名ばかりの刑務所
グレン・シギア
人間界最大の刑務所であり、監獄ではない。
施設名である。管理しているのは“レブーフモルゲ”ンという国である
最悪だ。
「あぁ、オレっち。ロッドール・ヴェーメンっていうんだ。よろしくっ」
ここのコーヒーは泥水だ…。
「何の罪で捕まったって?うーん、それは秘密ってやつさ。聞いたらドン引きするぜ」
配給される食事は冷たくて不味い。
「なぁなぁ?聞いてる?」
そして何より、
「あぁ、聞いてる聞いてる」
相部屋のこいつがうるさい。
「だったらさ、もっとこう。ガッと話に食いつくような…」
「すまないが私は今、考え事をしているんだ。少し、ほんの少し声の大きさを下げてくれ」
「…分かった!」
何も分かってないだろ。脳の機能に不具合が生じているのではないか?暴力的な奴よりはありがたいが、それとは異なる問題に頭を悩ませていた。
「…なあ、落ち着いて聞いてくれ」
「その前に、あんたの名前は?」
「……ゼンだ」
面倒なので愛称を名乗ることにした。
「よろしく。で、聞きたいことってなんだ?」
「お前はどれぐらいの期間ここにいる?」
「一年半ぐらいかなぁ?だいたいそんなもん」
「そうか。その、なんだ。今日からここで過ごすわけだから、色々と教えてもらえるとありがたい」
「おう!任せとけ!」
まずは基盤を作らなければ。何をするにも環境を整え、慣れることから始めなければいけない。脱獄や刑期を全うするなどは後からなんとでもできるのだから。
「飲食は分かったから、この施設内のルールや囚人内のルールなど覚えておいた方がいいことを教えてくれ」
「オッケイ、オッケイ。適当に案内しながら教えるよ」
「助かるよ。ありがとう」
「いえいえ!」
ロッドールいわく、この施設内で守らなければいけないことが三つある。一つは時間厳守の行動。一つは労働があること。最後に魔力を採取されること。それ以外は基本自由となっている。だが、ある程度の規則を守らない者はそれなりの処罰を受けるという。
「意外と緩いんだな」
「そんなことないよ。労働は辛いし、人間関係は難しいしでホント大変!」
「施設内の過ごし方はどうだ?こいつに気を付けろとか、そういたものは?」
「大人しくしていれば大丈夫。ただ、この施設内の囚人は2百人。その中でも特に危ないのは2人いるから」
「2人か…」
とりあえず、その2人と会うことに決めた。最大最凶の刑務所に来たのも何かの縁かもしれない。せっかくの機会だ、利用させてもらおう。
「そいつらのことは把握できているか?」
「もちろん。なんなら合わせてやろうか?」
「お前の方がよっぽど危ない気がしてきたよ」
そして、その日は何もせずに終わった。
◇◇◇◇◇
刑務所生活二日目。
起床後、食事堂で貰った給食をロッドールと食べた。
「新人を虐げる展開が待っていると思っていたが、一向にそんな気配がないな」
「看守がすぐに駆け付けるからね。素手対武器じゃ負けるに決まってるし」
早々に危険な奴らに会えることを期待していたが、そうもいかないようだ。
「囚人同士の殴り合いに期待しているなら」
ロッドールは中庭を指さした。
「スポーツの一つとしてやってるよ」
運動としての闘いは認められているということか。
「…おかしい。ここまで新人を痛めつけるのに適した環境があるというのに……」
「何?ドMなの?」
食事を済ませた後は順番で魔力採取がある。特殊な腕輪を通して魔力を吸い上げるものだという。
「これは…」
実際にそれを見て分かった。魔法が使えない普通の人間にも魔力は内蔵している。それを資源として利用しようということだろう。
「これは、ケイニーが作った物らしいよ。なんでも魔力を見えるようにして、エネルギーに変換するんだって」
「詳しいんだな」
「一年半もいるしね」
魔力は血液と違い無くなっても害はない。ただ魔法が使えなくなるだけなので痛みや疲労感もない。時間が経てば自然回復するし、食事や睡眠で大きく回復量を上げることもできる。この最悪の刑務所を魔力生産工場として利用できているという点に私は驚いた。だが、これを考えたのはおそらくレナードだろう。非人道的な意図が見え隠れしているのだから。
腕輪をしてから数分でその作業は終わった。減った魔力も大した量ではない。が、毎日2百人から集めるとしたら莫大なものになるだろう。
起床、就寝、食事、入浴以外は自由なのでロッドールに施設内を案内してもらっていた。
「ここは図書館。暇ならここで時間を潰せるよ」
「これは…本当にありがたい」
普段の生活の一部に読書があるため、本があることは嬉しかった。
「次は医療室…」
私は施設内を見回ると同時に人間観察も行っていた。ここにいる囚人の全員が大人しい。ロッドールが案内する先々に凶悪な囚人がいるにも関わらず、面倒事になることは一度もなかった。
それだけ看守の管理能力がしっかりしているということなのか?謎の違和感を抱いたまま、次の日を迎えた。




