翻る逆境
片方は倒した。次は上空の悪魔だが、考えられる行動は三つ。 一つ、逃げる。一つ、説得。最後に、戦闘だ。
最後以外が望ましいが…。
「お主何者だ?」
「…バーキンス・アイゼンだ」
「そうかそうか。儂はシグ。弟子の後始末は、儂がしよう」
やはり戦闘になってしまうか。仕方ない。
この時、アイゼンは勝利への活路を見い出せてはいなかった。
上空のため近付けない。攻撃手段が無い。が、相手は攻撃できる。仮に、ディック・アイアンで跳び跳ねて距離を詰めても羽ばたいて回避すればいい。むしろ、空中の無防備な所を狙われる。
何か良い案はないのか?倒せなくても、撤退させるほどの策を捻り出せ!
追従する雷撃を避け、アイゼンは走り回った。少しでも動いて命中率を下げ、その間に思考した。
シグはアイゼンの動きと決断力に驚いていた。若造と罵ったが、数多くの戦場を駆け抜け、様々な敵と戦ってきたと思わせる動作。同じく歳を取った者にだけが分かる境地に辿り着いている。そう感じ取った。
「逃げていては勝てんぞ!」
私はこの戦いを終わらせて次に進みたいだけなのに。それができれば勝ち負けなどどうでもいい。
だが、領地を破壊した罪からは逃れられないようにシグも私のことを逃しはしないだろう。
ならば…。
「仕方ない。シグ!お前の弟子を盾にさせてもらう!」
逃げるも、攻撃も駄目ならば停戦だ。地面に伏せているセディエルを担ぎ上げ、空にかざした。話し合いで決着をつけてやる。
「アイゼン、お主…!」
「私は元からからお前たちと戦うつもりは無い。お互いに手を引くんだ」
「…それは」
最低の悪手じゃろうが。
雷雲からの一線が閃光を放ち、アイゼンに直撃した。
「かっ…はぁっ……!!」
「話し合いで解決したいなら…人質は不要じゃろ?」
アイゼンの浅はかな暴挙に激怒していることが先程の落雷で分かった。
「馬鹿が動かない分、当てやすいのぉ」
「くっ、そ…!」
セディエルを突き飛ばし、再び走り出した。真っ正面からの能力のぶつかり合いでは絶対に勝てない。崩れた山の残骸に身を隠して様子を伺った。
だが、この岩も長くは持たない。シグの雷撃なら数発で破壊できる。そう思い岩から岩へ移動し身を潜めた。
「愚かな…」
しかし、いくら物陰に隠れようと魂を感知する悪魔には通用しない。
シグはアイゼンのいる場所へ雷を落とした。
ほぼそれと同時に迫り来る風圧を感じた。危険だと瞬時に判断し、シグは回避に転じた。
何かが来たと思い、回避し初めて気付いた。飛んで来たものが岩であると。
投擲…。何の為に…?
この程度の攻撃は当たらないと分かっているのはずだ。
アイゼンの謎の行動はすぐに分かることとなる。
アイゼンは投げ付けた岩の影を利用し、シグとの距離を詰めた。魂を感知するシグはその動きに驚きはしないが一瞬だけ反応が遅れた。僅かにアイゼンに先手を取られたことに警戒した。
そして、冷静に迎撃した。
自身の精度とアイゼンの速度を脳内で補正し、的確に落雷を放った。
能力、白玉蛍!!
だが、アイゼンはそれを能力で堪え、シグの真下へ走力だけで辿り着いた。
「…ぬっ……!」
雷雲から落雷を放つシグの唯一の弱点。それを狙ったアイゼンは一歩、また一歩とシグの上を行った。
当然シグは回避を兼ねて移動する。そして、それは上下ではなく前後左右の直進的逃避であるということ。
アイゼンはそこまで読み、
能力、ディック・アイアン!!
地面を蹴った。
拳を振り上げる暇すら惜しい…。
アイゼンに打つ手が無かったから。シグを煽ったから。投石後の動作が虚を突くものだったから。後手に回ったことでシグが焦ったから。
様々な要因が幾重にも重なり、この状況を生み出した。決して偶然ではない。
前半の行動を後半で利用するアイゼンの戦略はシグを上回った瞬間であった。
「一点…硬化っ!!」
地面との反発で凄まじい速度で飛び上がったアイゼンは頭部を硬化した。そして、背中を見せて移動するシグに激突した。
頭突きという原始的な攻撃に少し嫌悪感を抱いたが、
結果が、
勝利が、
戦いの全てだ。
体力や魔力の温存を省みず、全力を出したアイゼンは、
「柄にもないことをしたな…」
少し嬉しそうに笑った。
「まだ、だ!!」
体勢を崩しながらも雷撃を食らわせようとするが、頭突きが命中した時点で私の勝ちだ。
能力、白玉蛍。
迎撃の時に堪えた分をここで返してやる。シグから雷と弾ける音がした。
アイゼンは再びディック・アイアンに切り替え、落下の衝撃に備えた。




