強度
「リガードゥルム。キュリームの気配を探れ」
『分かった!』
小さな呟きを拾い、リガードゥルムは脳内に言葉を返した。
思った以上に有能だ。
『ガァ!見付けた!』
「よし。よくやった」
『ご主人に送るよ』
「送る…!?」
人が放つ魔力だけでなく、周囲の建物が透過して見えるようだった。
「う、おぉ…!」
何だこの感覚は…?
「見えるものが広がるというのかだろうか。中々だが、慣れるまでは辛いな…」
日光を直視するような不快感はあるが、便利であることは確かだった。これを使ってキュリームの元まで行けばいい。
脳内で示される地図のようなものはこの近くにある城を示していた。そこに近付くと平面で表されていた地図が、その周囲だけ立体的になった。二次元から三次元に替わった地図は非常に分かりやすく、どこに何があるのかが完全に把握することができた。
シーフス・カリヴァンの城、か。
ここの…三回の部屋か。
「…リガードゥルム。キュリームの様子をもっと詳しく察知できるか?」
『グア!いけるよ。ガルファリオン・強度三』
すると、キュリームの魔力だけを感じていたのに加え、姿勢や心拍数まで把握できた。
特に問題は無さそうだった。
「ここまでとは…!」
『一つの対象の状況が完璧に把握できる、ってご主人が言ってた』
「強度三ということは、まだ上があるのか…」
この能力はとんでもない価値がある。レブーフモルゲンの奴らもこれに気付いて利用しようと考えたのかもしれないな。
「バレずに連れ帰れば問題ないだろう。よし、行くか…」
『ご主人、止まって!!』
城の塀をよじ登ろうとしたところを堪えた。
「どうした?」
『見えない魔法がそこに張られてるよ!』
「頭にはその情報は無いが?」
『ちょっと待ってて…。ガルファリオン・強度四』
一は通信。二は周辺の地理。三は単体の探知。そして、四は周囲の魔法探知。
強度が上がるとともにその効果が加わっていくようだ。
それより、
「能力が高性能すぎる……」
この能力を悪用すればどんな戦いにも確実に勝てるだろう。
私はようやく、ガルファリオンの脅威に気付いた。ただの探知だと思っていた。リガードゥルムの五感を強化する程度だとあまく見ていた。
『その魔法は風属性。すごくゆっくり流れてるから、それに合わせて動けば魔法に探知されることはないよ』
「風の速度に合わせて、か。」
柵を登りゆっくり行動していては目立ってしまう。この方法では駄目だ…。
『ガルファリオン・強度五』
今度は半径百メートル程の範囲内の人間の姿勢、呼吸、心拍数、魔力の量、さらに視線までもが把握できるようになった。
『これで隙を見付られるよ!』
「…あぁ」
私は他に何も言えなかった。
リガードゥルムの能力を借り、敷地内の侵入には成功した。問題は建物内で誰にも見つからないことだ。
しかし、建物内の人物や魔法は全て把握できているので苦労することはないだろう。
物陰に隠れながら移動し、キュリームのいる場所へ向かった。
が、
警備の巡回者が突然方向を変えてこちらに向かってきた。
今いる場所からは動けない。このままでは見付かる…!
『任せてご主人!』
私はリガードゥルムを信じ、その場で気配を消した。
あと、数メートルで見付かる。その時…。
「ん?呼んだか?」
巡回者が後ろを振り向いた。その隙を見逃さず、足早にその場から離れた。
「…強度一であいつだけに声を放ったということか」
『ガァ!』
「賢い奴だ」
『でも、これを教えてくれたのはご主人だよ?』
「う、それは…あれだ。久し振りで忘れていただけだ!」
本人と誤認しているのを忘れていた。発言には気を付けなければいけないな。
「もう少しでゴールだ。待ってろよ…」
特に危なげなく先に進み、キュリームのいる部屋の前までたどり着いた。
「リガードゥルム、強度三」
『グァ!』
「よしよし。キュリームは…無事だな」
探知したキュリームに異変は感じられなかった。
「よくやった。あとは休んででいいぞ」
『ご主人頑張れ!』
「あぁ。任せろ」
この先に罠や人の気配は感じられなかったが、用心した方が良いだろう。気を引き閉めて扉を開いた。
「……」
「ゼン!!」
「何だその格好は?」
「勝手にやられたの!!」
キュリームは普段のラフな服装ではなく、青を基調とした可愛らしいワンピースのようなものを着ていた。
「お前の力なら簡単にここから出られるだろう?」
「あの人ムカつくけど良い人だったから」
「ムカつくのに良い人?矛盾してるぞ」
「お腹いっぱい美味しいものごちそうしてもらったの!牛乳も!」
「ん?魔力も食べたのか?」
「うん!」
「…天使だと分かっていたのか」
「悩んでないで早く帰ろうよぉ」
「お前な。人間に捕らえられて怖くなかったのか?」
はぁ…。人がどれだけ大変な思いをしたと…。
「ゼンなら絶対すぐ来ると思ってたから」
「…」
「知ってるもん」
「…帰るぞ」
全く。そんな風に言われたら何も言えないではないか。
「あれぇ?照れてる?」
「…」
私はキュリームの手を引き、部屋を出た。




