清新と遺物
サイリスはいくら距離があっても意味がない。能力のせいか、身体能力のせいかは分からないが、斬撃が届く範囲がとてつもなく広い。そのうえ一撃一撃が鋭く、重い。
単純に刀を振らせなければいいと考えたが…。
エルド同様。いや、この重圧をものともしていない。だが、それも想定内だ。
「ジオ・グラス・ブラスト!」
私が囮となっている間に、ロッドールが雷と炎を同時に放つ、混合魔法を放った。
嫌々ながらも戦場に慣れているのかもな。
放たれた魔法を切り落としそうと構えるが、
グラビトンに込める魔力量を増やし圧力を高めた。更に、力の加わる部分を絞り威力を収束させた。
切り落とせないと感じたサイリスは攻撃動作を中断し、回避の動きに入った。
動きを遅らせたが…このままでは避けられる。
そこで、全員が予想しないことが起きた。
切り倒された魔法騎士団が一人一人が最後の力を振り絞って行動したのだ。一人は死を覚悟して掴み掛かり、ある一人は倒れながらも魔法を放ちサイリスを足止めしようとした。
責任を果たすため。彼らの信じるもののため。
その僅かな間がサイリスに魔法を当てることに繋がった。
命を捨ててまでの決断と行動に、アイゼンとロッドールは胸を打たれた。痛みや死への恐怖があるにも関わらず、一つの目的のために動いてくれた感謝と、その勇気と意思の強さを称えた。
お前たちの死、無駄にはしない…!
アイゼンはグラビトンを解除し、追撃に移った。
能力、ディック・アイアン!!
長引かせるものか!一点硬化!!
ウォンステッド・ナックル!!!
一点硬化した拳の連撃をサイリスに叩き込んだ。
同様に連撃で相殺されるがどこまで持つか、根比べだ。
以前はほとんどに対応できなかったかが、
「…見切った!」
胴に来た一刀を右手で握り締めた。
その時、フードが脱げはっきりと顔が見えた。
見なければよかった。
「サイリス……」
十年の時を経たにしては若い。いや、若さでは表せない幼さが感じられる。髪も短く、射殺すような眼光がない。よく見ると片目が淡く青い光を放っている。
別人ではあるが面影がある。
まさか…。
「…サイリスの血縁か?」
レナードの情報は確かに合っていた。だが、それは外見が似ているということであり、本人である保証は初めから無かった。
「お前の名は?」
刀を握っている状況では反撃はないだろうと思っていた。話し合える余裕はあると思っていた。
「…離せ」
「?」
彼女は力を込め、刀ごと私を壁に放り投げた。
武器を捨てたことに驚いた。どんな相手だろうと切り伏せるのがサイリスの戦い方だからだ。
以前の記憶が役に立たないと分かったアイゼンは、様子を見ることにした。一点硬化を解き、全身に硬化を広げ防御力を高めた。
アイゼンが自身の能力に集中している僅か数秒の内に、一歩で間合いに入られた。
流石だ!洗練された一挙一動の質と早さに思わず唸ってしまった。
拳を後ろに引く動作を捉え、腕を前で交差し衝撃に備えた。
しかし、それを知っていたかのように拳を軽く前に振り、こちらの間合いを逸らすと同時に両足に蹴りを放った。足を払われた私は体を支えるものが無くなったことで暫し宙に浮いた。そして、崩れた防御をすり抜け、顎を蹴り上げられた。
「くっ、おぉ…!」
痛みは無いが完全に遅れを取っている。先手を打たれると何もできなくなってしまう。
「この…手応え……硬質化…貴方、アイゼン?」
「…そうだが」
「やっぱり。母が言ってた。とても面白い人間だって」
「…面白い?」
「あと、レナードとインプラウス…他にもいたけど特に貴方は手強かったって」
「やはり、お前はサイリスの娘か」
「…」
「名は何という?」
「…」
「私はバーキンス・アイゼンだ。子供を相手にするのは気が引けるが」
手心を加えるつもりは全くない。
「ジオ・グラス・バインド!!」
ロッドールが土と火の混合魔法で足場を崩すと同時に攻撃を仕掛けた。
止まれば地面を凹ませて足を掴む!動いてるなら炎で攻撃する!
ゼンとの話し合いでどの時に何をするか分かってんだよ!
後は適当に、どうにでもなれ!!
意識がロッドールに向いたことを察し、アイゼンは能力を切り替えた。
能力、グラビトン!
ロッドールの魔法を生かすための追撃だ。喰らえ!
「…やっぱり」
完全に虚を突いた連携であった。致命傷を追わせられなくても、攻撃としては上出来のはずだった。
だが、彼女は全てを危なげなく回避し私の背後に立っていた。
もちろん、動きは速い。それに加え非常に目が良い。危機察知、安全圏を見分ける力、そしてそれら考慮した空間把握能力の正確さ。
能力、ネフィエルの瞳。
刀を使うまでもないということか…。




