精進の意思
全てをヴィスティンハイムに残し、私は魔人界に赴いた。魔人界とは、その名の通り悪魔の領地である。
環境も、出現する生物も違うため注意が必要だ。能力があるからといって油断はできない。
能力、ディック・アイアン。
全身を硬化した状態を最長で二日は保つことができる。一点に集中するのは多く見積もっても半日程度だろう。
目的地に到達するのには最短でも三日。上手く切り抜けなければ。通る場所は、洞窟、山、毒沼、かな?最短の道筋とはいえ、ここは無理せず迂回するべきか?
「…時間は無駄にできない、な」
多少の危険は冒すべきだ。ロムに訓練するように言った自分が進歩する意識をを持たなくてどうする。やるしかない。能力の消費も全て考えて行動しろ。自分に言い聞かせ、洞窟に踏み込んだ。
◇◇◇◇◇
魔人界は悪魔と同じく、魂を食らう生物がいる。そのためか洞窟は入り口以外の形を変え、進入してきた対象を捕食する。洞窟がそうなのか、洞窟内の魔物がそうしているのか正しいことは分からない。そうだとしたら、その魔物とは対峙したくはないがな。
と、いうことで洞窟内では松明は使えない。音も殺さなければならない。
勢い良く走り込んだが、時間の効率と危険を比べたら当然危険は避けたい。壁を破壊して進むことも考えたが、あまり良い行動とは思えなかった。
微かに流れる風の音を頼りに出口を目指した。
◇◇◇◇◇
「…洞窟内に侵入者とは珍しいな」
「大分イキが良いみたいで嬉しいわ。ねぇ、これ私に頂戴」
「いいだろう。先に行け」
「はーい」
「良いのかぁ?獲物譲っちまって」
「あぁ、様子見に丁度いい。魂の濃度から強者で間違いないだろう」
「なおさら良いのかよ?シェスナならただ強い奴なら普通にブッ倒すぜ?」
「その時はその時だ。退屈凌ぎにはなるさ」
「別に気にしねぇけど」
「そうだ。彼女が戦いやすいように地形を整えてあげようか…」
◇◇◇◇◇
…嫌な気配を感じる。魔物か?悪魔か?
無駄な戦闘を避けるため、来た道を戻ろうとしたが塞がっていた。戦わないのが最善だが、そうはさせないということか。
「…悪魔だな。誘導するつもりか?それとも、姿も見せずに攻撃するか?」
天使は魔力を感知し、悪魔は魂を感知することができるのが羨ましい。人間はそういった感覚は鈍く、身に付けるのがとても難しい。私自身もそういったものは持ち合わせてはいなかった。
道が塞がれて一分ほど経つが相手の動きは無い。様子を見ているのか?待ち伏せか?それとも、ただ単に精神的に疲れさせるつもりか?
仕方ない。先に動いてやるか。
「…来たッ!」
洞窟に潜んでいた悪魔の一人。シェスナ・フィンキーはアイゼンの接近に気付いた。
能力、リビリアン・レーザー!!
前に構えた掌に魔力を集中させ、放出した。このリビリアン・レーザーは無機物には反射し、生物のみを貫く性質を持つ光線であり、地形と能力との相性は良かった。
「…熱……?」
アイゼンは前方から来る風と、遅れて来た微かな熱を感じた。
敵の攻撃だ!!
そう思ってからの行動は早く、能力を再度発動し硬度を上げ、身を屈めた。
そして、直ぐ様アイゼンの頭上を光る熱源が通り過ぎた。
熱を持った光?太陽光を虫眼鏡で集めたようなものか?
アイゼンはたった一度の攻撃でシェスナの能力を冷静に分析した。対し、シェスナも攻撃が命中していないと分かり相手の力量を高く想定した。
「…手強いな」
「…強い、かな?」
近距離対遠距離のため、現段階ではシェスナに分があると言える。アイゼンにシェスナの現在地は分からず、シェスナは能力を放てばいずれはアイゼンに到達する。
アイゼンにとって圧倒的に不利な状況だが、一切の焦りも無かった。
光線は突然来たが動きは不規則だった…。洞窟内を物が弾むように、跳ねて来たということか。ということは、相手にも私の位置は分かっていない可能性があるな。撃てば当たるという、運任せな能力とも言える。
敵は賢くない。私なら確実に当てるまでは攻撃を控え、一撃で仕留める。
有利であるのに焦っているようにも思える。
ならば…。
一方、シェスナは掌に先ほどの五倍の魔力を集中させた。
この狭い洞窟なら同時に五発撃てば当たるでしょ?
簡単、かつ、確実な方法で対象を仕留めることを実行しようとしていた。
「これで…死んでッ!!」
放たれた光線は洞窟内を幾度も反射し、前進していった。
しかし、
それが対象に命中することはなかった。
ーほぼ確定で相手は連続して光線を放ってくる。
そう確信していたアイゼンは洞窟を殴り壊し、前方を塞いだ。
…なぜ、後ろが塞がっているはずなのに初撃の光線が跳ね返ってこなかったのか?
「単純に跳ね返ってきたら困るからだろ?」
アイゼンは、ふっと笑って光線の行方を眺めた。




