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B MAIN  作者: 半半人
無名の英雄
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能力、ディック・アイアン

魔法。

人間は自然系統の火、水、土、風、雷の五属性のみに干渉できる。

天使は内面的な効果の持つ魔法を使い、悪魔は外的に作用する魔法が扱える。

 バーキンス・アイゼンが、伝言を託してから三日目。


 空を飛ぶ馬車に乗り、ヴィスティンハイムに一人の使者が来た。銀の白と鉄の黒の二色で構成された鎧を身に纏い、誰が見ても分かる高等な剣を携えた男だった。


「ゼンさん。誰か来たよ」

「予想通りだが…」


 しかも、よりによって


「貴様がバーキンスか」


 第三階申のヘイヴェンスではないか。


「あの人誰?」

「知らないのか?ゼムレヴィンの第三階申だ」

「三階申?」

「いや、何でもない」


 ここの人はコーヒーを生産することに専念させるため、周辺の情報がほとんど入ってこないようにされているは知っていた。しかし、ここまで極端だとは思っていなかった。

 それはそれで好都合ではあるが…。


「二人で話がしたい。そこのお嬢さん。案内しれくれないか?」

「は、はい」


「…ゼンさん。なんかいい人そうだよ」

「だろうな。ゼムレヴィンでの知名度は高いしな」

「知り合い?」

「初対面だ」


 ヴェルのことは置いといて、


「…何だ?」

「でかいな、と思っただけだ」


 何というか…威圧しているような。苛立ってるのか?


 店の二階に着くと、


「私の給料も上がる?」


と囁いた。


「美味いコーヒーを作ってくれるならな」



 扉を閉め、ヘイヴェンスと向き合った。



「まずは初めまして。我の名は…」

「知っている。そちらこそ、私の名前を知っているだろう?それと同じだ。で、」


 椅子に座り、出されたマグカップに手を伸ばした。


「早速本題へ」

「分かった。ならば、こちらも手短に話そう」


 ヘイヴェンスも座り、こちらを睨んだ。


「直ぐ様、ヴィスティンハイムの所有権を破棄してもらおう」

「おいおい。誰がそんなこと言った?」

「とぼけるな。貴様がわざわざ伝言を寄越しただろう」

「あれ、か」


 私は「ヴィスティンハイムに干渉するな」と言っただけだ。


 当然全ては計算なのだが、人聞きの悪い。そもそも、私はここの所有権を手に入れたわけではない。ただ、ヴェイブスに輸出を停止させることしかさせていないのだ。


 だが、バーキンス・アイゼンの名前と輸出入の停止を絡めると、


「何が目的だ?金か?今以上の待遇か?」


 当然相手は深読みする。


 『天魔大戦』を一時的に止めたわけだから。


「単純に金が欲しい。ここの人達に払う給料がな」

「貴様が払えばいいだろう」

「私はもうほとんど使いきってしまった。むしろ、低賃金で働かされている労働者に、一番輸入しているゼムレヴィンが金を払うべきじゃないのか?」

「…」

「2千万フィルを寄越せ。そしたらお前らに売ってやろう」


 この額と提案には乗ってこない。ヴィスティンハイムは皆のもの。その暗黙の了解を破ろうものは他の国に制裁を受けるからだ。


 まぁ、私個人には物理的、経済的制裁は何の意味もないが。


「冗談はこれぐらいにして、金額はそのまま。2千万フィルで破棄しよう。国一個相当の土地を2千万は安いものだろ?」

「…検討する。が」


 貴様が本物の実力者なのか試させてもらいたい。


「ここで手合わせでも?」

「いいや。ゼムレヴィンまで来てもらおう」


 おっと。これは予想外だ。


「同行を願おう」


 ヘイヴェンスは目的を正しい道筋で目指すタイプだ。こういう奴は長い話し合いや、駆け引きに向かない。こちらからの動きを変えなければ。


「いいのか?おそらく、コーヒーの供給が止まっていることは他の国も分かっている。もし、今提示した金額より高い値を出す国があったら私は当然そちらと話をするが」

「貴様から我々に話を持ちかけたのにか?」

「あぁ。今はプライドよりお金が大事だ。それより、実力者か確かめるというのは何かを私にさせるつもりか?」

「…確かに、他の国と商談を成立させてもらっては困る。ふむ。お互いが納得する方法を思い付いた」


 ヘイヴェンスは剣を抜いた。


「ここで試させてもらおう。貴様が勝てば提案を呑み、負ければ死んでもらおう」

「極端だな。断れば?」

「ゼムレヴィンで同じ事をするだけだ」

「…公開処刑よりはマシか」


 流れは変わった。が、これ以上は譲歩してくれないだろう。


「お前が攻撃する気がなくなるか、降参したら私の勝ちでいいか?」

「分かった」

「場所を変えよう。広くて、人がいない所に。その方が第三階申も楽だろ」


 お互いが国を動かすほどの存在である。それが知れ渡るのは色々不都合だ。

 未だに開拓されていない、絶好の場所があった。周囲が山と木で覆われ、草一つない広場があった。おそらく、カルデラの水が無くなったものだと思われる。


「私しか知らない場所だ。適当に始めてくれ」


 ヘイヴェンスは腰に携えた剣を構えた。


「はっ!!」


 間合いは十分にあった。しかし、一歩踏み出すと同時に振り下ろされた剣から斬撃が放たれた。咄嗟に体を捻って回避した。


「…良い剣だな」

「オーガッド鉱石の剣だ。現段階で、人間が造り出せる最高の一品だ」

「一般人に使うものではないだろ…」


 随分意気込んでるみたいだし、これは雲行きが怪しいぞ…。


「行くぞ!!」

「!!」


 今度は一気に距離を詰め、瞬く間に四撃程剣を振るった。アイゼンは横に跳ぶことでその全てを避けた。


「遅いな」

「重装備で速く動ける方がおかしい、ぞ!」


 追撃を避けつつ放ったパンチは空振りに終わった。


「動体視力や身体能力はそれなりのものだが、決定打に欠けるな」

「決定打しか放って来ない奴に言われたくないな」


 一度互いに距離を取り直し、ヘイヴェンスは攻撃体勢に、アイゼンは腰を落とし回避に徹した。おそらく、ヘイヴェンスの性格から早めに決着を着けようとするはずだ。ここは油断できない…!


 アイゼンは深く息を吸い、反応が遅れないように目を凝らした。


「歩法、蓮捻(はすひね)


 再び、凄まじい勢いで懐に潜られた。それに反応し、完璧に回避出来るはずだった…。ヘイヴェンスは距離を詰めるために使った速度を利用し、軽やかな足運びで背後に回った。


「警戒はさせた。反応できなかった貴様が悪い」



 剛剣一閃。


 今持てるだけの力を出し、胴体を両断するつもりで斬撃を放った。



 しかし、



 バキンッ!!



真っ二つなったのは剣の方だった。



「…私が力を出さなかった理由。その一、ただ単に見せたくないから。その二、オーガッド鉱石の剣は相当の高価なものだ。出来れば折りたくはなかった」


 能力、ディック・アイアン。


 体表はもちろん、体内も金属以上の硬度に出来る“天使系統”の能力である。


「…思ったより硬度を上げすぎたか」


 落ちている剣の半分を拾い上げ、粉々に握り潰した。


「続けるか?」


 殴りかかってきたヘイヴェンスの攻撃を全て避け、腹のど真ん中に強烈な一撃を食らわせた。



 当然、その一撃で十分である。




「しまった……あの空飛ぶ馬車。どうすればいいんだ…?」



 私はヘイヴェンスと馬車を引き連れ、ヴェルの店に戻った。



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