その先
「お待たせしました」
「早っ!?」
戻って来るレナードを見た。激しい戦いの跡が残っているかもしれないと思った。だが、行く時と特に変わりはない。
ポケットに入っている時計を見ると経過時間として三分弱。天使を一人で倒すのには早すぎる。
「めっちゃ早いんだけど?」
「驚いてるようですが、期待している答えはありませんよ」
レナードのことだ。何か上手い策にでもはめたんだろう。
「お前って凄いんだな」
「いえいえ。まだまだです」
ロッドールにはその返事が謙虚なのか皮肉なのか分からなかった。
◇◇◇◇◇
「ぐっ…そおぉ!!」
シナの放った矢はドラギオンの脇腹を貫いた。
「はっ!?お前が!」
「遅い!」
ジェリテがシナに視線を移した時、足元を崩した。
「これで…」
「邪魔をするな!!」
倒れながらも体を捻り、蹴り飛ばされてしまった。
痛みは…無いが、シナとの距離が開いてしまった!戻らなければ!!
素早く体勢を整えたジェリテはシナに近付いた。身体能力の差もあり、アイゼンが追い付けることはできなかった。
ジェリテが拳を振り上げた。
シナに逃げる余裕は無かった。
魔法騎士団は半数がドラギオンに追撃を仕掛け、残りの半数がシナの元に駆け寄ろうとした。だが、アイゼン同様、離れすぎていた。
間に合えっ!!!
地面から足が離れるまでの一瞬がとても長く感じた。
一点への集中がアイゼンの感覚を研ぎ澄ませていた。それと同時にどう足掻いてもジェリテの攻撃を防げないことにも感付いていた。
分かっている…。分かっているが、あいつを死なせる訳にはいかない!!
アイゼンは手を伸ばした。
すると、ある音に数人が気付いた。空気を裂く鋭い音。それは聞き覚えのある風の音。
ドンッッ!!
一回、遠くで何かが響いた。
これは…!
次々と爆音が響き、計六回。フリッド・フランの破壊の波が訪れた。着弾した一本の矢から放たれる強烈な爆風は建物を容易く破壊し、中心に近いアイゼン達にまで届いた。
「これは!?」
「聞いてないぞ!!どういうことだ!?」
あまりの出来事にその場にいる全員が思考を止め、動きを中断した。
だが、私は分かる。もちろん、シナもだ。
ジェリテの真横を駆け抜け、シナを抱き上げた。
「あいつ、か」
「…燕天六輪大砲が真似できるなんて」
これには私も驚いた。
「とりあえず、レナードに助けは伝わったようだな」
後は指示を待つだけだ。援軍を待つか、次の攻撃を仕掛けようとしてるのか。
レナードは何をするつもりだ。
「何もしませんよ。現場はそっちに任せます」
建物が崩壊が進むにつれ、感覚が戻っていく。手足に魔力が通う、あの感覚だ。これなら……使える…!!
能力、ディック・アイアン!!
まだ、微力だが発動できる…!
「シナ!」
「ええ!分かってるわ!」
「「畳み掛けろ!!」」
魔法が、能力が使えるなら勝機は格段に上がる。ましてや、こちらの粘った末の結果だ。流れはこちらのものだった。
「ジェリテ、お前は下がれ!」
能力、枯れ木の竜!
竜に姿を変えたドラギオンは尾で全員を薙ぎ払おうとした。
「…っ!!」
「な、に…!?」
こいつの能力は自分を竜に変え、身体能力や感覚を強化するものだ。そういう相手は、
「私以外には倒せない……!」
両手で尾を受け止め、ドラギオンとの距離を詰めた。
「うおぉぉ!!」
「させるかぁ!!」
伸長した手足で攻撃を繰り出してきた。食らえば吹き飛ばされ、相当の衝撃を受けるだろう。
ならば、避けるだけだ。
左右からの攻撃は上下に。上下なら左右に体を移動させる。無駄を避けた最小限の動きで、相手を翻弄する。
「ちょこまかと、しつこいぞ!!」
殴打に加え、尾での攻撃。一手を避ければ、一手を受ける。攻撃の挟み撃ちだ。
ならば、受け流すだけだ。
硬化した腕で壁を作り、尾の動きを誘導した。そして、間に合わない正面からの一撃を一点硬化で受け止めるた。
「ぬおぉぉぉあぁぁぁ!!!」
「…ここ………少し遅れて…次はフェイント………っ!」
大分熱くなったが、落ち着け…。攻撃の間合いとタイミングを読みながら冷静に攻撃を回避した。ドラギオンとの距離をさらに詰め、
届く!そう感じた時、すぐに拳を握り連撃を繰り出した。
ドラギオンより速く。
「…ぉぉぉうおぉぉぉ!」
ドラギオンより重い。
能力、ディック・アイアン!
さらに!
一点硬化の応用、ウォンステッド・ナックル!!
右腕を一点硬化し一撃の威力を高めて殴る。殴った瞬間に左腕に一点硬化を移し再び殴る。殴ったら再び右へ、左へ…。
竜の攻撃と鉄拳の連撃。どちらが上か、
試すまでもない。
ドラギオンも負けじと抵抗するが、攻撃を相殺し一撃一撃を四肢に叩き込み、胴や顔にも確実に拳を放った。
「…終わりだ」
ドラギオンの攻撃を弾き、避けながら見出だした隙間に拳を繰り出した。
「ごっ…おぁ……!」
その前に食らった攻撃の数々に加えとどめの一撃。立ち上がれるはずがなかった。




