隠れた中央前線
月日が流れ、備えを終わらせた頃。封印の解ける日がやって来た。
それぞれが手を組んだとはいえ手柄の取り合いとなることは明らかだった。そのため天使側と悪魔側は最初は睨み合いによる硬直状態が続いていた。そしてそれは少数であるアイゼン達には好都合であった。それぞれが所定の位置に行くよりも早く、
「つーいーたー!」
レニアを抱えたノーリアが着いていた。
そこで身を潜め封印が解けると同時に全員を攫う算段だったが、二人の悪魔が待ち構えていた。
「天使か。排除する」
魔人界、タリエット領所属、ワン・ツアン。
「マジか~。せっかく可愛いのに戦わなきゃいけないのかよ」
同じくタリエット領所属、ファース。
「無駄口を叩いてる間に二人を殺す」
「待て待て~。片方はくれよ」
「黙るなら許す」
「んじゃ、大人しそうでかわいらしい子を」
ファースはレニアと、
「元気そう子はあげるよ」
「…まぁ、いいか」
ツアンはノーリアと向き合った。
能力、破弾。
ツアンが手の平を向け、ノーリアに圧縮した魔力の塊を放った。高速で射出された小さな弾は触れたものを吹き飛ばしながら進んでいった。
「消し飛んだか」
「飛んでませーん」
「!」
能力、ラピッド・ランナー。
ノーリアは能力により攻撃を避け、ツアンの隣に移動していた。
「どんな能力かは知らないが、当たるまで繰り返すだけだ」
ツアンの能力は銃弾と大砲の二つの性質を持つ。大砲の持つ威力を、銃弾の大きさと速さで打ち出すことができる。そして、その銃口は掌に当たるが、
「ここまで近付けばどうだ?」
接近し、ノーリアに掴み掛かった状態からの零距離射撃を行えばいくら速く移動できようが関係ない。胴体を狙った二発目が放たれた。
しかし、その魔力の塊はあらぬ方向へと飛んでいった。そして、ツアンの右腕に激痛が走った。思わず飛び退き、腕を確認した。骨が折れていることは明らかだった。追撃を恐れ、左腕を突き出しノーリアを睨んだ。戦況はノーリアに傾いていた。
一方で、レニアとファースはまだ動き出してすらいなかった。ファースに関しては影草を咥えていた。
「君、名前は?」
「…」
「恥ずかしがり屋かな?ま、そんなところもいいんだけどさ。お願いなんだけど、ここから逃げてくんない?」
レニアはファースが何を考えているのか全く分からなかった。
「うちらさ、ここに誰も近付かないように言われてさ。正直戦う気はサラサラないし、逃げても追う気ゼロだから。お互い嫌な思いしなくて済むだろ?」
「…」
レニアは首を横に振った。アイゼンの指示を聞かなければと思った。
「駄目かぁ…じゃあ、しょうがない」
能力、イブラス。
ファースの足元に周囲の影が集まり、人形に形成した。
「面白くない?何か子供の頃の遊び相手の弟に似ててさ。でも、病気で死んでさ。だから、能力名は弟の名前にした…」
「…」
「何でこの話をしたかって?それは、その、なんというかさ。死んだ弟の遊び相手になってあげてほしいなぁ、なんて」
そこまで話すとファースの雰囲気が変わった。悲しそうな顔で影を散らした。そしてその形状を刃物に変え、レニアに飛ばした。
能力、デスニベル。
しかし、攻撃は全て外れた。ザックの能力によって。
「…どっから出てきた?」
「さぁな。でも、おめぇの遊び相手にはなってやるぜ」
ファースは影を剣の形に変え、横に凪ぎ払った。
「当たんねぇよ」
「どうなってる…?」
「それはこっちの台詞だぜ。影が自由に動いて面白れぇな」
攻撃が通じないと分かったファースは再びレニアに影を向けた。
「おめぇ言ったよな?逃げても追わない、って」
レニアはすでにファースの能力が届く距離から逃れていた。
「で、続けるか?」
ザックは繰り出される攻撃を全て逸らした。
「当たんねぇって言ってんだろ。言葉通じるか?それともゆっくり話すか?」
「逆に聞くけど何で悪魔のあんたがうちらと戦うんだ?手柄が欲しいのか?」
「手柄?んなもんいらねぇよ。おれぁ、認めてくれた仲間のために動くだけだ」
「…そっか。じゃあ、うちも仲間を信じてみるか」
「!!」
ザックは能力の範囲内に入った異物の存在を感じ、急いでしゃがんだ。すると、頭上を光線が掠めた。更に地面に当たって反射した。
「っぶねぇな!!」
「で、あんたはどうするんだ?逃げるなら追わないよ」
「はっ、冗談だろ?」
ザックは能力を全開にした。
ザックの能力は自分を中心とした範囲内にのみ効果がある。言い換えれば範囲外からの攻撃には遅れて反応することになる。目の前の敵に集中していたため、ザックの反応は更に遅れた。
「急いでくれよ…ピリアルト」




