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B MAIN  作者: 半半人
ヴィスティンハイム編
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能力、グラビトン


 くそ…。魔物に普通の常識を当てはめたのが間違いだった。体の痺れが取れるまで半日も掛かってしまった。

 だが、体を一切動かなかったため体力と魔力がかなり回復した。


 遅れた分を取り返すか…!


 私は足を硬化し、地面を蹴った。


◇◇◇◇◇


 最後の通過点のトーティスの毒沼に着いたのだが、どうも様子がおかしい。普段は深緑色の沼なのだが、今は赤茶色、いや、黒茶色のような色になっている。さらに、鼻に付く不快に臭いがする。どこかで嗅いだことがあるような…だが、思い出せない。


「とりあえず進むか」


 体表を硬化すれば毒が侵入してくることはない。さほど深いわけでもないし、一時間もあれば渡り切るだろう。

 それから歩き続け十数分。沼にぽつぽつと植物が生えていた。毒の成分で普通ではあり得ないことだ。


「やはり以前とは何かが違う」


 それが何なのかは分からないが、警戒しておこう。

 それから進むにつれて植物の量が多くなっていった。だが、それに対し植物の高さが腰から膝にまで低くなっていた。謎は深まるばかりだ…。


 さらに先に進もうと歩を進めた時、


「来るな!」


制止を促す声が聞こえた。声色からただごとではなさそうだ。

 私は構わず進み続けた。


「何で来るんだ!?やめろ!そこで止まれ!!」


 声に迫力が増していく。余程のことがあるのだろうが、私にも事情がある。後には引けないのだ。


「やめろ…頼む……来ないでくれ…」


 願うように発する声の主の元へ私は辿り着いた。


「お前は…」


「うあぁ…もう、駄目だ……」


 殺したくないのに…。あなたも…死んでしまう……!


 能力、グラビトン…。



 目の前の悪魔は泣いていた。その圧倒的な力を制御できずにいくつもの命を奪ったことを悔いていたのだ。

 この緑の毒沼が黒茶色なのも全て、圧殺した生物の血肉による。大抵の生物は能力による強力な重力に押し潰されてしまう。



 だが、



「…ふっ、この程度で死ぬほど私の命は安くない」

「あ…っ!?」


 そこでようやくお互いの顔をしっかりと見た。


「久しぶりだな」

「…ぁぁ……あなたは…ぐすっ、本物、ですか…?」

「お前の力でも平然としているのが何よりの証拠だろ?」

「…こんなに嬉しいことはありませんよ……!」


 彼はリグリー。私の知り合いだ。


「ところで何でお前がここにいるんだ?この先の砂漠地帯に住んでいなかった?」

「…ボクもあそこなら大丈夫だと思っていましたよ」

「そうか」

「それよりも。わざわざ魔人界に赴いてくださったということはボクに何の用があるんですか?」

「簡単だ。ソルネットを貰いに来た」

「ソルネットならこの辺にもたくさん生えてますよ」

「…この植物か?」

「ええ。そうですよ」

「…死体を養分にして育ってると考えると禍々しいな」


 アイゼンは渋い顔をした。


「それなら。種もありますよ。時間は掛かりますが、既に生えているものを植えるよりは効果があります」


「よし。それではそれを持って帰るとするか。目的はそれしかないしな」

「そう、ですか…では、また……」

「何を言ってる?お前も来るんだ」

「で、でも…」

「一人で行く宛も無いんだろ?だったら来い。お前がいても困ることはないし」


 そろそろ時期だ。


「!?」

「二年も時間を稼げたんだ。足踏みしている場合ではない」

「…はい!」

「では、頼んだ」


 アイゼンはリグリーに背を向けた。


「はい?」

「空を使えば早く帰るだろ?」

「あぁ…。頑張ります…」


 この感じ…。変わってないなぁ。


 少しの無茶を要求したり、変なところで冷静だったり…。


 だが、実力は本物だ。賢く、機転もきく。


 頼もしくも、人間臭いアイゼンをリグリーは尊敬していた。



◇◇◇◇◇


 途中で休憩を挟みながら丸一日を費やし、ヴィスティンハイムに帰って来た。


「はぁ、はぁ、はぁ…ここでいいのですか?」

「あぁ。ここが今日からお前の家だ」

「…ボクの家」


 リグリーは感慨深そうな顔で家を眺めた。アイゼンは忘れていたように付け加えた。


「ゼーン!おかえりー!!」

「ここには小さな…」

「て、天使!?」


 突然現れた敵に反応し、能力が発動した。


 能力、グラビ…。


 能力、白玉蛍!!



 しかし、それよりも早く危険を察知したキュリームが能力を発動し失神させた。


「お前、やるな」

「何か嫌な感じがしたんだもん」

「あやうく家が潰れるところだった。よくやった」

「えへへ~」


 伸びているリグリーを家に引き摺り入れ、キュリームに事情を説明した。


「全然気にしてないよ」


 少しは拒絶されると思っていたので、返って来た言葉に驚いた。


「悪魔だぞ?」

「ゼンが大丈夫、って思ったんでしょ?だから大丈夫!」


 思わず言葉を失ってしまった。真っ直ぐに向けられた純粋な気持ちに自分が恥ずかしくなった。


「試すような真似をして悪かった。あいつとは仲良くしてやってくれ」

「はーい」


「そうだ。三日近く留守にしていたが食事の方は大丈夫か?」

「う、うん!」


 キュリームの様子が変わった。明らかに何か隠している…。


「ご…主人。おかえりなさい…」

「おまっ、リガードゥルムの分も食ったな!?」

「うぅ、ごめんなさい…」

「…全く」


 ははっ、しょうがない奴だ。魔人界での緊張が解けたのか、私は上機嫌だった。



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