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B MAIN  作者: 半半人
グレン・シギア編
24/173

自由から始まる

 久しくゼムレヴィンの法廷に立った私には余裕しかなかった。グレン・シギアの騒動は地下に隠された兵器が誤作動が原因となり、その一件を私が解決したということになっているのだから。


「バーキンス・アイゼンを特例として罪についての一切を免除する。異議のあるもの」


 裁判長の投げ掛けには誰も答えなかった。


 ようやく世間体は守られ、出所することも認められたわけだが私にとってはそれで十分だった。


 一礼して法廷から退出し、唯一の殺意の対象の元へ向かった。


「…完敗ですよ」

「あぁ。今ここで殴り殺すこともできるが、その前に貸しを返してもらおう」


 事前に書いておいた紙をレナードに渡した。


「はぁ。もう気付いてるみたいだから言いますけど、予想外でしたよ。支配下に置ければ良し、連行されても良しだったんですけどね」


 その点の抜かりの無さには本当に頭が下がる。陥れることに関しては手を抜かないその姿勢は度を越えて陰湿であった。


「ロッドールなら上手くやると思ってたましたが…いや、あなたが予想以上だったということですね。はい、諦めます」


 紙を受け取りそそくさと立ち去るレナードを見送り、私は外に出た。



「アイゼン!!」



 中間職の馬車に乗せてもらおうか悩んでいるとき、シナから呼び止められた。

 グレン・シギアに連れていかれるきっかけになった人物ではあるが怒りはなかった。


「あー…謝るつもりなら別にいい。お前にも色々とあるんだろう?そこについて触れるつもりはないし、私は早く一息着きたいんだ」


 本音であり、正論であると思ったが、


「何で怒らないの?私は貴方に酷いことをしたのに…何で?」


 質問の意味が理解できなかった。


 シナの立場上の問題であり、怒りとは全くの無縁のものである。シナは職務を全うしただけであり、仕方のないことだと私は受け止めているのだ。私でもそうしただろうし、何故と言われても答えようがない。


「さっき言った通りだ」

「皮肉のつもり?」

「簡単に言うと、お前たちとは思考が違うだけだ。雨が降ることに対して怒るか?それと同じだ」

「…」

「何も悪いことだけではないし、こうして解決したんだ。不満や怒りなどあるものか」


 それでも納得しない様子を見せたので私は呆れてそれ以上何も言わず、その場を去った。損得で考えれば私は得をしたというのだから気にする必要はない。

 途中でレナードからいくつかの物を受け取り、ゼムレヴィン郊外で身を潜めるリガードゥルムの元へ向かった。


「リガードゥルム。ヴィスティンハイムまで頼む」

「ンガァ!…どっち?」

「ふっ。あっちだ」


 リガードゥルムは指差した方向に高速で駆け出した。

 途中の山を飛び越え、高原を疾走するリガードゥルムのおかげで一日と掛からずに帰ることができた。


「お前…凄いな……」

「久し振りで嬉しくて…えへへ」


 決めた。この子は家に連れて帰る。誰が何と言おうと、絶対に。


 だが!




 その前に!





 すべきことがある!!




「リガードゥルム。ここで大人しく待っているんだぞ。すぐに戻る」


 ここを離れて何週間が過ぎたのかは分からない。そして、その期間何度も欲していたものがようやく手に入る。


「ヴェル!!」

「ひゃい!?」


 突然の訪問に驚いているのはさておき。カウンター席に腰を下ろし、


「いつもの。大至急だ…っ!」

「は、はい」


 気迫の籠った眼差しからただならぬ事情を察したヴェルは急いでコーヒーの用意をした。


「…お待たせしました!」


 急ぎながらもしっかりと丁寧な工程を踏んだコーヒーだということがよく分かる。見た目と香りで瞬時に悟った。これだ、と。


 一口。


 すると駆け巡る電流。焙煎による芳ばしさと苦味が口内で広がり、鼻を抜ける感覚が素晴らしい。一思いに飲み込んだ後もコーヒーの旨味が舌に残るのが更に良い。まさに嗜好品の生み出す、至高の逸品。


「…最高だ……」


 あまりの味の良さに放心してしまった。

 口に含んだ時、舌に触れた時、喉を通る時、それぞれで感じた衝撃を自身の中で反芻し堪能した。


「ヴェル。お前は私にとっての宝だ」

「え!?何急に!?気持ち悪い…」

「その腕前を誇れ。そして、このコーヒーを毎日私に入れてくれ…」

「…え?」


 そこでようやく自分が冷静でないと自覚した。


「…ごほん。要するに毎日飲んでも飽きないということだ」

「あ!あぁ…そういうことね」


 残りを味わいながら飲み干し、リガードゥルムの元へ戻ろうとした。


「ゼンさんさ。最近来なかったけど、色々忙しいの?」


 ヴェルに呼び止められた。


「そうだな。様々な国を転々としている」


 情報が遅れてるとはいえ、人間界最大の刑務所に入っていたとは言えなかった。


「いいなぁ。今度、私も連れてってよ」

「そうだな……。いつもの礼も兼ねて、約束しよう。希望はあるか?」

「水上都市のフリッドフランがいい!」

「お、おぉ」


 嬉しさを露にしてくれるのは良いが、フリッドフランは今は天使領が近く冷戦状態であるとか…。


 詳しくは分からないが、情報は集めておくか。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 これからのことを考えて帰路に付いた。


◇◇◇◇◇


「ご主人、こんな家始めて見たよ…」

「亡国の技術の建造物らしい。私も詳しくは知らないが」


 大きな川の側に立つ、四階建てが私の家だ。


「リガードゥルム。悪いが、そのうちに小屋……いや、もう一件近くに造るから、それまでは外で寝てくれ…」

「グァ」

「すまないなぁ…」


 背負わせていた荷物を下ろし、玄関を開けた。


 すると、


「おかえりゼン!!」

「うぷっ!」


 ほぼ同時に飛び出してきた幼女が顔面に抱き付いてきた。


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