弐の衣
サイリスとイーリスと交戦を始め約二十分。アイゼンの傷は増すばかりだった。イーリスが攻撃に専念したのが非常に厄介であった。
戦闘経験が多く、攻撃に多くの駆け引きのあるサイリス。対して、若さゆえの勢いに任せた激しい連撃を繰り出すイーリス。どちらも手強く、連携により一切の隙が無い。
一点硬化を解き、全身の硬度を高めることで致命傷を免れていた。だが、それも時間の問題だった。
「…はっ…はっ……限界だ…」
硬化を保つのも、集中力も。
「貴方らしくない。何か企んでいるの?」
「いいや。この通りだ」
アイゼンは能力を解いた。
まさか初戦でこの二人に会うとは。大きな誤算だった。強者である二人を相手にしここまで粘れたことには満足している。
「イーリス。前に言っていたろ。一太刀で楽にしてくれ」
「…ええ」
サイリスは呆れたが、その不安は自分で拭えばいいと考え直した。二人は構え、アイゼンの首を狙い振り切った。
影で見ていたマファリスは唖然とした。最強と言っても過言ではない二人を相手に能力を解くなんて馬鹿げている。だが、それは全て思考あって行動であることはマファリスは知っていた。そして、その魅力の虜になっていた。
「お前たち二人からは共通して学んだことがある」
仲間の強さに。
首に出来た新しい二つの傷を撫でながらアイゼンは笑った。
何が起こったか理解できなサイリスとイーリスは自身の武器を見た。そして、さらに謎が深まる。
刀身が…折れている……?
アイゼンは何もしていない。攻撃がアイゼンの肉を切れずに折れたとでもいうのか。
「銀姫の鉄刀。それは刀剣装備時に自身の身体能力を大幅に強化し、装備した刀剣の性能を向上させる。その種は割れた」
能力に関係するものを破壊すれば無力化できるということだ。そして、それを可能にできると信じてマファリスと行動を共にした。
「もういいぞ」
「…お主は無事か?」
「あぁ。お前のおかげで助かった」
「何と…勿体ない…っ!」
「何…を……」
武器を破壊されたイーリスとサイリスは予備の短剣、短刀に手を伸ばしたが何故か動けなくなった。
「気付いてももう遅い。マファリス、説明してやれ」
能力、三之重羽織。
マファリスの能力は毒である。そして、それは能力の名前にあるように三つの段階がある。
壱の衣。これは自身を毒に変える。毒は遅効毒、即効毒、致死毒、神経毒など自由自在である。
弐の衣。今回の戦闘ではこちらを使用した。
簡潔に言うと自身の毒の濃度を上げ、周囲を毒に侵す。
マファリスは身を潜め、アイゼンが合図を送った後に金属を腐食する毒を散布した。人体に影響は無く、気付くことはない。
アイゼンはイーリスがマファリスの能力に気付くことがないように攻撃に転じるのを待った。そして、毒が完全に刀剣を蝕むまで時間を稼いだ。
最後にマファリスの麻痺毒で二人の動きを封じて今に至る。
「質問には答えない。といっても麻痺して口も開かないだろう」
「では、この二人は捕虜にする」
アイゼンは毒の影響を受けないことには理由がある。アイゼンはディックの無敵の一部を有しているため、毒や精神的な攻撃が効きにくい、もしくは効かないのである。
「待て。サイリスには参の衣を発動し、イーリスは人質としよう」
「承知した」
マファリスはアイゼンの指示に従い、先にイーリスに触れて無力化した。
「次はお主じゃ」
「…マファリス!!」
アイゼンは殺気を感じマファリスを突き放した。
「クソ野郎。前の続きやろうや」
「…ジェネックス……っ!」
ジェネックス領の領主は前線の異変に気付き、急いでこの場に駆け付けた。勘での動きだったがジェネックスの行動は正しかったといえる。アイゼンとマファリスを狙った炎は当たらなかったがサイリスとイーリスから離すことには成功した。
「さっさとガキ連れて逃げな」
「…う……」
「あぁん?何つったんてんだ、よ!」
反撃を試みるアイゼンを突き飛ばし、周囲を炎で囲った。
「守りは苦手なんだけどよ。あんたは特別だぜ」
ジェネックスは口が悪く戦闘狂である。だが、同じ天使で強い者は尊敬し憧れていた。ディックしかり、サイリスしかり。その点、人間でありながら強いアイゼンは何故か気に入らなかった。
「何でかな。万全のてめぇと戦いたかったが…殺せんなら関係ねぇか!!」
能力、ラフイゴの炎拳!!
全身に炎を纏い、ジェネックスは笑った。
「マファリス!」
「…駄目じゃ。炎で到達する前に燃え尽きてしまう」
「やるしかない、というわけか」
能力、ディック・アイアン。
「いくぜ」
炎を纏った回し蹴りがアイゼンを掠めた。
「上手く躱すじゃねぇか。次、いくぜ!」
ジェネックスは炎の蹴りと殴打の連撃を繰り出した。
能力、グラビトン。
「悪いな。お前を相手にする気は最初から無い」
アイゼンは正面に迫るジェネックスの最大の重力を残し、マファリスと共にその場から退散した。




