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B MAIN  作者: 半半人
ハインシス編
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穿つ拳撃

ゼムレヴィン。

現時点で人間界最大、最強の国。被害は少ないが、人間界を総括するため常に動いている。魔法と技術の最先端である。

 約束の日。


 ヴィスティンハイムに空車が一つ舞い降りた。空を飛ぶ馬と、それを操る騎手。そして中にはシナがいた。


「おはよう」

「…あぁ」


 ゼムレヴィンの階申が身に着けることのできる制服。白ベースに黒のラインがいくつか入り、所々の銀のアクセントが散りばめられているそれは、シナが身に着けることでより美しく輝いていた。


「どうしたの?」


 首を傾げ、微笑むシナは更に美しかった。


「…調子が狂う」


 女性との関わりは…ないわけではないが。こうも美人だと話しづらい。

 少しの気まずさを抱え、私は空車に乗った。向かい合う形で椅子に座った。隣にはまだ無理だ。当然、道中は目を合わせられないので窓から外を眺めていた。


「ねえ。天魔大戦について聞いてもいいかしら?」

「それが目的だろう?飽きたら飽きたと言ってくれ」


◇◇◇◇◇


 天魔大戦。


 それは、天使と悪魔の争いである。天使と悪魔は領地と資源を求め、人間界にも被害が及んだ。それに巻き込まれた一つにアイゼンのいた国もあった。

 苦肉の策として、真っ向から戦いを挑む、罠を張り一網打尽にする、守りを強化し持久戦に持ち込むなどなど。国規模で対策が進められた。だが、アイゼンはどこにも所属することはなかった。絶対に成功しないと思ったアイゼンは全く違う角度で戦争に臨もうとした。


 時間が経ち、考案された様々な作戦が人間界で実行されたが、どれもが失敗に終わった。全人類が絶望し、諦めかけた時。


 当時から最大の国であったゼムレヴィンにアイゼンは現れた。


「時間をくれ」


 それだけを伝え再び姿を晦ませることになるのだが、その言葉通りある時を境に天使と悪魔の侵攻が完全に停止し、一時休戦にまで持ち込んだ。人間界が体勢を立て直すのに必要な期間を得て、領土を取られることはなかった。


◇◇◇◇◇


「そんなところだ」


 窓からシナに視線を移した。


「へぇ」

「近っ!」


 身体を乗り出したシナとの距離は相当近かった。


「からかっているなら帰るが?」

「ふふ。ごめんなさい。兵士達ばっかり相手にしてるから、アイゼンみたいな雰囲気な人が珍しくて」

「…こっちの台詞だ」


 話を終わらせ、窓に目を向けるとシナがいきなり身構えた。


「どうし…」



 ダンっ!!



 外から嫌な一音が聞こえた。進行方向からだ。窓を開け、何が起きたのかを確認した。音がした方を見ると馬の頭に穴が空き、騎手の胸に氷柱が刺さっていた。


 これは悪魔の魔法だ。そう察すると同時にシナが手を掴み、宙に身を投げた。


「迅速な判断だ。あのまま的にされるよりは幾分かマシだが」


 真下は森。高さは楽に死ねる程度だろう。


「アイゼン。任せた!」

「はぁ!?」


 シナの大きな瞳は輝いていた。無邪気な子供が持つ好奇心を含むそれはこの場にふさわしくなかった。私がこの状況をどう乗り切るのかに期待している、ということか。


 その期待には答えたくなかったので、


 能力、ディック・アイアン!


 足と腕を硬質化させ、シナを抱き寄せた。悪いがスマートには済まないぞ。


 落下する中、腕力だけでシナを上に放り投げた。その効果で落下の速度が増し、早めに地上に足を着けた。そして、落ちてくるシナを受け止めた。


「受け止めた時の衝撃が伝わらないように放り投げたが…大丈夫か?」

「滞空時間二倍……」

「…無事そうだな」


 胸倉を捕まえられ、揺さぶられたが無視した。


「ここはもうハインシスか?」

「…いいえ。まだ、道中のはずよ」

「あの悪魔…偵察か?」

「攻撃手段はないの?」

「ない」

「…ない?」

「ない!」

「そんなはっきり即答されると思わなかったわ…」

「今は空車に意識が向いている。今のうちに目的地に行くか…」

「空車に私の武器がある。それなら、ね」

「信じるぞ」


 シナは踵を二回鳴らすと僅かな風が吹いた。


「付いて来れるわよね?」


 凄まじい速度で跳躍し、置いてかれてしまった。


「はぁ。さっきから試されてるんだか、なんだか」


 能力、ディック・アイアンは筋肉も硬質化させることが出来る。体内に強力なばねを内蔵していると思えばいい。

 私も空車が落ちるだろう場所に跳んだ。


 上空の悪魔がこちらに気付き攻撃を仕掛けて来た。先頭にいるシナに追いつき、攻撃対象になっていることを伝えた。


 数多くの氷柱が降り注ぐが、


「余裕ね」


 全てが私たちを避けていった。


 先程の攻撃に意味が無いと察した悪魔は次の手段に出た。巨大な氷塊を産み出し、こちらに解き放った。このまま走り抜けらそうにないほど大きいと判断し、シナを抱きかかえた。


「私のことは気にするな。ひたすら空車を目指せ」


 そう言うと、攻撃範囲外にシナを放り投げた。私をこの場に残す事に悩んでいるようだったが、振り返らず先に進んでくれた。



 周囲の日光をも遮るほどの大きさの氷塊に微塵も恐怖していなかった。



 頼むぞ、ディック・アイアン…。


 全身を一度硬質化し、右腕に意識を集中させた。末端から硬化が解け、右腕の強度が少しずつ上昇する。完全に硬化したところで。



 深く息を吸い、小さく溜めた。


 流れる風と次第に近付く冷気を肌で感じ、大体の距離を予想した。



 大きく左足を前に出し、重心を上半身から下半身へ。関節間の重心移動、腰の捻転運動、腕のしなり…。身体のあらゆるものを利用し、右腕に集められるだけの力を収束させ、



 ふっ、と息を吐くと同時に



 迫り来る氷塊を殴りつけた。



 足場が歪み、衝撃による波が周囲に広がった。


 拳が触れた箇所から全面に亀裂が走り、爆音に近い轟音を響かせながら氷塊は砕け散った。崩れたいくつかの氷が周りの木々を薙ぎ倒し、大地を大きく抉った。


 その中でアイゼンを取り巻く氷の欠片が陽の光を反射して煌めいた。



「…おい。次は」


 お前だ。


 上空の悪魔にそう呟いた。



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