残存する因縁
「アイゼンさん。少しの間留守にする」
ロムは先日のことで気持ちに大きな変化があった。それを静めるため、そして自分を見つめ直すため時間が欲しいとも言っていた。
私は何も言わずにロムを見送った。
戦いの最中で思っていることをぶつけたのだ。これ以上は何もない。私の気持ちも察したのかロムの目は少し大人びていた。
「それじゃあ、また」
「また会おう」
「はい。必ず帰ってくるので」
ロムが差し出した手を私は強く握り返した。
◇◇◇◇◇
「でさ…」
「あはは。サムさんって面白いね」
「よく言われる。逆に、ヴェルさんの話も聞きたいな」
「邪魔するぞ…」
会話が盛り上がっているところにアイゼンはやって来た。
「どもども。お待ちしてましたー」
「ゼンさん何してたの?」
「色々、な。それより、お前は誰だ?」
「あれ?この間自己紹介しなかったっけ?」
サムは名刺を取り出し、アイゼンに渡した。
「…ゼンさん、酔うとすぐ寝ちゃうみたい」
「そうなんだ?でも、悪い酔いする人よりはマシっすよ」
「…何て読むんだ?」
「ぷぷ。ゼンさんも読めなかった」
「改めまして。サム=サンダースでーす」
「ゼムレヴィン直属の中間管理職…!?」
「流石、情報通っすね。というわけで、今日からはサムがここの貿易をバッチリしっかりやっていきたいと思います!」
「…レナードの元にいた奴を信じられるか」
「まま、そう言わずに。どこにいようが商魂は変わらないんで」
「……」
「ゼンさん。信じてあげようよ」
「…」
「じゃ、良い結果が出たら採用ということでどうすっか?」
「…分かった。今はお前に任せよう」
「ありがとーございます!」
レナードの元にいた得体の知れない奴に頼むのは不服だが、サムの名は有名だ。一度ぐらいなら任せてもいいのではないか、と私は考えた。
「それと、その第一階申から一つ伝言があって」
サイリスがいる、と。
サイリスという単語を聞いた瞬間、全身が熱くなり思わず立ち上がった。
「ゼ、ゼンさん…?」
「そんなにヤバイんすか?」
アイゼンは無意識に目を見開き、拳を握りしめていた。沸き上がってきた感情に自分自身も驚いていた。完全に割り切っていたのに、忘れたと思っていたのに。
「気が変わった。サム、ことによってはただでは済まないからな。ヴェル、何かあったら大声で助けを求めろ。そこで何があっても私を信じろ。いいな」
「は、はーい」
「どういうことなのゼンさん?」
「私は留守にする。じゃあな」
何も言わずに立ち去るアイゼンに二人はただならぬものを感じた。
◇◇◇◇◇
「キュリーム、リグリー、リガードゥルム。悪いがしばらく出掛けてくる。留守番を頼む」
「うん!」
「気を付けて」
「それとリガードゥルム。もし、助けを求めている人がいたらそこへ二人を連れて行ってくれ」
「グアっ!」
「二人にも悪いが頼んだぞ」
着なれた上着を羽織り、身支度を済ませた。
「…そうだ。リグリー」
「??」
◇◇◇◇◇
ディック・アイアンで脚力を強化し、急いでゼムレヴィンに向かった。
「何者だ…!?」
「退け!」
門番を振り切り、第一階申職務室に直行した。
扉を勢い良く開け、机に座るレナードと向き合った。
「一件があってからすぐに呼び出してしまってすいません」
ですが、
「やっぱり……来ると思ってましたよ」
「奇遇だな。私もそう思っていた」
苛立たしいレナードの元にわざわざ来た自分を少しだけ不思議に思っていた。
だが、私たちにとってはそれだけのことに値するのだ。
「場所を変えましょう」
しかし、仕事が終わらないので少々お待ちを。
待っている間に出されたコーヒーは苦味の強いもので苛立ちが増した。
「珍しく感情が表に出てるじゃないですか」
「そういうお前は随分冷静だな」
「皮肉ですか?これでも結構盛り上がってるんですよ…」
「…あれから何年経った?」
「そういうのは全部終わってから、ですよね?」
「そうだな…」
多くの書類を片付けたレナードと共に、国会議室に向かった。
「ここに来るのはハインシスの時ぶりですね」
「大分前だな」
そこにはレナード以外の階申も揃っていた。
「…これはどういうことだ?」
「それはこれから話します」
私は適当に席に着き、レナードは一番前の席に腰を下ろした。
「色々言いたいことがあると思いますが、まずは聞いてください。僕たちはこれから、フリッド・フランを奪還します」
三人の階申は特に反応を見せなかったが、私はそれで大体のことを察した。
フリッド・フランにいるんだ。あいつが!サイリスが!!
「フリッド・フランはここより西方にある領地なので是非とも取り返したい。でも、そこには大勢の天使がいるらしいので」
ゼムレヴィン最大戦力を行使します。
この一言で場が変わった。
ゼムレヴィン最大戦力。それはヘイヴェンスが鍛え上げた魔法騎士団を指し示す。国の防衛にしか使われなかった力を初めて攻めに使うというのだ。
「ただし、ここにはケイニーとヘイヴェンスに残ってもらい、僕とシナ。バーキンス・アイゼン。そしてもう一人を主軸に魔法騎士団と連携を取り攻略します」
「フリッド・フランは湖の上にあるじゃん。橋も二つしかないし、遠距離で迎撃されるよ。そこは逆にボクの力が必要でしょ?」
「我もそう思う。シナの支援だけでは厳しいのではないか?」
「そこはしっかり考えてます」
「アイゼンがどうにかすると?」
「それは違…」
ガチャ…。
「時間ピッタリに来たつもりだったんだけどなぁ…。あれ?おれっちのミス?」
「お前は…!?」
そこに現れたのは強烈な敵意を抱いた人物だった。
「えっ、と…。ロッドール・ヴェーメンです。よろしくお願いします…」
その場の張り詰めた空気に圧されてロッドールは縮こまっていた。
「彼がキーマンですので」
レナードの発言に全員が嘘だと思った。




