互いの信理
バチッ!!
遠くで聞こえる音にロムが反応した。
悪魔は全て敵だ。同情の気持ちなどは一切ない。出会ったからには殺す。確実に、この手で!
だが、ロムの殺意は思いもよらない形で裏切られた。
悪魔を抱えるアイゼンが目の前に立ちはだかった。
「アイゼンさん」
冗談だよな?
ロムの目には迷いはなかった。例え師匠であろうと、悪魔の味方をするようなら全力で潰そうと決めていた。
「…悪魔を嫌っていることを知ってて、これか?」
「何とか言えよ!!」
「アイゼンさん!あんたは…村にとっての……弱い人たちの英雄だったのに……っ!」
アイゼンは何も言えなかった。人を救う善人でありながら、悪魔と天使と仲が良く、一緒に暮らしているという矛盾に気付いていた。
いいや、矛盾ではない。
「ロム。お前が悪魔の根絶を目標としているように、私にも目標がある」
「それが今関係あるのか!?」
「あぁ」
私は、
天使と悪魔の共存を望む。
今まで誰にも言わなかった。いや、言えなかった。ロムの言う通り人間の敵は天使と悪魔である。それと共存するということはあり得ない。人間界に対する反逆に他ならない。
しかし、私はそれを越えなければならない。
人の、天使の、悪魔の、世界を隔てる壁を越えていかなければならないんだ!
「初めから気付いていた。お前とは思想が違うと」
「アイゼンさんが本気でそう思うなら…自分も本気で、それを実現する!!」
能力、聖炎ッッ!!!
「この怒りはどうする!?苦しみは!?憎しみは!?亡くなった友達や家族の声が聞こえる時がある。そいつらが死んだ時の悔しさを裏切ることはできないんだ!!」
ロムは涙で顔を酷く歪めた。それとは反対に炎の熱量は次第に上がっていく。ロムの溢れる気持ちが形になってアイゼンを襲ったのだ。
「何でだ!?何でアイゼンさんは分かってくれない!?」
村を救ってくれたアイゼンさんは偽者だったのか?この国のために尽くしているアイゼンさんも偽者なのか?
「…自分は……何を信じればいいんだ………っ」
仇を討つことしかない。それしか、ない。それだけ。それだけの人生なんだ。
「…馬鹿が……!!」
炎の海を真っ直ぐ、立ち止まることなく確実に近付く人影。その炎は決して温くはない。人の持つ、計り知れない熱を帯びていた。
だが、
「…お前は自分だけを信じればいい。敵を殺すことが全てなら、それを全うすればいい…。お前が私を殺すというなら、全力でそうすればいい!」
「なら、ここで死ね!!」
「そうだ!争いは!戦争は!自身の信念を貫くために起きる!どちらかが敗れるまでな!!」
アイゼンは炎を潜り抜け、ロムに殴り掛かった。
「互いに燃やし合う戦争の先には何がある?燃え尽きた後に何が残る?勝者は、敗者は何を得る?」
背後にのし掛かる骸の山と虚しさだけだ。
「アイゼンさんは…強いから……!失った人の気持ちが分からない!その強さも、何も分かっていない!!」
「分かるさ。だからこそ…!」
「私は世界を統べる!」
「復讐のために生きるような世界を、私は否定する!」
それは天使も悪魔も同じだ。敵であろうと良心はある。全てを悪と見なすのは間違いだ。
「ロム。殺すことを躊躇わないお前を、この国の人はどう思うだろうか?」
アイゼンの拳はロムの目前で止まった。
そして、その手で肩を叩いた。
「全部を忘れろとは言わない。ただ、お前が悪と思う定義を少しずつ狭めていけばいい。少しでいい。お前が納得する方法で、時間を掛けて見付けていけ」
そこで周囲の炎が全て消えた。
ロムは俯いていた顔を上げ、アイゼンを見つめた。
「自分は…分からない。この気持ちは一体何なんだ…?」
真っ直ぐな瞳から溢れる涙は先程とは違っていた。ロムには分からなくとも、アイゼンにはしっかりとその真意は伝わっていた。
「その答えはお前が探せ。私はその手助けをするだけだ」
お前を信じろ。
ロムは肩に置かれた手を固く握り、泣き崩れた。
その手から伝わる熱は大炎とは違う、人の持つ温かみだった。




