数々の才
レナードとロッドールは場所を移しながらフリッド・フラン内部に行った二人の様子を伺っていた。
「レナード」
「何ですか?」
「あれ、あんなのあったっけ?」
「…あれは……!」
魔法騎士団には魔法以外に合図を送れるよう発煙筒や発光弾を備えさせている。それらを状況によって使い分けるように指示しているが、今回見たのはそのどれにも当てはまらないものだった。
「あの色の煙って?」
「あれはゼンさんに渡した物です。意味は危機、援軍を求めています」
「もしかして、危ないから来るな。ってこともあるんじゃね?」
「その可能性もありますが何もしないのは状況を悪化させます」
急に静かになったことを踏まえ、ロッドールの危険を知らせるためという考えに乗ることした。
「ロッド、これを」
「え!?これ、いいの?」
「ええ。一階申の僕が命じます」
「…とりあえず拝んどくわ」
組み立てられた弓をロッドールは受け取った。
「結構デカいな」
ずっしりとくる弓を何度も握り直してみた。
「それで一帯の建物を破壊してください」
「ちょっ…!」
「フリッド・フランはゼムレヴィンの内地ですから。大丈夫です。これも階申命令です」
「…何か信用できないんだよなぁ」
そう言いながらロッドールは近くの兵から矢筒を受け取った。その矢も特殊で何度もまじまじと見た。そして、時間を掛けた末にようやく矢を番えた。
能力、フォース・イーレヴン!!
ロッドールの能力は相手の能力を奪い使用すること。その際、同じ系統・属性の能力を奪うと一回で発動できる力が増える。風の魔法を二人から奪うと、一回で二人分発動することができるということだ。
「えっと…燕天六輪大砲!!……だっけ?」
シナの魔法には及ばなくとも、ロッドールの集めた魔法はシナの技を再現するには十分だった。ただし、魔法をいくら真似たとしてもそれを行う技術とは全く別物である。ロッドールはシナと同等の魔法で、同等の武器を使い、それっぽく燕天六輪大砲を放ったのだ。
完成度としては七、いや八割ですか…。
隣で見ていたレナードはその技に感心していた。
「上出来です。まさに、期待通りです」
「ま、そう言ってくれるなら悪い気はしないよ」
風に乗った矢が湖を越え、着弾し炸裂した。
「もし人がいたらどうすんの?」
「それはありません。天使は人間を生かしておかなければいけません。死んだら魔力を貰えなくなってしまので、地上には絶対にいません。地下で飼っているといった方がいいでしょう。人間を守りつつ、逃がさないようにするには地下が一番ですから」
「…それは、長年の経験ってやつ?」
「はい」
「そっか…」
ロッドールはレナードの大変さをなんとなく汲み取った。
「ん?こちらに気付いた天使が一体近付いてきます。撃ち落としてください」
「それには気付いてるし、やってるけど…当たんないなぁ」
天使の飛行に加え、ボッ、ボッ、という音が聞こえる。それに結構速い…。
ロッドールを含めた魔法騎士団の魔法も全て避け、天使が二人の元に辿り着いた。
「…ふぅ」
数ある攻撃を避け、一人の天使がやって来る。レナードはその状況に見覚えがあった。
「懐かしいな。レナード」
「…リーン・ジェット」
「来ると確信していた」
「あの時死んだと思っていたんですけどね」
知り合い!?ロッドールは交互に二人を見た。
「降格して今では一般兵扱いですよ」
「で、命令に背いてこっちに来たわけですか」
「あの屈辱を忘れると思うか?」
「死んでれば何も気にしなくてよかったのに。ロッドール、五分。いや、三分。持ち場を離れます」
「マジで!?」
「ほんの少し指揮を任せます」
「お互いに十年ぶりですから。待てないんですよ」
◇◇◇◇◇
ジェリテの攻撃を回避しながら忙しなく視線を移動させるアイゼンが立ち止まった。
「…全力で打って来い」
そして構えた。
「次で決める」
こちらを一度見てからジェリテの接近を待っていた。
そこでシナは異変に気付いた。
アイゼンの言動が一致していないことに何か引っ掛かる。最後にこちらを見る目は何かを訴えていた。おそらく、いや。アイゼンは私が思ったように動けないことに気付いていた。そんな私に何を求めたのか?
発言。行動。そして、立ち止まった位置。これらが何を意味するのかシナは考えた。
第一に何を見ていたのか?視線の先に何があったのか?それに気を付けて辺りを見回した。
次にジェリテへの挑発。「打って来い」は私に「狙いをアイゼンにして矢を射て」ということを意味するのではないか?そうすると、「次で決める」という言葉にも繋がる。
何が目的かは分からないが、全力で矢を射てばいいのね?
シナはしゃがんだ状態で動作に入った。腰の矢筒から一本引き抜き、放つ時に備えて身構えた。
アイゼンが動いた瞬間。それが矢を放つ時だと、シナは感じた。
ジェリテがアイゼンに近付く。跳ねるように一歩…素早く次の足を出す。そしてもう一歩…完全に距離が詰まった。攻撃動作と共に始動したアイゼンを確認し、矢を放った。
アイゼンが蓮捻を繰り出しジェリテの片腕を破壊しているのを見ず、矢の行き先のみに注目していた。
放たれた矢はアイゼンがいた場所を通り、一直線にある人物へ向かう。
完全に予想外であった。戦ってすらいないドラギオンが矢の先にいた。そこでようやく気付いた。アイゼンはシナとドラギオンを結ぶ直線上にいたのだ。
魔法騎士団の動きとドラギオンの動きを読んでいた。そして自分の体を壁にして、寸前までシナと放たれた矢を隠した!
その前に魔法騎士団に声を掛けたのもドラギオンを狙っていないと思わせる演技!
能力が使えない状況で、二人の天使を同時に倒す方法を思い付くアイゼンは異常だ。ましてやそれを実行するなんて…。常人の思考を遥かに越えている。
驚愕しアイゼンの考えが理解できた頃。ドラギオンの脇腹に矢が刺さった。
「ぐおぉっ!!」
小型で近接戦闘でも使える迅天の矢は鋭さと速さに特化している。アイゼンの死角を利用した以上、回避は不可能だ。
「…天才だな」
「今さら?」
アイゼンは素直にシナを褒め、シナはまるで当たり前のことのように強がった。




