ゼムレヴィン国務第一階申
階申。
政治、軍治に干渉できる人物に与えられた名称。一から四まで存在し、それぞれの得意とする分野がある。
隣国、ハインシスの暴動を抑えて間もなく。様々な事件が各地で起こった。
人間と相反する、天使と悪魔の縄張り争いの巻き込まれてしまっている今、人間の領地をいかに守るかに頭を悩ませていた。国内部のことは公にせずに解決したい。しかし、それと同時に天使と悪魔の侵攻にも集中しなければいけない。
ゼムレヴィンの王は四階申までも集め、最善の解決策を模索していた。
「昔に比べ大分落ち着いた方ではあるが、このままでは国民が危うい。なんとかならんか?」
王直々に話すことは滅多にない。それほどに切り詰められた状況であることを暗に物語っていた。
「今は軍の最大戦力である魔法騎士団を最前へ、時間を稼いでいる間に兵器を用いて撃退するのが無難かと」
先に口を開いたのは。第三階申、ヘイヴェンス。
軍の育成に力を注ぎながらも現役にも劣らぬ戦術、戦闘技術を持つ武人である。最年長であるがゆえに三階申ながらも国民からの支持は厚い。
それに対し、
「奴等の度肝を抜くって発想で、国ごと宙に浮かすのはどうですか?今の魔法技術ならほぼ、半永久的に可能なのかな?高いところに陣地があると、戦いは有利ですし」
奇抜な案をさらりと言い放つ。第四階申、ケイニー。
魔法と技術の両方に精通し、発展させてきた研究者である。劣勢を優勢に、不可能を可能に、ヘイヴェンスとは違う形で国に貢献している。
反対に、
「今回は負けてもいいじゃない?まぁ、本当に負ける訳じゃないけど。相手の攻撃手段、戦法、弾数が知れれば元は取れるでしょ」
独特な切り口で話し出す。第二階申、シナ・ハンク。
唯一の女性にして、予測をすることに長けた狩人である。元猟師ということもあり、自然、政治、生物等の独特の流れを読み取り次に起こることをほぼ的中させる。あまり、公には出ないが数々の功績を挙げ、身内では最も優れた階申と言われいる。
そして、全階申と王を含め、国政に関わる主要人物が注目を集める中。
「あー。僕は皆さんと同じ意見です」
第一階申、レナード。
最もやる気のない男である。
「あ、でも。ヘイヴェンスさんの案は魔法騎士団を誘き寄せた後、一網打尽にしてから兵器を奪われたら終わりですよね?ケイニーさんの案は一番危険が少ないようですが、物質補給とか大変ですよね?シナさんのはまぁまぁアリですけど…。本音は無傷で完全勝利が望ましのでは?」
長机に突っ伏したまま腑抜けた声で正論を放つレナードに怒り混じりの視線が集まった。
「第一階申様は何も案がないんですか?」
ケイニーが鼻で笑いながらレナードに呼び掛けた。全員が思っていることを代弁したケイニーは対話という立場では上に立っていた。階級とは違う、発言力の強さとも言うべきもので。
「言ったじゃないですか。皆さんの意見が良かったので、僕は特に言うことなしってことで」
「貴様はふざけているのか?我々の提案を否定していながらその発言は何なのだ?」
ヘイヴェンスが勢いよく席を立ち声を張った。
「私は第一階申の貴方の意見に興味があるんだけどなぁ」
シナは皮肉を混ぜながらレナードが何かを言うことに言葉通り期待していた。
明らかに多勢に無勢。国の在り方に誠実に話し合っているというのに、一向に態度を改めないレナードに全員が不満を抱き、この場で権限を剥奪されること願った。
ただ、一人を除いて。
「じゃあ、職務を全うするという意味で。まず、魔法騎士団は自国ゼムレヴィンの守衛に専念。援護、治療がしやすいから、大事に育てた兵士が死ぬ可能性はかなり低くなる」
「それなら」
レナードの続きを遮り、シナが割り込んだ。
が、
「黙って聞けよ」
顔を上げたレナードの声が冷たく響いた。感情の込められていないその一言がやけに、強い意味を含んでいた。
「正直に言うと、全員足らないんですよ。本当に国のため、勝利のためと思っているなら、お前らの首も差し出してください」
まさに一瞬。言い終わると同時にレナードの首元にヘイヴェンスの切っ先が突き付けられた。
「貴様は兵士の命の重さを考えたことはあるか?もし、この剣で首を跳ねてしまったとしても先ほどのことは言えるのか?」
「死人に口無し。言えませんよ。あと、」
「黙って聞けって言いましたよね?」
レナードが一歩踏み出す。危険を察知するものの、それよりも早い一手がヘイヴェンスを襲った。
腕を抑えながら膝を着くヘイヴェンスを見下ろし、レナードは再び口を開いた。
「天使と悪魔をハインシスに誘導します」
レナードが言うには、ハインシスを天使と悪魔に襲わせることで一時的に暴動から注意を逸らす。そこにゼムレヴィンが助けに向かえば、恩を感じて大人しくなる。上手くいく可能性はそこそこ。
という案だった。
「助けに向かう兵士には浮遊魔法を使い、機動力と数でなんとかなるでしょう」
話終わるも、誰も発言しなかった。
レナードは他の三人と、勝利の定義が全く異なっていた。ありえない非人道的、かつ、下劣なものがレナード勝ち方だった。
そして、確実に勝ちを得ることの出来るレナードを、王だけは支持していた。
「じゃ、あとはよろしく頼みます。前線とか、鼓舞とは僕の仕事じゃありませんしね」
頬杖を突き、会議を終了させようとしたところ。
勢いよく大臣が入ってきた。
「大変です!!ヴィスティンハイムからの輸出が完全に止まりました!」
「そんな慌てることじゃ…」
「…バーキンス・アイゼンが関わっているそうです」
誰もが口を閉ざす中、
「あ、僕は関わりたくないので皆さん頼みます」
レナードの籠った声だけが全員の耳に届いた。