻撃でふと考えついた。
殺す気がないから刀を使わないのではないか?
サイリスがしたように一点硬化を上回る斬撃を放てるはずだ。圧倒的な力でねじ伏せることができるにも関わらず、先読みをする理由は何だ?急所である首を狙わず胸を狙ったのがそれを裏付けする。魔法騎士団を切り捨てた時、躊躇いは感じられなかった。そうなると、能力で使い分けているということも考えられる。
とにかく。
「ロッド!」
「あいさ!…って分かるか!」
「刀を奪え!」
「はっ!」
アイゼンが「刀」と発した瞬間、イーリスが動き出した。そして、「奪え」と言われてから納得したロッドールが水の魔法を伸ばした。
私も刀ごと放り投げられたあの場所へ!
ディック・アイアンを発動し、アイゼンも走り出した。間に合わなくとも妨害することに徹すればロッドールがやってくれると考えた。
この距離なら届く……届く!!
全力で地面を蹴り、私は彼女に飛び掛かった。滞空の最中、右腕を精一杯伸ばし掌を大きく広げた。
イーリスは接近する魔力を感知し、アイゼンが背後にいることに気付いていた。
魔法使いは右…。左に、避ければ、
失速せず方向を変え、アイゼンの右手は空振った。
問題なし。あとは、放たれた魔法よりも早く刀を手に入れ、る…だけ……!?
あり得ない違和感。右足に重みを感じる…これでは……走れない!
「何が…?」
「…届く。いや。届いた、か」
アイゼンはしっかりとイーリスの左足首を捕らえていた。
くあぁっ!!硬質化しても痛みはあるか…。
驚いているようだが折れた左腕を支えに、一歩分の距離を縮めただけだ。左に避ける時右足を強く踏み出す。私はその後の、着地の左足を狙ったのだ。
勝利には繋がらないただの悪あがきだが、
「取った!!」
この数秒を稼げればそれでいい!
「っ!離せ!」
左足で蹴り飛ばそうとするが、アイゼンは離さなかった。
「刀を遠くに投げ捨てろ!!」
「分かった!」
「させない…!」
「悪いがロッドの元へは行かせない」
「邪魔するな!!」
イーリスは倒れた騎士から投げナイフを取り上げた。この距離では危険だと判断したアイゼンは掴んだ足首を思い切り引き、体勢を崩しに掛かった。
今までの手応えで倒せると確信していた。
だが、
びくともしない。
能力を解き片目の色が元に戻った彼女から強烈な殺意と気迫が漂っていた。




