B隊
長期の戦が終わり、エスティアーナでは最大な宴が催された。
「呑め呑め!!酒が呑めなきゃ死ねクソが!!」
ゼノンは樽に入った酒を撒き散らしながら隊中を練り歩いた。
「テメェら死ぬ気で呑め!」
おぉぉ!!
ゼノンに煽られて酒の進みが加速し、宴の熱が増した。
「皆勝利おめでとさん。そして、乾ー杯」
ははぁ!!!
ティエナ軍の宴は粛々としていた。勝って当然、そう言わんばかりだった。
「私、旦那と呑んでくるから後よろしく」
えぇぇ!?
「…何?」
最大功労者の離脱により、こちらは宴というよりはただの飲みとなってしまった。
◇◇◇◇◇
エスティアーナでの騒ぎを尻目に、アイゼンは一人で戦場跡を調べ回っていた。
今回の勝利の理由、自軍の攻め時、立地による得手不得手…。
「手柄上げたのに、何で宴に参加しないんですか?」
「…レナードか。まぁ、そのうちな」
「勝ったんだからそんなことしなくても…」
「お前は、自分の軍が何人死んだか分かっているか?」
「えぇっと…三千?いや五千近くかな?」
「そうか。私の隊は二七人だ」
「少ないですね」
「…あぁ」
「何でB隊なんかやってるんですか?実力だって副将クラスでしょう?」
「知っているくせに。ただ単にそういうのに向いていないだけだ。数百人ならまだしも、何万人もの兵を私は動かすことができない」
「…俺たちの方で何て言われてるか知ってますか?腰抜けですよ。前線に立たず、被害も出さず、手柄だけをかっさらう最悪な奴等だ、って」
「それは否定しない。だから、こうして大人しくここにいるんだ」
アイゼンは知っていた。自分の隊に与えられたBの意味を。公にはバーキンスのBということになっているが、本当は二流やBadという嫌味があると。
だが、それは仕方のないことであった。
アイゼンの隊はこの時代では珍しい、独立遊軍だったのだ。どこにも所属せず、戦場を駆け巡る。時には味方をも利用し、勝利を手に入れる。
大事な存在ではあるが、そのやり方が気に入らず味方には敵視されている。結果があるから見捨てられないだけで、一度の失敗ですぐに首が飛ぶであろう危うい隊だ。
その責任を誰よりも重く受け止めているのはアイゼンであり、そのことを知っているのはレナードだった。
「どうせ変に考えてると思って、酒持ってきたんですよ」
「レナード…」
「ゼノン将官やつですけど」
「はぁ。あと、日常生活では敬語じゃなくていいぞ」
「やだなぁ。二つ上じゃないですか?」
「酒は飲めないからお前が処理しろ」
「えぇ!?」
当時、アイゼン24歳。レナード22歳。国を守るという一つの目的だけで繋がった関係だが、それほど嫌いではなかった。
「飲めないなら…」
私はレナードから小さな瓶を受け取り、地面に叩き付けた。
「その辺の草に撒いとけ」
「……!!」
「…それ、一瓶40万フィルぐらい……」
「知るか。次勝てばまた出るだろ?」
「容赦無さすぎ」
二人は次も、その次も人間は勝ち続けると信じていた。ゼノン将官、ティエナ将官がいる。兵一人一人も決して弱くはない。平和な未来があるのだと決め付けていた。
◇◇◇◇◇
数日後。
「アイゼン」
「ティエナ将官」
アイゼンの元にティエナが訪れた。
「上からの話は聞いた?」
「いいえ。まだ聞いていません」
「じゃ、今言うよ。今日からはB隊はティエナ軍に所属。お前は副将や」
「本当か?」
そういえば…。前回の戦いでティエナ軍の副将オズエルが亡くなったと聞いていたが。まさか、私がその責任を負うとは。
「上司の言うことは絶対、や。分かった?」
「…あぁ」
ティエナは鋭い目付きでアイゼンを睨んだ。嫌われ者のB隊隊長を副将にすることに納得していないのだろう。
いや、過去のゼノン軍であった失態に対して釘を刺したのか。もしくは両方か。
以前、アイゼンはゼノン軍の副将であった。だが、ゼノンの「天使を皆殺しにしろ」という命令に背き、B隊に降格したことがあった。
アイゼンの性格や戦術的にはB隊の方が向いていたが、前線で命令違反した者がB隊で手柄を挙げるのは周囲からは好ましく思われなかった。
そのため、今回の昇格は嬉しいものではなかった。
腰抜けと呼ばれる私が、将官と共に兵を率いていていることに納得できない者がいるはずだ。それでは士気が下がり、連携が取れなくなってしまう。
辞退したいが、上からの命令では逆らうことはできない。可能な限り全うするしかないのだ。




