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B MAIN  作者: 半半人
ハインシス編
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閃天三暗風

ブルグーン鉱石。

強度重視のオーガッド鉱石とは違い、魔法伝導の性質を持つ鉱石の一つ。魔法を使える者がブルグーン鉱石の武器を使うことで効率良く敵を討つことが出来る。

 轟音が響く中、シナは空車に辿り着いていた。


「…あった!」


 空車の荷物入れに自分の武器があること確認した。


「本命を使う前に来るなんて…」


 悪魔は姿形は人間だが、見た目に大きな違いが二つある。一つは褐色から黒という肌の色である。二つ目が、獣に近い形相と角や羽などである。


 その見た目通り身体能力は人間より高い。



 武器の一つであるダガーを握り、悪魔に向き直った。


「貴方一人?仲間がいたらもう来てる頃よね?」

「…」

「話さない?話せない?」

「…」

「どっちでもいいけど、ね!」


 踵を二回鳴らした後、悪魔の元に飛び込んだ。


 ダガーを両手で握り、体当たりと突きを同時に繰り出した。悪魔は後ろに飛び攻撃を避けたが、体の数ヵ所に傷を負っていた。


「お喋りな男は嫌いだけど、つまらない男も御免なの」


 シナの魔法は風を操る。移動、防御、攻撃と全てに対応できる上に、空気を震わせながら耳に届く全ての音を拐う。

 シナの風は無音で相手を切り裂く。


 対する悪魔は腕に氷を纏わせ、剣を産み出した。氷柱による攻撃はシナに効かないと分かってのことだろう。

 互いに沈黙し、円を描くように間合いを取った。少し間を空け、悪魔が先に動き出した。

攻撃に適する時を見計らっていたということは何かある。そう思ったシナは横にステップして、詰められた距離を開こうとした。だが、進行方向に形成された氷の山が完全に逃げ場を塞いだ。シナは悪魔に注意し、攻撃を避けることにした。風による機動力で簡単に躱せる…。


 氷の剣は空を切り、シナは剣の回避に成功した。そして悪魔による第二の攻撃、剣から伸びた新たな氷の棘がシナを右足を貫いた。


 シナは常に最大限の警戒心と集中力で戦闘に臨んでいる。相手が人間であれば起こるはずのない事態であった。そう、悪魔についての知識が欠けていたのだ。



「ぐ、うぅ…」


 貫かれた場所から凍結が始まり、右足の感覚麻痺してしまった。当然、悪魔はこれを狙っていた。シナの脅威はその速度にあると初めから分かっていたから。逆に、それしかなかったから。迷いのないその行動はシナの機動力を削ぎ、攻撃が確実に当たる状況を産み出した。優位に立ったことが確定したのだ。


 ただ、悪魔も人間のことを知らなかった。故に敵の前で動きを止めてしまう。


 負傷しているとはいえ、その隙をシナが見逃すはずがない。


「無様に、飛べ…!」


 鈍い一音と同時に、悪魔は後ろに吹き飛んだ。氷の山を突き抜け、木々をなぎ倒してもその速度はなかなか落ちることはなかった。


 当然、悪魔は何が起きたのか理解出来ないでいた。巨大な何かが衝突したような、押し飛ばされたような…。



 攻撃には三種類の系統がある。点と線。そして、面。

 シナは風による線の斬撃を面の打撃に変換し、至近距離で放ったのだ。簡単にいうと、爆風に似た衝撃を悪魔に食らわせた。


「あぁ、悪魔に同情するよ」


 そこでアイゼンとシナが合流した。


「出血しているようだが?手を貸そうか?」


 シナに近付き、手を差し伸べたところで異変に気付いた。傷を負った場所の凍結が収まっていない。悪魔の魔法の厄介なところだ。


「私が相手をするしかなさそうだな」

「…いらないわ」

「なら、空車で寝ていろ」


 離れてしまった空車にシナを運び、元の位置に戻った。そして、能力で硬化し、悪魔の元へ歩を進めた。硬質化は氷との相性がいい。簡単に倒せる。そう思っていた。だが、悪魔は空に飛んでしまった。今までそうしなかったのは、シナの風で自由に飛行できないと思っていたからだろう。


「これでは。相手にならないな」


 再び空中で氷塊を生成し始めた。空中にいるため、手が出せない。一度目よりも更に巨大で先端を尖らせたそれは拳では到底壊せる物ではなかった


 だが、それで構わない。


「お前が私にばかり注意を向けるから」



 狩人の存在を忘れるんだ。



「アイゼン愛してる」


 心にもないことを呟くシナは、



 悪魔に照準を合わせていた。


 オーガッド鉱石とは違う、しなやかさを持つ金属で出来たその弓は群を抜いた破壊力を持つ。


 ブルグーン鉱石の弓は、シナの魔法を加えることでその性能を更に高めることが出来る。


 矢にふぅと一息添えると、周囲の風が止んだ。


閃天三暗風(せんてんみくらかぜ)


 その矢は。静かに標的だけを射抜く。


 シナの攻撃は線、面、点と全てに対応している。その中でも、弓による攻撃は比較にならないほどの力を秘めていた。


 放たれた瞬間から最高速度に達している矢は、放物線を描くことはない。


 一方、本能的なもので自身の危険を感じた悪魔は飛んでくる矢に反応し、形成した氷の剣で払い落とした。



 が、



 シナが放った“閃天三暗風”は最速の矢を同時に三射する技である。

 例え最速の矢に気付き、打ち落としたとしても、


 残る二本が相手を絶命させる。



 シナの攻撃が命中すると、悪魔の魔法が解け足の凍傷が収まった。


 そして、空中の氷塊が水と化し、その真下にいるアイゼンの全身を濡らした。


「…どうやら、やってくれたようだな……!!!」


 敵を倒したことは素直に評価する。だが、解けたての氷水は冷たすぎた。


 アイゼンは悪魔が本当に死んでいるのかを確認し、空車にいるシナの元へ向かった。


「お疲れ様。もう、大丈夫か?」

「ええ。おかげさまで。それより、悪魔から離れると魔法の効果が弱くなるって知っていたの?」

「もちろんだ」

「私も貴方に試されてたのかしら?」


 シナの笑顔にアイゼンも笑顔で返せるようになったところで、ようやくシナに対する抵抗のようなものが完全に消え去った。



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