無自覚の葛藤
「来た来た。あいつらホントに来たぜ」
「そうなることを予想しての結果だ。なって当然、驚くことではない」
「んだよ。偉そうに。先にてめぇをぶっ殺してやっか?」
「お前こそ早死にする奴の代表例のようだ」
「てめぇは今ここで死ぬけどなっ!」
「やめろ。馬鹿丸見えの愚か者の小僧が。お前たちが何をしようが、ほれ。敵は目の前だ。蹂躙しろ」
「…貶しすぎでは?」
「んなもんいいからよ。一番最初に来た奴、オレが殺るぜ」
「好きにしろ。それよりも」
その場にいた三人の天使がフリッド・フランにある塔の頂上に居座る一人の女性を見た。
「お嬢の気を損ねることはするでない」
「へいへい」
「それは承知している」
「ヴィクティム、お前は切り込み隊長じゃ。人間どもの出鼻を挫いてやれ。ジェリテ、お前は能力で敵を翻弄しろ」
「ジジイは何すんだ?」
「片方の奴等に伝えに行く」
「オレ以外いらねぇよ。先行ってんぜ」
ヴィクティムは羽を広げ、一方の橋からの人影に向かっていった。
この時、フリッド・フランにいる強力な天使は六人。防衛戦の攻軍にはヴィクティム、ジェリテ、ドラギオンの三人が指揮をしていた。
敵が来ても拠点に近付けなければ意味がない。接近される前に叩き潰す。
至極簡単なことだった。
◇◇◇◇◇
魔力の温存として馬で静かに行軍していた。
「…そこです。そこでもお願いします」
レナードは魔法騎士の一人に拳より一回り大きい魔潜石を手渡した。
「何をさせているんだ?」
「そんな感じです」
「おい」
「アイゼン。少し静かにしてもらえますか?」
さっきからこの様子だ。これからの戦闘を考えて思考を研ぎ澄ましている。邪魔するわけにはいかないな。
「…」
シナも城を出てから黙りだ。
「…ゼン。フリッド・フランってどんな所?」
「地図は見ただろう。興味があるのか?」
「これから戦う場所ぐらい知っときたいんだ。それに、ホントは綺麗なとこなんだろ?観光じゃないけど、しっかりと見てみたいしさ」
「変?」
「いいや。ここは良い場所だ」
私たちを乗せた馬が止まり、フリッド・フランの全容が見えた。
広い湖の真ん中に聳えるフリッド・フランは不変の魅力を保っていた。湖の青と最も相性の良い真っ白な材質で建てられた城は水面から跳ね返る陽を浴び淡く光っているように見えた。広大な湖に佇む城は、先人が追求した儚い美しさを物語っていた。
「すっげぇ……。綺麗だなぁ…」
「天使がいなければ、私もそう思っていた」
ここが戦場になるんだ。見とれている場合ではない。
「それでは、配置に着いてください。ゼンさん、初手が一番大事ですよ」
「分かっている」
その場にいる全員が何かを言おうとした。おそらく励ましの言葉だろう。
だが、
「信じて…待ってろ」
それは必要なかった。
◇◇◇◇◇
「…先手を打たれた」
「ジェリテ?」
「ドラギオンか。いや、人間が近付いているのは魔力で分かっていたんだが。上手く騙された」
「爺になるとそういうのは疎くてなぁ。感知に優れてお前を欺く奴がいるとは。人間も面白い。それより、ほれ。一人の男がヴィクティムと衝突するぞ」
「見る価値なんてない。人間が天使に、ましてや一対一で勝とうなんて無理だ」
「お前は感じんのか?あの男の魔力、とても奇妙じゃないか?」
「興味がないので」
ジェリテは仲間のことよりも騙されたことの方が重要だった。フリッド・フランは湖の回り木々が生い茂っている。そのため、人影を視認するよりも魔力を感知する方が有利であった。しかし、森の中の数ヶ所、さらにはフリッド・フラン周辺に魔力の霧が発生していてこちらの索敵が無効化されていた。
誰かが魔力を垂れ流している?否、そんなことに人員を割く余裕はないはずだ。ましてや、この魔力量は人間では考えられない。
魔力を含む何かを霧状にして撒いているのか?だが、そんなものが存在するとは聞いていない。
もし、それを狙っているのだとしたら。
我々に対して戦い慣れている。慣れすぎている。
「本気で殺しに来ているな……!ドラギオン!敵の大将はジェリテが相手をする!!」
「構わんよ」
「よし。では、こちらからも動くぞ…!」
ジェリテは森に潜むレナードを目標にした。
◇◇◇◇◇
「よぉ」
私はフリッド・フランに架かる一つの橋の上にいた。
「一人で来る度胸は買うぜ」
ヴィクティムはアイゼンとの距離を詰め、拳を振り上げた。
能力、ジャイロ・ブラスト!!
「どんなに強くても!この衝撃は内臓まで伝わっててめぇをぶち壊……!」
「…退け」
能力、ディック・アイアン……!!
アイゼンは一撃でヴィクティムを殴り飛ばした。
「お前に用は無い」
来いよ。
アイゼンはフリッド・フランにいる全天使を挑発した。
人差し指を向け、二回曲げた。
本命はサイリスだ。それ以外に興味は無い。
ヴィクティムを一撃で倒したことを警戒したのか、百あまりの天使がアイゼンに接近した。
どんな奴だろうが、
アイゼンは迫り来る天使を一人ずつ殴り倒していった。
どんな人格だろうが、
更に強い天使が次々に襲い掛かってくるが、ディック・アイアンの硬化を上回るほどの威力は無い。
どんな能力だろうが、
小細工は通用しない。圧倒的な、あの斬撃に比べれば他の攻撃も防御もたかが知れている。
どんな数だろうが、
復讐を目の前にした私には全てが虚しい存在だ。
数多の攻防を繰り返しながら隙を伺った。そして、私が攻撃を受けない一瞬を狙い、
能力、グラビトン……。
能力を切り替えた。
ドンっ、という低い衝撃音と、アイゼンを含む大勢の天使が橋と共に崩れ落ちた。
シナ。ここからはお前の番だ。
湖に落ちるアイゼンは、何故か塔の頂上に視線を奪われた。




