画策
アイゼンとマファリスはノーリア達がいる中央へ向かった。天使と悪魔が混戦し、その場に戦闘の陣を展開するだろうと予想した。だが、実際は違った。悪魔の遠距離攻撃を警戒してか、天使も様子を見るように距離を取っていた。それにより、中央での混線は無く、小規模であった。
そこに着いたアイゼンはノーリア達を探した。が、見付からなかった。撤退の合図は無かった。そこで最悪の事態を想像した。
「…無理だ」
魔力の残量は少なく、周囲を囲まれた状況。現れるディック達を抱えて逃げ切れる可能性は皆無だった。さらに、計算ではあと二時間後に封印が解ける。それまでこの場に留まるのも危険すぎる。
「身を潜めて様子を見る。もし、敵に見付かるようであれば私と反対の方向へ走れ」
「自分を囮に妾を逃がす、というのか?」
「自己犠牲のつもりはない。二手に別れて逃げた方が生き残りやすいからだ」
「やっと来た…探したよ」
「待て。マファリス。判断が早いぞ。どうしてお前がここにいる?」
アイゼン達の前に現れたのはピリアルトだった。その顔には焦りが見られた。
「説明はするから。今はボクを信じてほしい」
「…マファリス。先に行け」
「断る」
側に立つマファリスはアイゼンの裾を掴んだ。
「さっさと行け」
アイゼンはマファリスを押した。それに合わせピリアルトは能力を発動し、二人は姿を消した。
「…一人になるのを待っていたのなら、私も見逃してくれないか?」
「どうしよっかなぁー」
口ではそう言いながらも敵意を感じない悪魔にアイゼンは警戒した。
対し、カーナはこの場にいる人間が只者ではないことに気付いていた。だが、戦闘になれば押さえ付けているドーネルを逃がしかねないと考えた。それよりも、兄の言いつけを破ろうか迷った。そこで、会話で情報を探った。変なことになっても仲間には黙っておけばいい。
「ねー、何でここにいるの?人間がいる場所じゃないよね?」
「…」
能力を発動させず、沈黙することがアイゼンには最善手だった。あちらが仕掛けてから対応すればいいだけのことであった。
「領主誰?」
カーナは考えを改めていた。
ここに人間がいるわけないか。さっきの天使っぽいのはスパイしてた女の子を拾いにいったのかな?天使の変装か、悪魔の幻覚か。どっちにしても、悪魔ならスルー。天使か、答えが無ければ敵と思えばいいや。それに、人間にしては堂々としているというか、ベテラン感があるというか。戦いに慣れている感じが、どーも人間らしくない。
その考えにアイゼンは気付いた。相手は敵意が無いのではなく、敵かどうかを判断している最中であるということに。
このまま無言でいるのは危険だ。嘘でも味方であることを告げるか…。いや、あちらも迷っているはずだ。時間を稼ぐためにここは大きな嘘を吐こう。
「私は天元界、ボルート領の使いの者だ。そちらに捕まっている人質の交換に来た」
「あ、そーなんだ。大変だね」
納得したカーナはそれ以上追求してこなかった。しばらくしてピリアルトが戻って来た。
「…どういう状況なんだい、これは?」
「簡単に言うと、上手く騙せた」
小声で会話する二人はカーナを見た。
「何!私も同席しろと!」
「あ、あぁ」
「では、私を案内してくれ」
「あ、あぁ」
カーナに聞こえるように芝居をし、ピリアルトはアイゼンを連れて能力を発動した。
二人の姿が消えて数分。色々と考えていたカーナが突然閃いた。
あれ?人質交換で天使と悪魔がいたのは分かったけど、なんで人間の姿になってたんだろ?悪魔に化けてればバレなかったのに……。
「あぁ!騙されたーー!」
◇◇◇◇◇
ピリアルトに連れられ、アイゼン達は全員撤退し集合した。
「…領主であるボルートもいるのか。ピリアルト、どういうことか分かっているのか?この行動が何の根拠もなく、軽率なものならただでは済まないぞ」
「分かってるよ。でも、多分。いや、絶対にそうなんだ」
ディック達が現れるのは今日じゃない。
「おいおい。アイゼン、お前の計算ミスか?」
「そんなことはない。現に天使と悪魔も今日を狙って戦っているじゃないか」
「まぁ、そうだよなぁ」
「今日はただの消耗戦なんだ。天使は分からないけど、悪魔はそのつもりだよ。遠距離から攻撃なんて、拐う気がないと一緒でしょ?」
「それで、お前がそう思った理由は何だ」
「さっきまでボクは悪魔の小隊を相手にしてた。数は覚えてないけどたくさん戦ったよ。それで、悪魔には所属ごとにシンボルがあるのが分かった。バッチだったり、腕章だったり、どの領主の下にいるか分かる物が必ずあるんだ。でも、一つだけ。戦いに一切参加してないとこがあったんだ。それが、アキュエル領だった」
アキュエルの能力は、ロディから貰った情報には含まれていなかった。時間を掛け、情報を集めたが最後まで何も分からなかった。
何か細工を施した後だというなら。ピリアルトの判断が後日、正しかったと分かる。




