旧世代の疑問
天魔大戦。
過去から今にかけても続いている戦争。天使と悪魔が争い、人間がそれに巻き込まれているという状況である。互いに土地と資源を欲している
伝言を託してから五日目。
「いやいやぁ。うちの部下がすいませんね」
「……」
「あの辺じゃ美味しいものなんか食えないでしょ?ささ、召し上がってくださいな」
「……」
バーキンス・アイゼンはゼムレヴィン城の食堂にいた。
「ヘイヴェンス。これはどういうことだ?」
「レナードから言われていたからだ」
「私がお前を倒し、ここに来ることを予想してたのか?」
「いいや。予め、二つの手順を聞かされていただけだ」
「素直に連行されるか、反抗後に連行されるか。はぁ…」
「溜め息吐いてないで、ささっ。どうぞどうぞ」
「…どうしてあいつはあんなにも上機嫌なんだ?なぁ、ヘイヴェンス?」
「我に聞かれても…」
ただの食堂ではない。テーブルから食器まで高価なもので作られた、明らかに世間離したものが気色悪い。しかも、そこにいるのは第一階申から第四階申の方々。肩身が狭いことこのうえない。
「貴方がアイゼン?顔は…悪くないわね」
さっきから変な視線を送ってくるのは第二階申のシナ・ハンク。ニヤニヤしていて不快だ。
「何負けてんすか、ヘイヴェンスさん。アイゼンさん、今度は俺と勝負しましょうよ?」
こちらも笑顔でよく喋る第四階申のケイニー。あまり好きではないタイプだ。
それよりも、食事に手を付けずにいる第一階申のレナードが不気味だ。テーブルに額を着け、起きているのかも分からない。一体何の用だ?
「偉くなったもんだな、レナード」
「お陰様ですよ、アイゼン」
「人数合わせのために食事会に呼んだのなら今すぐ帰る」
「分かってますって。簡単、簡潔に言うから席を立たないでください」
顔を上げ、ニヤッとするレナード。勿体ぶらないでほしい。
「約束通り、要求の額に第三階申の敗北の口止め料として2千5百万円フィルお支払します。それで、今回の件はお仕舞いということで」
「貴様…!」
「落ち着け。それだけじゃないだろ?」
「流石です。僕は今、ゼムレヴィンの全政権を握ってまして。現在進行形で隣国、ハインシスが天使と悪魔の戦場になっているようなんですよ。そこに援軍を送りたいのですが、ゼンさんの力を借りることは…」
「断る」
「計3千万フィルお支払します」
「…話を聞くだけならな」
その時、アイゼンとレナード以外が同じことを思った。
「実は僕の作戦で…」
レナードは自身の作戦をアイゼンに打ち明けた。事細かに、下劣な所も一切隠さず。
「…という訳です。予想以上の結果を出してくだされば、ハインシスの所有権等の特別待遇も用意しますよ?」
「…悪くない」
「でしたら…」
「が!それなら、私の手を借りずにここの奴等の力を使えばいい。効率も悪ければ面倒でしかない」
「いやぁ。僕に力を貸してくれる人なんていませんよ。四面楚歌ってやつです」
「前からそうだったな…」
だが、この提案は悪くない。ヴィスティンハイムだけでは限界があるが少しずつ土地を広げていけば…。
土地、資源はあって困るものではない。当初の目的は達成しているし、深追いする意味は全くない。どうするべきか…。
「金は貰う。が、特別待遇は保留して、とりあえず貸し。ということで」
「後で返す方式ですね。了解しました」
「助けに向かうのはいつになる?」
「一週間後を予定しています」
なんとかなりそうだが…。
「レナード。私が補佐として着いていくのはどう?」
「分かりました。その方が色々と良いアピールになりますしね」
「おい。勝手に決めるな」
「第二階申の実力に不満でも?」
シナはこちらをじっと見た。どうやら「はい」と返事をするしかなさそうだ。
「とりあえず。大事な話は終えただろうし、私はこれで帰らせてもらう」
席を立ち、城を出るとレナードが見送りに来た。
「いらないが」
「まあまあ」
帰りの空車を手配してもらうのはありがたいが、それに相席されるのは御免だ。
「まさか、着いてくるわけじゃないよな?」
「行きませんよ。怒りますよね?」
「その通りだ」
「…最後に、聞かせてくれませんか?どうやって天魔大戦を止めたのか。僕らは自分の国のことで手一杯ですのから」
「私は出来ることを全てやっただけだ。自身の足で現地に赴き、見て、聞いて、話して。私なりに必死で努力したんだ」
「…参考になりませんね」
「笑うなよ。ガラにもなくそれっぽいことを言ったが説得力に欠けるな。忘れてくれ」
やって来た空車に乗り、ゼムレヴィンを後にした。
態度は悪いが、国のことを考えているという姿勢にも免じて一週間後の件についてそれなりに頑張ってみようと思った。
◇◇◇◇◇
伝言を託してから六日目。
期日よりも早くに事が済んだので、
「約束の金だ。均等に」
手に入れた金を喫茶店の二階の部屋で広げて見せた。
「うわぁ……初めて見た…」
何故かヴェルも一緒にいたが、まあいい。
「まずは、お前にボーナスだ」
私は懐に入れておいた月給プラス20万フィルの封筒をヴェルに渡した。渡されたその中身を見て、
「…喫茶店で払う額じゃないよこれ」
「その腕にはそれだけの価値があると思っただけだ。不満なら上乗せするか?」
「いやいやいや。これ以上はいらない!」
「と、いうわけだ。ヴェイブス、これからもここのために励め」
「ありがとうございますゼン様っ!!」
「…様はやめてくれ」
これにてヴィスティンハイムの財政難は解決した。誰も傷付かず、お金と話し合いだけで…。
いや、ヘイヴェンスだけ傷付いたな……。まぁ、いいか。
お気に入りのベンチに座り、コーヒーを一口。
「あぁ…」
この一杯のためにどれだけ労したことか。
振り返りカウンターを見ると、笑っているヴェルと目が合った。