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B MAIN  作者: 半半人
ヴィスティンハイム編
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瀬戸際の真価

「セディエル。どうじゃ?」

「…嘘ん?雷と拳のダブルパンチなんだけど」


 セディエルの拳がぶつかる寸前で右腕を一点硬化して打撃を防いだ。が、纏っていた雷撃を全て受けてしまった。


「ぐぁぁぁあっ!!」


 のしかかった拳を払い退け、距離を取った。



 最悪だ。ディック・アイアンの弱点は口腔を狙った窒息と炎による熱伝導がある。


 しかし、それよりも雷属性の能力は脅威である。雷属性は対象に伝わり、突き抜けるという性質があるためディック・アイアンの長所である防御がほとんど無効化されてしまう。


 それが二人。しかも片方は打撃プラス雷のため回避は必須…。だが、その隙を上空の奴が見逃すはずがない。


「っはぁ…はぁ…くっ、これは一筋縄ではいかないな……!」


 能力を白玉蛍に切り替えた。


 同じ属性のためダメージを抑えられるが、


「うらぁ!」

「ふぅ…っ!」


打撃に対しての耐性がほぼ皆無になる。雷を避けることよりは簡単だが、一撃でも貰えば致命傷は免れない。


 一息吐く間もなく、雷撃を浴びせられた。



 くそっ!いくら白玉蛍が雷属性であっても限界がある。早めに答えを出し、二人を倒さなければ!


 アイゼンはセディエルとの距離を詰めた。


「う、おっと!」

「…よし」


 予想通りだ。セディエルはまだ能力を使いこなせてはいない。近距離での回避に成功したアイゼンは瞬時に悟った。


 一番に厄介なのは空からの雷撃であった。回避は難しく、反撃・防御は不可能であるからだ。そこで、アイゼンはセディエルに接近することでそれを封じた。仲間の近くに雷撃を落とせるか?答えは否。深く懐に潜り込んだアイゼンを迎え撃つ手は近距離攻撃のみ。

 危険を冒すことで攻撃を制限し、反撃の機会を伺った。



 上空でアイゼンとセディエルを眺める悪魔、シグはその意図を読み取った。


 あの若造、やりおるのぉ…。正確にお(んし)を狙い撃つことはできるが、セディエルも動くため確実には当たらん。セディエルが雷撃に反応し、その隙を狙われるかもしれん…。


「どうしたものか…」


 ーしばし様子見とするか。




 それに反し、セディエルは焦っていた。


 こいつ、速い!攻撃当たらんし、攻撃してこない!何か狙ってる…?分っかんねぇー!てか、何で先生は攻撃しないん!?これぐらいなら当てられるだろ!?


「こん、にゃろ!」


 しかし、当たらない。回避に徹したアイゼンに攻撃が当たらなかった。いや、当たるはずがなかった。


 背後の拳がセディエルの動きに連動していること。本人の射程範囲に限りがあること。訓練はしているが実戦経験が少ないこと、などなど。初撃、二撃と攻撃を避けたことで行動パターンをほぼ把握し、先読みしていた。



 考える時間は十分稼げた。あとは、こちらから動く時期が重要だ。不自然に見えてしまえばそれまで。次は無い。


 私はここでようやく一息吐き、小さく吸い込んだ。





 ん!今、左に少し体重が移った!おれから見て右に動く!!


 セディエルは攻撃の最中、アイゼンの動きに慣れ始めていた。そして、その隙を見逃さなかった。本人もそれに反応してから、これは絶対に当たると予感した。



 それは間違いではなかった。実際にアイゼンが左に動き、背後の拳がその後を追った。回避した先に攻撃を繰り出すことができた。


 そう思った。




 アイゼンはわざと左に重心を寄せた。相手に悟られるように。かつ、自然に。

 その動作を疑わなかったセディエルは見事に釣られた。だが、アイゼンも絶対に成功するとは思えなかった。


 迫り来る拳を凝視し、その拳が払う風にも意識を注いだ。


 秒にも満たない、わずかな刻を




 アイゼンは捉えた。







「当っ、たり!!」


 タイミング良し、速度良し。セディエルは巨大な拳に残る感触に浸った。拳が相手に触れた、雷が相手に流れた。その事実が全てだった。



 戦闘が終わり、その場に訪れた静けさを打ち破ったのは、



「…私は……死にはしない………っ!」


バーキンス・アイゼンだった。


 佇むアイゼンはセディエルを尻目に、シグに歩み寄った。


「次は……お前だ…!」


 シグを指差すと同時に、強烈な電撃がセディエルを襲った。


「うおぉぉぉぉあぁぁぁ!!…がっ、はっ……!」


 その雷撃に耐えられず、セディエルは倒れた。


 それに困惑するシグ。そして、真っ直ぐと敵を見据えるアイゼン。


「一体全体…何をしおった……!?」



 シグの目にも何が起こったのか分からなかった。ただ、セディエルの攻撃を掻い潜り、反撃したという結果のみが目の前にあった。

 セディエルはまだ若いが、それに見合わぬほど強い。能力も、戦闘に対する嗅覚も優れていた。


 それなのに。



 セディエルが相手を倒した、勝利を確信した表情を浮かべている間。


 あの若造はこちらを見ていた。



 つい先ほどまで相手にしていセディエルを無視して、こちらを見ていたのだ。


 あの一瞬で何をした!?


 攻撃の素振りなど一切見えなかった。それは確かであるのに、何も分からない。

 そこでシグは得体の知れない(もの)を感じた。


 シグは間違ってはいない。なぜなら、





 あの一瞬でアイゼンは、


 攻撃などしていないのだから。



 しかし、


 セディエルの拳が()()()



 その事象は、白玉蛍の発動条件を満たした。




 アイゼンが神経を研ぎ澄ませたのは、回避のほんの一瞬である。

 早ければ攻撃を避け切ってしまい、セディエルの拳が触れることはない。だが、遅すぎれば拳を真っ向から食らうことになる。

 絶妙な、限界の間際を見定めて始動し、攻撃を擦らせながらすり抜けたのだ。


 さらに加えるなら、白玉蛍は体内に電撃を溜め、相手の体内で放電する能力である。何度か食らったシグの電撃を溜め込み上乗せしてセディエルに放った。当然、威力は普段の倍以上である。



 時には危険を冒し、自分の身を犠牲にする駆け引きも必要なのである。

 そして、それは最善の刻、最善の場所で行えて初めて意味を成す。



 かつての学習を生かすアイゼンであった。


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