権力不足打開法
収穫作業を終え、喫茶店の二回の事務室で多くの書類に目を通した。
「…芳しくないな」
人間界は天使と悪魔の力に脅かされており、保険としてヴィスティンハイムを管理下に置きたいと思っている国が多くある。その理由として、食糧問題が挙げられる。埋蔵された魔力を食らう天使、殺して魂を食らう悪魔。すでにあるものを食らうため両者とも簡単、かつ、即座に行える。対して人間はどうだろう?
狩りには限りがあるため、食物を育てなければいけない。そのためには土地と手を加える人が必要になり、時間も掛かる。
簡潔に言えば、ヴィスティンハイムを手に入れれば食糧難を回避することができるのだ。土地の広大さはもちろん、天候の良さからも農業に適しているため、喉から手が出るほど欲しいはずだ。
だが、それをきっぱりと断れるほどの発言力をヴィスティンハイムは有していない。人類のためだと言われてしまえば、断れるに断れない。
各国が牽制しあっているので手が出せないだけで、時が来ればヴィスティンハイムの住人の意思など無慈悲に切り捨てられるだろう。
守る城も、王もいない。優れた文明も、人材もない。切り捨てられて当然だ。
しかし。
「うへぇ…ここの人って結構大変だなぁ」
入室してきたのはロム・ワークソンであった。
「ロム。お前は今日からヴィスティンハイム防衛長だ」
「…うん?」
「私の弟子だと名乗りながら力を見せびらかしていればいい」
「分かった!」
正直、色々と悩んだ。が、私は選んだ。
ロムの考えは不安定でレナードの様な悪人に利用される恐れがあるし、能力は使える。ここに滞在しても悪影響はなく、今日も問題無く収穫作業の手伝いをしていたようだ。馴染めているようで何よりだ。
「ハ、じゃなくて、ヴェイブスは?」
「ヴェイブスさんなら、一回風呂に入るって」
「そうか。なら、先にお前に色々と説明しておくか」
「はい!」
私はこれから他国を訪問することが多くなるだろう。未だに被害は無いとしても、万が一のことも考えなければならない。
「お前はここに残り、ヴィスティンハイムを守ればいい。商談や会議は私が何とかする」
「はい」
「一つだけ約束しろ。相手が人間であっても手を抜くな」
「…それは何で?」
「今は天使と悪魔以外からも狙われている。複雑な事情で、な」
「はい」
「というわけで、今度能力を見せてくれ。場合によっては…」
「修行か!?」
「まぁ、そうだな…」
能力を完全に把握するには丁度いい口実だ。
「そのうち何をするか紙に書いて渡してやる。今はここに馴染むことに集中していろ」
「はい!」
「ふぅ、お待たせしました~」
会話が一段落したところでヴェイブスがやって来た。
「よし。本題に入ろう」
ヴェイブスが席に着き、私は話を切り出した。
「今のヴィスティンハイムはただの土地だ。だが、これからは一つの国として機能させていく」
これはヴィスティンハイム自体を守ることにも繋がるのだ。
「…流石、アイゼンさん!」
「スケールがでかくてピンと来ないんだけど…」
「軍事力等はいらない。これまで通りと変わらずコーヒー生産するのに加え、新たな産業を造り出す」
「「新たな産業?」」
「それに関しては二つ案がある。成功すると思ったら教えるが心配はしないでいい」
「それを達成するには、まず!ロム、お前自身が強くなることだ。次に、ヴェイブス!これから新しくコーヒーを栽培しようとする土地を一つ預かる」
「はい!」
「お、おぉ…ようやく名前で呼んだかぁ…」
「それだけ真剣だということだ」
「アイゼンさん!いつ修行する!?」
「明日だ。時間は無駄にしたくないから」
「土地は用意するけど、何か他に必要な物はある?」
「更地にできるならそれだけでいい。ただ、水を撒いたりはするな。乾燥させるつもりでいい」
「分かった」
コーヒーの木は植えてから4~6年は収穫できるが、それを越えると味が落ちてしまうため新しく植え直す必要があるのだ。土地を休ませるためローテーションで栽培するので、畑の一つぐらいならと思ったが大丈夫そうだな。よしよし。
「あと、書類に目を通したがほとんど無視しろ。要望には一切応えるな」
「少し怖いな…」
「発展革命するつもりなんだ。これぐらいで怖がっていては持たないぞ?」
「革命、か…多分ゼンさんがいなかったら一生関わらないと思うなぁ」
「迷惑か?」
「少し」
「ヴェルと同じく躊躇いないな」
「でも、いい年して何かに挑戦できるのは嬉しい」
「…ハゲ……」
「いい空気が台無しじゃい!」
私も未知なる領域に踏み込むたため、協力してくれるのはとてもありがたい。平然と振る舞っているが不安なことも多く、ヴェイブスやロムが素直に受け入れてくれて大変心強い。
全力で取り組み、人のために頑張ろうと思ったのは何時ぶりだろうか。




