抱える矛盾
共にいた魔法騎士団は半数にまで数を減らしていた。単純な身体能力と魔法が使えない状況がシナ達を苦戦させていた。
自身は大丈夫だが、全員は守れない。残り半分も時間の問題だ。
「大分減ったのお。魔法が使えなくなればそれも当然か…。しかし、女のくせによく耐えおる」
「…ちっ……」
「ドラギオン。こちら大体片付いた」
くっ!魔法が使えればこんな奴らに遅れはとらない。部下もこうなることはなかった。
だが、それは事実に対する言い訳であり、結果が全てであることも分かっていた。
「シナっ!!」
「誰だ!?」
「アイゼン…!」
全身が濡れているアイゼンがシナと合流した。
「ジェリテ、あいつは任せた」
「了解した」
させない!
シナは腰に携えた矢を抜き、後ろを振り返ったジェリテに放った。
しかし、
「そうはさせんぞ?」
間に入ったドラギオンに叩き落とされた。
◇◇◇◇◇
能力を使わずに天使と戦えるか?
「待ってくれ。この能力はお前のものか?」
「え?あ、あぁ。そうだ」
「そうか。それで、この能力の範囲は?」
「自分の能力を明かすと思っているのか?」
「さぁな。ただ言ってみただけだ」
アイゼンは時間を稼いだ。武器を持っていればまだしも、能力を封じられては手も足も出ない。
「もう一つ聞きたい。刀剣を使う女性の天使はいるか?」
「…これぐらいなら答えてやろう」
その言葉を発すると同時に右拳が接近した。
「はっ!」
「避けたか…。お前が勝てば教えてやる」
「…面倒だな」
私はジェリテに向き合い、構えをとった。
「いくぞ!」
「!」
低い姿勢から突進し、右腕を後ろに引き殴りかかった。それを察知したジェリテは横への回避に転じ、反撃しようと試みた。
だが、私の目的は攻撃することではない。
ジェリテが横に動くと同時に、攻撃体勢を解いてシナの元へ走り出した。
「あ!待て!!」
「分が悪いんでな」
そしてシナに注目するドラギオンに体当たりを食らわし、シナの側に辿り着いた。
「二対二なら勝てそうじゃないか?」
「…そうね」
「……レナードに合図は送ってある。少し耐えればなんとかなる」
「じゃあ…全力でいくわ。追い付いてこれる?」
「その台詞はハインシスでも聞いた」
ふっ、と息を小さく吐き、ジェリテとドラギオンを睨んだ。
「そこの騎士団!!階申一人に戦わせるとはどういうことだ!お前達はゼムレヴィンの剣であり盾ではないのか!?」
利用できるものは何でも使う。数が少なかろうが、満身創痍だろうが手心は加えない。
「お前達の力を!覚悟を見せつけてやれ!」
おぉぉぉ!!!
らしくないが、少しはまともに戦えるだろう。
「貴方がリーダーみたいに振る舞うなんて」
「言われなくても分かっている。それよりも、お前の方が私に付いてこれるか?」
「…余裕だわ」
どちらを先に倒すかは明白だ。ジェリテを、狙う!
武器を持った魔法騎士団にドラギオンを任せ、ジェリテに接近した。
「単調な攻撃が効くか!」
だが、近付いただけで攻撃はしない。相手の出方を伺った。
そこでジェリテは考える。言動が攻撃的にも関わらず何もしないのはなぜか。別の狙いがあるのか?
対し、アイゼンは周囲を見て状況を細かく把握した。敵の動き、味方の動き…。何よりもその速度を知る必要があった。
合流して分かった。交戦していたシナに最高のパフォーマンスは期待できない。口では強がっているが、衣服で隠れているが。相当の殴打を食らっているだろう。二人でジェリテを相手にするつもりだったが、それは難しい。
能力が使えない状況を解決するのは私たちにはできない。すると、レナード達の援護が必要になる。だが、この状況では少ない手数で相手を負かす必要がある。
熟考しながらジェリテの攻撃を二、三避け、
「その拳は飾りか?全力で打って来い」
真っ直ぐに相手の目を見て、半歩右足を前に出し身構えた。
普通の挑発だが、しっかりと伝わったはずだ。
「次で決める」
私は立ち止まり、ジェリテの接近を待った。人間に攻撃を避けられて苛立たないはずがない。調子に乗った分かりやすい挑発を許すはずがない。
小さく息を吐き、目と耳に神経を集中させた。地面を蹴る音。ドラギオンと魔法騎士団の交戦音…。
雑音は捨てる。距離を詰めるジェリテの衣擦れ音も拾うぐらい集中しろ…!
あと二歩で間合いに入る。そこで私は始動した。
タッ…。
あと一歩。
動きは追い付けるか?無駄な動きはしないか?不安が過る。
身構えた体勢を維持し、重心を少しずつ移動させた。全てはその先の動作のため…。
タッ…。
来た!
「死ね」
ジェリテの拳が空を切る。致命傷は免れないほどの速さで繰り出された。
お前に分からないだろう。最初に身構えた時の半歩。それが決め手だ。
歩法、蓮捻…!
レナードやヘイヴェンスの様に完璧ではないがな。背後に回った私は少しだけ笑ってしまった。
辛うじて捉えた残像を追い、ジェリテが振り返った。それに加え、振り返る遠心力を利用した裏拳を繰り出した。
繰り出したつもりだろう。が、それを待っていた!
左手で拳を受け止めながら、伸びきった左肘に右手の掌底を叩き込んだ。
鈍い音と確かな手応えを噛み締めた。
『関節の簡単な壊し方教えましょうか?』
あの時の話に興味は無かったが、一応感謝しておくぞレナード。
私は距離を置いて急いで視線を移した。
「…天才だな」




