世代の行く末
三人が思考を止め、動き出した。
サイリスは踏み出しとともに繰り出された刃はアイゼンの胴を狙った。
かろうじて反応できたアイゼンは不可避だと判断し右腕を壁にした。
一点硬化…っ!!
先程より魔力を収束させ、攻撃に備えた。
しかし、硬化を上回る速度で右腕を切り落とし胴体に達した。切り裂いたとサイリスは確信し、殺られたとレナードは思った。サイリスは思わず笑みを浮かべた。
「仕留めた…!」
「アイゼン!!」
そして、二人は戦慄する。
アイゼンの狙いは右腕の一点硬化で攻撃を防ぐことだと思い込んでいたから。
今の一撃で死んだと思っていたから。
だが、全てはアイゼンの描く様に。腕を失うことも考慮しての賭けに勝った。
右腕は壁としてではなく、クッションとして利用したに過ぎない。刀が右腕を通過している最中に追いついた硬化はほんの少しだけ斬撃の威力を殺した。だが、完全には死んでいない斬撃は腕を切り抜け胴体に向かった。そこから刃が達する間に、二度目の一点硬化が行われていたのだ。レナードではないが、アイゼンも自分の能力に慣れていたのだ。
威力の落ちた斬撃は再び立ちはだかった硬化に打ち負けた。
「…さっきと同じだな」
刀とともにサイリスも静止した。あり得ない…。あり得ない……!人間が、こんな。渾身の一撃を、こんな風に止めらるなんて…!!
その隙にレナードが近付き、伸び切ったサイリスの腕に自分の腕を絡めた。
「右腕こっちももらいます」
全体重を一点に乗せ、サイリスの腕をへし折った。
そこで我に帰り、距離を置いたがすでに遅い。武器を扱うものが手を負傷するのは致命的だ。ましてや利き腕となればなおさら。
アイゼンは負傷したが、相手も同じだ。こっちに有利…だ……。
「油断するなっ!!」
「はっ!」
咄嗟のことに反応が遅れたが攻撃は回避できた。サイリスめ、左腕でも侮れない…!
振り切った遠心力を利用した峰での殴打がレナードの頭に直撃した。左で刀を操りきれていないが威力、速度に変化はない。反撃に成功した安心感が行動を鈍らせたか…。
「…クソっ」
一対一での勝ち目はない。お互いに負傷しているとはいえ、それでもサイリスの方が強い。
最後まで足掻く、か。引けば死ぬ。だが、挑んだところで勝ち目は無い。諦めることは嫌いだが、ここから相手を凌駕する術なんてないぞ…。
「隊長ぉぉぉ!!!」
「副将!」
突然の煙幕と二人の声に周囲の環境が乱れた。突如現れた騎兵に互いが戸惑った。
「その声は…ヴィンガー。助かった」
「その腕…!隊長、引き時です!敵がここ、中心部に集まってきました!」
「あぁ。腕はどうでもいい。ここから離脱する」
煙幕と共に現れたのはティエナ軍とゼノン軍の少数だった。
「副将、ティエナ将官の命で来ました。主を失った今、ここで死ぬことしか考えておりませんゆえ。どうか、貴方だけでもお逃げください」
ティエナ軍の全員が私たちを逃がすために死ぬことを望んでいた。その覚悟は私が何を言っても変わることはないだろう。
「…申し訳ない」
「レナード副将は我々が預かる…。ヴィンガー!副将に説明したか!?」
「バーグもいるのか?一体どうなっている?」
「隊長…エスティアーナが落とされました……!」
「な…!?」
バーグに目を向けるが逸らされてしまった。
「何…?」
「それはここを抜けてから、で!!」
バーグはレナードを馬に乗せ、ヴィンガーは私を抱えて馬を走らせた。この焦り具合…深刻のようだ。
「サイリス様。敵が逃げてしまいましたぞ」
「…問題ない。目的は達成しましたから」
「それより、右軍のバーレーン様はどうしたのでしょうか?」
「敵将と一緒に切り伏せました」
「それは…!」
「目的を達成するための犠牲です。何か問題でも?」
「しかし」
サイリスは部下の首を落とした。
敵を殺そうが味方を殺そうが勝てばいい。バーレーンが強ければ死ぬことはなかったはずだ。死んだ弱者のことを気に留める筋合いはない。
そして、敗走するアイゼン達にも当てはまる。目的を達成した以上追う必要は無い。
だが、
「アイゼン、レナード……」
この先、二人の名を忘れることはなかった。
戦場から抜け出したヴィンガー達は馬を止め、散り散りにたった人間を集めた。
「分かっていることだけを言います。透明になる天使が侵入し、国政・軍事に関わる人が多く殺され指揮系統が全て麻痺しました。バーグが国内との連絡を取ろうとしたときにそれが分かりました」
「待て!それでは、国の人が…!」
「仕える国が無くなったんです。これ以上我々が命を掛ける必要はありません」
「だが…!」
「アイゼン副将!!我々は負けたのです!ゼノン将官、ティエナ将官は亡くなりました」
もう何も無いのです。
来た道を振り返ると、エスティアーナだった場所から火の手が上がり煙だけが空高く昇っていた。




