もう一つの企み
「はっ!」
再び白炎を放ち反撃した。しかし、あり得ない動きで回避されてしまった。
「何だその動きは!?」
「…知る必要は無い!」
地面を滑る様な動きだ。軽やかで素早い。
目で追っている隙に二撃切られた。傷は浅い。
「付いてこれないのか?」
「うるさい!」
これも回避されてしまう。くそっ!狙ってるのに!
「ってぇ!だったら…!」
「!?」
白炎を放ち、ロム自身が予想した位置へ殴り掛かった。攻撃はどちらも当たらなかったが隊長は距離を取った。
ロムは狩猟などの自給自足で生活する村にいた。そのため、運動神経はもちろん。その他の本能的な身体能力も優れていた。
我流の体術で繰り出された滅茶区茶な攻撃であるが、隊長には大きな効果があった。
妙に勘が良いところや、魔法と物理の二つの攻撃方法があることに警戒した。
それに対し、ロムは目の前のことにだけ集中していた。近付いたら炎と拳、離れたら炎。避けたら炎…など簡単に物事を考えていた。
『考えろ馬鹿が。敵に攻撃を当てたいなら、自分が戦いやすい場所を作れ。できなければ移動しろ』
そうか!森の中じゃ、隠れるものが多くある。だったら…。
ロムは走った。森の抜けた先にある畑にもなっていない広大な野原を目指して。
途中で何度も攻撃されたが堪えればいいだけだ。血が出ようが死ななければ大丈夫だ。
「よし!ここなら…」
「思ったように戦えると思ったら大間違いだ!」
「っおおぉぉぉぉ!!」
攻撃が回避されるなら…。隠れる場所がないのなら…。
自分を中心に全部燃やせば良いだけだ!!
ロムは距離にして五百メートル。隊長の移動速度などは考えず、自分の限界の射程範囲内全てに白炎を放った。
当然回避できるはずもなく隊長は炎に飲み込まれた。
「ぶはぁ!はぁ、はぁ、はぁ…。やった…やったんだ!」
勝った。勝った勝った勝った!
自分だってやればできるんだ!!
しかし、喜びも束の間。森の中から先ほどと同規模の小隊が四つも現れた。装備も人数も同じ。
ぼろぼろの状態でこの大人数には勝てない…!逃げはしない!!勝てなくても死にはしないだろう。
ロムの考えは浅はかだった。勝利した油断が判断を誤らせた。
戦闘方法が知られているロムは一方的に攻撃された。射程範囲外からの銃撃に対抗するもすぐに魔力が底を着いた。
くっそ……!足が、体が動かない!!息が苦しい…!傷が熱くて、視界もぼやける……。
負ける…。
いや、
死ぬ。
思っていた以上に、簡単に殺される。薄れ行く意識の中で、それだけが脳内で反芻した。死ぬ、死んでしまう…。
死への恐怖を感じる前に。
一吹の風。
それはやって来た。
◇◇◇◇◇
「距離良し、狙い良し。風向き良し」
「私に風は関係ないわ」
双眼鏡を覗くレナードと弓を構えるシナが高台から敵を討っていた。
「孤軍奮闘、とは言わないけどナイスファイトでしたねー。良い囮です」
「…敵の数は?」
「あ、はい。少年の右に二十四、左に七十二」
「閃天で十分かしら?」
「僕はシナさんの弓が間近で見れるので何でもいいですよー」
「どうでもいいの間違いでしょ?」
「まあまあそう言わずに」
飄々とした言葉とは反対にレナードは一切の笑顔を見せなかった。
会話することが鬱陶しくなったのかシナは狙いを定めた。
「行け。閃天、弍式暮羽」
別方向に同時に放つ二本の矢は風を纏い左右の隊長を射抜いた。
「すごーい」
「後は、左の二人も…」
同じように矢を放ち、残る二人の隊長も難な射止めた。
全班の隊長を失った隊員は統率が取れず、個人で森の方へ逃げ帰って行った。
「あの少年に話を聞きましょうか」
「そうね。てか、これなら貴方要らないんじゃ…?」
「書類の片付けるのに飽きたので、気分転換ですよ」
「第一階申がサボりとはね」
「内緒でお願いします」
相変わらずレナードの考えていることはシナには読めなかった。
◇◇◇◇◇
な、何なんだ…!?誰の攻撃なんだ!?
敵を退かせたあの矢は一体…?
「大丈夫ですか?」
ゼムレヴィンの紋章!?しかも、最高の地位にいる他人の制服!?
「えっと、あの…」
「驚かないでください。僕たちは味方です」
「…ありがとう。お陰様で助かった」
取り乱したが安心して力が抜けた。
「僕はゼムレヴィン第一階申のレナード。後ろの女性は第二階申のシナだ」
「階申っ!?」
ゼムレヴィンの最高権力者が何でここに!?
「何で、階申の二人がここにいるんだ?」
「まぁ、それは簡単だよ。君、アイゼンは知ってる?」
「あぁ、自分の師匠だ」
「師匠、ね…」
あいついつの間に。レナードはそう思った。
「アイゼンはこう言ってなかった?『ヴィスティンハイムは六国から狙われるかもしれない』って」
「あぁ。言っていた」
「うんうん。オッケー、オッケー。シナ、周囲の様子を探ってください」
「…了解」
「僕はアイゼンの友人でね。万が一を考えて助けに来たんだ。あいつは…いないようだし、しばらくは僕達がこの国を防衛するよ」
「本当か!?それはありがたい!」
「まぁね」
ここヴィスティンハイムは隣接する六国に攻め込まれやすい。
レナードは思った。なぜそんな弱気に考えるのだろう。攻め込まれるということは逆も可能。どの国にも攻撃を仕掛けられるのは唯一ここだけだというのに。




