生死の価値観
急げ!
アイゼンは能力を解除し、水面に浮上した。
急いでシナ達と合流しなければ…!
しかし、泳いでいる最中。再び水中に引きずり込まれてしまった。
「見ぃ付けた!」
「レムが先に見付けたのにぃ!」
二人…いや、双子の天使…?
「ごぼっ!」
それどころではない!離せ!!
アイゼンは足を動かして振り払おうとした。だが、びくともしない。
「ダメダメ!」
「水中じゃミア達には勝てないよぉ」
双子の天使は玩具で遊ぶ無邪気な子供の様に笑った。
「水中じゃ勝てない」ということ、普通ならば水中では話せないこと。このことから、二人は水中での活動が可能、もしくは特化しているものと考えて間違いない。
「何考えてるのぉ?」
「!?」
相手の能力を考察している間に、ミアに左腕を捕まれた。
地上の様に地面を蹴る予備動作が無い分速く感じられた。
「この腕もーらいっ!!」
ミアは左腕の関節と反対方向に力を加え、肩を掴んで千切ろうとした。
「っ!」
「きゃ!危なぁい!」
右腕で攻撃するが水の抵抗で簡単避けられてしまった。
アイゼンは少し焦った。体に触れた瞬間に能力を白玉蛍に切り替え、攻撃を試みようとした。だが、それを行っていたら左腕は胴から離れていただろう。
何より人体を破壊することに慣れている。一度関節を折り、弱ったその部分を引き千切ろうとしていた。硬質化していなければ…。
能力は一度に一つしか発動できない。白玉蛍を発動すればディック・アイアンは使えない。ただでさえ、水中で行動が制限されているというのに…!
更には、ディック・アイアンの弱点である呼吸を封じることができており、長期戦になればなるほど不利になる。一度退いて体勢を立て直したいところだが、私を逃すはずがない。二人いることも考慮しなければならない。
ロッドールなら…。
だが、合図は出せない。何をするにも、水の外に出る必要があるからだ。
「クスクスクス。あなたが誰かは知らないけど、運が無かったねぇ」
「湖に落ちなければこんなことにはならなかったねのにねぇ」
「「他の人みたいに上手に壊してあげるよぉ」」
それは、
「ぼぼびびだひんべんひひぼうなぼぼぼびだ、どぼばえでひひんだな?」
「…ぶばっ!」
ここにいた人間に非道なことをした、と捉えていいんだな?私は水中でそう言った。
アイゼンは一つだけ心に決めていることがあった。
天使、悪魔関係無く私欲のために殺しはしない。殺すと口に出すことはあっても実際に手を下すことはない。
だが、善悪に対する分別はある。
他人の不幸や苦痛を喜び、残虐な行いを見過ごすことはしない。
それも天使だろうが悪魔だろうが関係無い。
殺しはしないが、それ相応の罰は受けるべきだ。
一点硬化…!
アイゼンは二人に警戒しつつ硬化を集束させた。その目的は防御ではなく、攻撃でもなかった。
「そろそろタイムアップでしょぉ?」
「死ぬまでここで見ててあげるねぇ」
自分の土俵で余裕を見せたのが。お前達の敗因だ。
私は腹部に力を込め、頬を膨らませた。
そして、一息。
呼気を硬化することで肺活量を強化し、空気を吐き出す力を最大限高めた。
吹き出された空気によりアイゼンは後方に進み、二人はそれによって発生した強烈な流れに押されてしまった。
少しの時間と距離が稼げれば上々。
能力、グラビトン!!
能力を切り替え、強力な負荷を掛けて二人を沈めた。それを確認した私は全力で浮上し、ありったけの空気を取り込んだ。
「ぶはっ!…はっ、はっ、はっ!!…はぁ…はぁ…」
酸素が全身に行き渡り、視野が広がり頭が冴えた。
「…シナが待っている……!」
私が今やることは我を通すことではない。先に乗り込んでいるシナと合流し、勝つことが目的だ。二人の天使を相手にしている場合ではない。
水底で二人を圧迫する力を弱め、能力を解いた。
「水中だろうが関係無い。いつでも殺せるということを忘れるな」
設置された梯子を登り、フリッド・フランに上陸した。
能力、ディック・アイアン!
硬化した足で地面を蹴り、交戦している場所へ向かった。
しかし。
…!?
アイゼンは思わず転んでしまった。
能力が発動できない…!?
ディック・アイアンが強制的に解除されたうえに、発動できなくなってしまった。アイゼンはすぐにそのことの重大さに気付き、生身でそのまま走り出した、
魔法や能力がなければ白兵戦で人間が天使に勝つことはほぼ不可能だ。魔法騎士団も例外ではない。
このままでは全滅もあり得る…!




