綺麗事
8バースト。それは西方にあるテーブルゲームである。1から3のカードを使い互いに攻守を切り替えて行う。ルールは簡単。守がカードを裏側にして伏せる。攻はその中から一枚選ぶ。それを交互に行い、出た数の合計が8以上になった方が負けとなる。最短三回の攻守で決着が着く。
厳密には、1を選んだ時のみ合計から引くことができる。2、3は加算されていくが、1は減少していく。駆け引きで何倍にも楽しめる仕様になっている。
奴の能力もそれに忠実ならば一歩的な加算はあり得ない。拳と拳がぶつかった場合、互いに加算されてしまうのではないか?それでは相討ちも考えられる。
そこでエルドの言葉を思い出した。能力名を明かす前、「何回食らって、何回食らわせたか数えてる?」と言った。攻撃回数が最も重要であり、変動がする要因がこれしかないとすると。
「攻撃を食らうと加点され、攻撃を当てると減点される」
ロッドの魔法を食らった時にかなり焦ったが、この予想があっていれば私が当てた分2発の余裕がある。
悩むより、実際に手の甲を見ればいい。
視線を移すと、そこには予想通りの数字が浮かび上がっていた。
やはりな…。
私の考えで合っているようだ。能力が分かれば恐れることはない。
能力、グラビトン。
近付かなければいい。至極単純なことだ。
「…エルド?」
「ロッド!」
「あいさ!」
私に銃口を向けたルキエラより早く、ロッドールが壁を作成した。
「うぐぐ…っ!」
こいつ…!グラビトンの重力の中動けるのか!?
エルドは崩れた体勢を直し、ゆっくりと動きだした。
「天使だけじゃなく悪魔の能力も使えるんだ。狡いなぁ」
まずい…。まずいぞ。グラビトン発動中の私の身体能力はディック・アイアン発動時よりも低い。さらに防御力も著しく低下する。一撃で致命傷になりうる。
「ゼン。あいつの能力は大体分かったんだけど。近付かないとなぁ」
「一瞬でも近付ければいいのか?」
「一瞬は無理。何秒か欲しいよ」
「…そうか」
前方のエルド。上からの銃撃。一つずつ対処するしかない。
「ロッド、騎士達に魔法の数を増やせと伝えろ」
「その後は!?」
「あとは成り行きに任せろ」
「言ってる意味が…」
「その時に分かる」
混乱するロッドールに構っている暇はない。私はそれ以上に考えなければならないからな。
「手数増やしてください!!」
必死なロッドールの言葉は魔法騎士団に届き、ルキエラへの魔法の数や威力が増した。
「よし。これでエルドを倒せる。合図をしたら壁を解いて走れ」
「…」
「分かったな?」
「はぃ…」
今だ!!
ロッドールが魔法を解き、壁を消すと同時に私の能力も解除した。
ここからはエルドより速く動くだけだ。
エルドとの距離が詰まる。少し後ろでロッドールが息を切らしているのが分かった。
重力が消えたことでエルドは自由になった。こちらが二人いることに動じることなく反応し切れるだろう。
だが、
エルドが笑い、私に蹴りを放つ予備動作に入った。このままの速度で走れば確実にその攻撃を食らうだろう。
ロッドールの顔には「ヤバイ…!」と浮き上がっていた。
そんなことは分かっている。
だが、
エルドの能力に気付いたから。ロッドールがいるから…。
勝利への要因はいくつかある。
そして、最もそれに結び付いたのは。
能力、白玉蛍。
強烈な電撃がエルドを襲った。
「あっ…!」
後ろを走るロッドールはそれがアイゼンの能力の一つだと気付いた。そして、先程の言葉の意味も理解した。
ゼンはこれを狙っていたんだ!けど、いつ仕掛けたんだ?硬化している時は電気は使えないし、電気を使えば硬化できないし…。ま、いっか。距離が詰まればこっちのもんだ!
能力、フォース・イーレブン。
電撃で硬直した数秒。能力を奪うには十分だった。
「こん、にゃろ…!」
「終わりだ」
私はディック・アイアンを発動し、蹴りを放った足を掴んだ。
「げっ!」
「動きを止めれば…」
「くそっ!離せよ!!」
エルドは滅茶苦茶に抵抗したが、私には何の効果もない。攻撃回数でディック・アイアンに打ち勝とうとしたのは驚いた。だが、これは戦争であり一対一で戦おうなんて都合の良い話はない。
使えるものは何でも使う。弱点があれば徹底的に狙う。勝つため、生き残るためには当然のことだ。
「出会った時が悪い」
この場で会わなければ…正々堂々戦えたかもしれない。そうであったなら、勝敗は大きく変わったに違いない。
だが、責任を負うものとして結果を出さなければならない。
時を。場所を。恨んでくれ。
一点硬化…っ!
私はエルド腹に強烈な一撃を叩き込んだ。衝撃で後方へ吹き飛び城の壁を突き抜けて湖に落ちた。
「圧倒的力、圧倒的数の前に…」
綺麗事は成り立たない。
エスティアーナが滅んだ時、私はそう学んだ。




